第1話 時間はない

遅い。全く起きる気配が無い。

さすがに今日くらいは、と思ったけど、僕の過信だったみたいだ。


今日はエルナード魔法学園の始業式。さすがに今日くらいは遅刻を免れたい。


「リーセル、今日始業式。午後は国の魔法部省特別会議。さすがに遅刻10連発は免れたいんだけど」

「今日始業式なんてあったかの」

「何言ってんの。リーセル、新入生への挨拶もあったでしょ?」


ああ駄目だ。案の定、在校生挨拶のことまで頭から抜けてる。


「とにかく着替えて。とりあえず行かないとリーセルの名前の箔がいい加減下がるよ」


ゆるめの口調で叱っている理由は、以前僕がキレた際に、寝起きで機嫌の悪いリーセルにぶん殴られた経験があるからだ。


「あと、今日は帽子も忘れないで。だから髪は下ろしたままで大丈夫で、持ち物は・・」

「リンは私の先生かっ、っと」

「今そんなボケは求めてないから。ほら顔洗ってきて」


はあ、朝は毎日こんな調子だ。これが学校の首席とは恐ろしい。

当の本人はというと朝にしては珍しく上機嫌に一階へと駆け下りていく。


その他にもいくつかやることをこなしてから、ようやく制服に袖を通し始める。

エル学の制服はかなりの種類がある。カスタム出来るらしい。

少しロリータに走ったようなジャンルをこの子が好むからか、クローゼットにはなかなかの量の服が掛けられている。


「リンー。リーセル、着替えかんりょーじゃぞっ」

「はい、じゃあもう行ける?荷物は昨日準備したしね」

「しゅっぱーつしんこーう!」


見た目を裏切らない、子供らしい口調で出発の号令を掛けるその様子は、僕から見てもかわいらしいものだ。やはりこれが学校の首席とは恐ろしい。



そして小さな少女は、飛び降りた。その先は、ドアではなかった。

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