31 白い頁はなんのために
「ソフィー!」
リオンが
ソフィーは
ソフィーの背中にごつごつとした岩肌が当たる。そこに体重を預けて、ソフィーは短く浅い呼吸を繰り返す。肩は大きく上下していた。
地面にこすられた擦り傷、打ち身、その痛みを我慢して止まらずに動き続けている。疲労でぼんやりしてくる頭を、痛みで引き戻す。
ぼろぼろになったソフィーの様子に、シジエムは
「ねえ、セティエムを返してくれるなら、あなたたちを見逃してあげても良いのだけれど」
穏やかなシジエムの誘惑の声に、ソフィーは精一杯反抗する。傷ひとつなく服も髪も乱れずに佇んでいるシジエムを、ソフィーは力強く睨みつけた。
「あなたにセティは渡せない! セティの知識も経験も、失くさせたりしない!」
「でも、このままじゃあなたたち死んじゃうでしょう?
だったら、これはあなたにとって悪い話じゃないはずだけど。あなたもあの人間も死なずに済むし、わたしはセティエムを連れて帰れる。
そしてセティエムは
「セティは!? セティの意思はどこにあるの!? セティは知識を手に入れて成長したいって言ってるじゃない! だったらわたしはそれを守る!」
シジエムはうんざりしたように大きく息を吐いた。
「セティエムは造られたばかりだから、まだわかってないのよ。
「そんなことない! 知識は使われてこそ知識になる! セティの頁だって埋めるためにあるの!」
「じゃあ好きにすれば良いわ、傲慢な人間。あなたが死のうがどうしようが、わたしには関係のないことだもの」
逃げ場のないソフィーは、
それでも、強い衝撃で尻尾と壁に挟まれたのは、息が止まるほどの衝撃だった。声も出せずに、空気の塊を吐き出して、壁にもたれかかる。
(
ソフィーは自分の
(身を守るだけじゃ駄目だ。何か反撃できそうな……
疲労でぼんやりとして、考えがまとまらない。身体中をさいなむ痛みも、ソフィーの思考を邪魔していた。
「
大きな水の塊で、振り下ろされる前脚に一瞬の隙をつくる。その間に
(セティが……セティがいてくれたら……)
ソフィーは唇を噛んで、手にした
はぐれると面倒だからと、手を握られた。その手は人間と同じで、温かかった。
(
生意気な口調だけど、本当に子供みたいな反応もして、見知らぬものを怖がったり、驚いたり、怒ったり、笑ったり、いろんな反応を見せてくれた。
(本当に特別な
ソフィーには、人間と変わらないように思えた。人間の子供だ。年相応に好奇心があって、ちゃんと意思があって、考えて成長している。
(そうだ、今はわたしがセティを守らなくちゃ……)
ソフィーは胸の前にセティを抱き締める。そのセティが、四角い
そして、どくん、と脈打つように、四角い
「セティ……?」
確かに無機質な
「セティ!? 聞こえてるの!?」
ソフィーの声に反応するように、
「もう逃げ場はないわね」
シジエムがつまらなそうに言った。
ソフィーは壁際に追い詰められて、その目の前には大きな
リオンは
「さ、やって」
そのシジエムの声はごく軽い調子だった。ソフィーにとどめをさすことも、きっとなんとも思っていないのだろう。
避ける場所はない。ソフィーが操る
それでもソフィーは諦めていなかった。希望を込めて、今は四角い
「セティ、開いて!
ソフィーの手の中で、
小さな炎は、ゆらりと揺れて蝶の姿になると、はらはらと飛び立つ。次々と、炎は生み出され、蝶になって飛び立つ。
セティとソフィーの意思によって生み出された無数の
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