96 大ムカデの最後
大鷲は大きく羽ばたいて風を起こすと、空を覆うシダを押しのけて飛び上がった。
大鷲は大きく爪を広げ、宙に向かって伸び上がっている大ムカデの頭を狙う。
次の瞬間、まるで落ちるような速さで大ムカデに向かってゆく。大きな鉤爪で大ムカデの頭を掴むと、そのまま地面に押さえ込む。大ムカデの長い体が激しく波打って、地面の上をのたうち回る。
もう一匹の大ムカデが、大鷲めがけて大きく顎を開いた。鋭い鋏のような顎が、うねる大ムカデの体を乗り越えて迫ってくる。
それよりも早く、大鷲は飛び立った。足には大ムカデの頭を掴まえたまま。大ムカデの長い体がびちびちと跳ねる。無数の足が地面を求めてざわざわと動く。大ムカデの長い体がうねるたび、大鷲はそれに振り回されてバランスを崩した。
リオンは振り落とされないように、大鷲の背中にしがみついていた。足首の痛みは相変わらず体を突き抜けてゆく。思考を揺さぶる痛みに歯を食いしばって耐え、大鷲を操り続ける。
大鷲は、また激しく地面に向かって落ちていった。掴んでいる大ムカデの体を地面に叩きつける。びたん、と長い体が伸びるとまた飛び上がり、地面へ急降下する。
もう一匹の大ムカデは大鷲が降りてきたタイミングを狙うが、鉤爪に掴まれている大ムカデの体が振り回され、邪魔になって近づけないでいた。
何度か繰り返すうちに、大鷲にぶら下げられた大ムカデの体はひくひくと震えるばかりになった。足がわずかにもがいているが、もう反射だけで動いているようだった。
(もう少しだ!)
リオンは勝利を確信する。油断してはいけないと思いつつも、散々苦しめられた大ムカデをなんとかできるという状況は、大きな安堵になった。
大鷲は、その鉤爪に力を込める。鋭い爪が大ムカデの頸に食い込む。インクのような黒い液体が流れ出す。液体はぼたり、と地面に落ちてゆく。
大ムカデはやがて、びくりと体を震わせて、ぼんやり光りはじめた。そして、小さな
(まずは一匹だ)
リオンは大鷲の背にしがみついて、もう一匹の大ムカデを見下ろした。
(できれば壊さずに
残る一匹の大ムカデは、不利な状況を感じたのか、体を曲げて薄暗い洞窟に向かいだす。
洞窟に逃げ込まれたら、
「させるか!」
リオンは大鷲を先回りさせた。洞窟の入り口を塞ぐ位置に降り立って、翼を大きく羽ばたかせる。巻き起こる風になぶられて、シダが葉を落とす。
風に煽られて、大ムカデは地面にしがみつくように動きを止めた。あるいは進行方向に現れた大鷲に、判断を迷ったのかもしれない。
大鷲が再び飛び上がる。大ムカデは手近なシダの茂みの中に潜り込む。
「追え!」
リオンの声に、大鷲はざわざわと揺れるシダの茂みに向かって突っ込んでゆく。大鷲が生み出す風が、シダを掻き分ける。その向こうに大ムカデの長い体が見える。
大鷲の鉤爪が大ムカデの頭を捉えようとするが、大ムカデは体をくねらせてそれをかわした。鉤爪に引っかかったシダが宙を舞う。
茂みの中で大ムカデは体を大きくうねらせる。そのまま洞窟に向かって進もうとする。
リオンは洞窟に逃げ込まれるのを阻止しようと、大鷲の爪で何度も何度も大ムカデの頭を捉えようとした。シダの葉が吹き荒れる風で、高く高く舞い上がる。
(出てきた瞬間を狙うしかないか。失敗したら洞窟に逃げ込まれる)
大鷲は体を持ち上げ、地面から少し距離をとる。シダの茂みから洞窟の入り口までのわずかな瞬間を狙って、空中で獲物を待ち構える。地表ではシダの葉がざわざわと揺れている。その揺れから、リオンは大ムカデの位置を想像する。
(まだ早い、もう少し……)
じりじりと気持ちは焦る。気が急いてすぐに動きたくなる。それでもリオンは待った。獲物を待つ目で、じっと地上を見つめる。
シダの葉の揺れが、大ムカデの触覚にも見える。けれど、まだだった。
大鷲が羽ばたく度にシダの葉が大きく揺れる。その揺れにも誤魔化されることはない。大鷲の背で、リオンはただ地面を見つめていた。
やがて、大ムカデの毒々しい赤い頭がシダの葉陰に見えた。
「今だ!」
大鷲が急降下する。大ムカデが素早く洞窟の中に逃げ込もうとする。大鷲は大きく鉤爪を開いて、大ムカデの体を押さえつけた。それは尻尾に近い場所だった。
大ムカデは大きく身をよじって、顎を開いて大鷲の足に噛みつこうとする。リオンは大鷲の背から、
大ムカデの顎の間に、棘が刺さる。大ムカデは頭を大きくあげてのけぞった。
その瞬間を狙って、大鷲は尻尾を離すと、今度は頭を押さえつけた。びたんびたんと大ムカデの尻尾が地面を打つ。
その勢いにも負けず、大鷲は鉤爪を頸に食い込ませる。地面がめりこまんばかりの力強さで、大ムカデを締め上げていた。
やがて、大ムカデののたうつ体が静かになってゆく。頸からは、インクのような黒い液体が噴き出していた。
リオンは大きく息を吐く。
大ムカデの体はぼんやりと光って、そして大鷲の鉤爪の中で、四角い
それと同時に周囲の景色も変わってゆく。
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