90 麻痺の凶蜂(ゲープ・パラリズーズ)
「
サンキエムの言葉に、ソフィーは応えを返せない。
(その通りだ。わたしは
ソフィーは唇を震わせる。その沈黙は、サンキエムを増長させた。
「そんなに大事にしたいなら、僕が開く
でもできないんだろ!? お前だって、
僕と同じじゃないか!」
「ち、違……っ!」
否定の言葉は震え、弱々しい。ソフィー自身も、何が違うのか、同じじゃないかと思ってしまっていた。怯えるように視線が揺れる。
「
サンキエムが新たな
ソフィーは
それでもソフィーは、
「
覚悟をして、ソフィーは
蜂の群れは鋭い羽音を立てながら、二つに分かれて水の塊を避けた。
その下にはセティと
地面の上の二冊は、どっちがセティでどっちが
(どっちでも構わない! きっとセティが勝ってくれる!)
だからソフィーの役目は、サンキエムにセティの邪魔をさせないことだった。
ソフィーは
群れのうち何匹かは、水の塊に呑まれた。水の中で翅の動きが鈍り、地面に落ちる。けれど群れにはまだ何匹もの蜂がいる。蜂の群れは塊になったままソフィーに向かってくる。
(あれの狙いはわたし……セティの邪魔にならないならちょうど良い)
ソフィーは水の塊をいくつも生み出す。一つを放って群れが避けたところで、別の水を撃ち放つ。群れの半分を水の中に呑み込む。
「
ソフィーは唇を噛んで、サンキエムの煽るような声に耐える。
(怒っちゃ駄目。冷静に判断しなくちゃ。今はとにかく、目の前のこれをなんとかするだけ)
水の塊で飛び回る蜂の群れを攻撃する、包む、動きを止める。そうやって群れの数を削って、勢いを削いで、距離をとる。
地面には水に濡れたたくさんの蜂が落ちて、もがいていた。
ソフィーは地面の上でもがくたくさんの蜂を見て、奥歯を噛み締める。
(壊したくて壊してるわけじゃない!)
その一瞬で、一匹の
「しまっ……!」
途端、
(体が動かないだけなら……!)
首元から飛び立つ蜂を水の塊に封じ込める。動けないソフィーをさらに狙ってくる他の蜂も、水の塊に閉じ込める。自分に向かって飛んでくる動きは直線的で、捉えるのは簡単だった。
宙にいくつもの水の塊が浮かぶ。その中で蜂がもがいている。動けない体で全部の蜂を水の中に閉じ込めて、ソフィーは諦めたように目を閉じた。
水の塊で中でもがく蜂を押し潰す。最後の一匹が、群れの中心の一匹だったらしい。
そして、壊れた
「あーあ、壊しちゃった。
ソフィーは立ち上がると、サンキエムを睨む。
「最悪に決まってるでしょ! 喜んで
ソフィーの声は震えていた。サンキエムは無邪気に、あはは、と笑い声をあげる。
「お前がどう思ったところでさ、結局お前が壊した事実は変わらないんだ。せいぜい口先だけで可哀想とか言ってなよ」
ソフィーの中には、悲しみが、怒りが、いろんなものが渦巻いていた。サンキエムの策略に乗って
(わたしは、サンキエムとは違う……!)
確かに
それは生まれて初めて開いた
目の前で儚く壊れてしまった
それだけじゃない。これまで
確かにそうできないときもあった。だからといって──。
(壊したくて壊したことなんてない!)
ソフィーは自分の中の感情を全てぶつけるように、激しい視線でサンキエムを見据えていた。
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