97 奥の手
シダの茂みが燃えている。炎が徐々に広がってゆく。けれど、ソフィーもセティも姿を見せなかった。
サンキエムはつまらなさそうに眉を寄せて、セティの
「こっちだ!」
そこへ、セティの声が響く。サンキエムと
セティの姿は見えない。ソフィーの姿もそこにはない。
「つまんないことを」
サンキエムは苛立ちをあらわに爪を噛んだ。後ろの茂みががさりと音を立てて揺れる。同時に、あちこちの茂みがざわざわと音を立てた。炎は燃え広がり、湿気を含んだ重たい煙が周囲に漂う。
セティの声があちこちから聞こえてきた。
「ここだ」
「こっちだ」
「俺はここだ!」
「声や音に惑わされるなよ。それは偽物だ」
サンキエムの言葉に、けれど
そのとき、サンキエムのすぐ後ろの茂みから、
「
「な……っ!?」
サンキエムが反応したときには、すでにサンキエムは地面に転がされた後だった。逃れようともがくサンキエムの体に、ソフィーがのしかかる。暴れるサンキエムの膝を、ソフィーは自分の足で押さえつけた。
「あなたにはもう、何もさせない!」
槍を持ったまま、
「俺はお前よりも強くなって、お前を倒す。
セティがゆっくりと槍を構える。
「俺は完璧な
「お前はもう完璧じゃない。俺は新しい知識を手に入れた。俺はおまえを上回ってる!」
セティが跳ぶ。槍を突き出す。それは目の前に見えているのに、音はあちこちから
セティは次々に槍を突き出す。
「
「
けれどセティは槍に炎の翅をまとわせて、氷を打ち砕く。
地面に転がされて押さえつけられたサンキエムが笑う。
「何がおかしいの!?」
ソフィーはサンキエムがまた何かを企んでいるのかと警戒する。それでも、これ以上
「これで勝ったつもり? 僕を捕まえて? 何をさせるの? セティエムみたいに
「動揺させようったって無駄。わたしはもう覚悟した。わたしはセティの
ソフィーの言葉を、サンキエムは鼻で笑った。
「それでやってることは僕を押さえつけるだけ?
「何を言っても無駄」
そのときだった、じめじめと重く湿った空気が薄くなってゆく。シダが燃えて上がる煙が消える。空が消えて、空を覆うシダも消えた。でこぼことした石混じりの地面は、硬い石の床になった。
サンキエムがつまらなさそうに顔を歪める。
「あーあ、
周囲はあっという間に石の部屋になった。そして、少し離れたところに翼を広げた
リオンは状況を見て、自分がどうすべきか少しだけ迷った。この石の部屋の天井の高さでは
セティは周囲の状況も構わずに
ソフィーは顔をあげなかった。ただサンキエムの動きを封じることだけに集中していた。その真剣な表情をサンキエムは嘲笑う。
「残念だけど、この状況でも
「何を……!?」
至近距離で自分を睨むソフィーに、サンキエムは楽しそうな笑みを返した。
「
サンキエムの体から、新たな
空気が肌を切り裂くような冷たさになった。地面はまっさらに降り積もった雪になり、押さえつけられているサンキエムの体が沈む。雪まじりの風が吹き抜けてゆく。
ソフィーはサンキエムから顔をあげて、新しく開かれた
「
名前を聞いたことはあるが、ソフィーもリオンも見るのは初めての
ソフィーの体が地面を転がって、白い雪に塗れる。
「さあ、もっと遊ぼうよ! みんな壊れるまで遊ぼう!」
吹雪の中で笑うサンキエムを、ソフィーは唇を噛んで睨みあげた。
第十五章 サンキエム・グリモワール おわり
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