89 人間の欺瞞
セティはその蹴りも槍の柄で受け止めて、体に力を入れる。足が苔むした地面にわずかに沈む。今は後ろにソフィーがいる。引けば次の攻撃はソフィーに向かう。だから引くわけにはいかなかった。
セティと
(距離をとって援護した方がセティにとっては戦いやすいはず。サンキエムだって何か仕掛けてくるかもしれない)
ソフィーは油断なく、サンキエムの動きにも注意を向ける。
サンキエムは今は手を出すつもりがないのか、
長い槍が勢いを増して反対側から
セティが自分の槍に振り回されて、バランスを崩す。
その隙をかばうように、ソフィーは
「邪魔するなよ!」
サンキエムが手にしている
「ソフィー!」
セティが振り返って跳ぶ。
「
ソフィーは水の塊を生み出して、自分に迫ってくる槍の勢いを削ぐ。そのわずかな遅れで、槍をぎりぎりかわした。ソフィーの茶色の髪が幾筋かはらはらと舞い散る。
「
サンキエムの声とともに、セティと
砕け散った
目の前で
「ソフィー、避けろ!」
ソフィーはサンキエムに視線をやる。サンキエムはまた、
「やめて!
ソフィーの叫びに、サンキエムはきょとんとソフィーを見返した。
「今の
「あなたがそうさせたんでしょう!?」
サンキエムに気を取られているソフィーを、
「ソフィー!」
セティの声にソフィーは咄嗟に横に跳ぶ。セティは槍を潜り抜けて
セティはその体を追いかけて槍を突き出す。
「
サンキエムがまた
「やめて!
ソフィーの叫びを、サンキエムは笑う。
「お前ってシジエムみたいなこと言うんだね。シジエムってばうるさいんだ、
「だからって!
サンキエムの笑顔がすっと引っ込んだ。冷たい視線、寄せられた眉。怒りを表情に出して、サンキエムは苛立った声を出す。
「だから、これは僕が作った
「
「そんなの欺瞞だ!」
サンキエムは掴んでいた
壊れた
「欺瞞だ! 欺瞞だよ! 人間は自分勝手だ! そんなに大事にしたいなら、開かなければ良いだろ! お前だって同じだ!
「……っ!」
ソフィーは言葉に詰まって、自分の腕に捕まっている
サンキエムの言う通りだ。
「ソフィー!」
セティの声にはっと顔をあげる。
(そうだ、今だってセティを戦わせて傷つけている……)
ソフィーは、サンキエムの言葉に何も言い返せなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます