28 本につく虫(ブックワーム)
シジエムは
「死んでも良いって言うのね」
セティは迷いの消えたまっすぐな瞳でそれを見返す。
「死なない! ソフィーもリオンも、俺が死なせない! でも、俺はお前とは行かない! 俺は知識も経験も手放さない!」
「じゃあ、本当に死ねば良いわ。セティエム、あなたもきっと壊れちゃうでしょうけど、後で回収して
ためらいもなく、シジエムは言った。その言葉に反応して、
「
叩きつけられる前脚の勢いを氷の壁で弱めて、
「セティ、リオンと合流しましょう」
「わかった」
それは壁際に自ら追い詰められてゆくような動きで、シジエムは表情も変えずに「愚かね」と呟いた。
吐き出された炎とその熱気を
リオンは
胸は上下していて、意識を失っているだけに見える。ひどい怪我も見えないのは、きっと、
「リオン! 無事なの!?」
呼びかけに、リオンは顔をしかめて目を開く。三秒、ぼんやりとしてから、すぐに飛び起きた。
リオンは小さく頭を振ってからソフィーを見た。
「悪い。俺は大丈夫だ。状況はどうなった?」
「変わってない」
短いやりとりの中でも、リオンにはソフィーの向こうで
「
「そうね。まず先に、シジエムだっけ、あの
ソフィーは、セティの姿を振り返る。
ソフィーは声をひそめた。不安そうにリオンを見つめ、ささやくように言う。
「セティはきっと、もうすぐ限界。その前になんとかしないと」
そんな状況だというのに、いや、そんな状況だからこそ、リオンは笑ってみせた。余裕があるから笑うんじゃない、笑うから余裕が生まれる。それは、リオンの持っている強さだった。
「よし、じゃあ、やってやろうぜ。それで、みんなで
拳を持ち上げるリオンに、ソフィーも少しだけ力を抜いて、微笑んだ。
「ええ、そうね。やってやりましょう」
ソフィーも拳を持ち上げて、リオンの拳とぶつけた。それは小さな、反撃の合図だった。
◆
「さっさと諦めたら良いのに」
せいぜい鳥の
攻撃だって、セティエムに頼りきり。
「かわいそうな弟」
セティエムは人間に良いように使われている。
人間たち自身は何もできないというのに、
「本当に、
まるで
我が物顔で
「あなたはまだ何もわかってないのよ、セティエム。人間の手から、救い出してあげるわ」
シジエムは、セティエムの姿を見下ろした。
ちょうど
開いているのはもうじき限界なのだ。
セティエムが閉じてしまえば、人間たちにはもう
「あと少しの辛抱ね」
シジエムは桜色の唇の両端を持ち上げて、造り物のような微笑みを浮かべた。
地上では、馬鹿の一つ覚えみたいに氷で壁を作って、水でカーテンを作って、
水蒸気はセティエムの姿も人間たちの姿も覆い隠したが、シジエムはなんの心配もしていなかった。
「人間たちは、どうせそれしかできないのだから」
水蒸気の中から、一羽の大きな──と言っても
「悪あがきばかり」
「付き合ってあげても良いのだけど」
「今はセティエムを疲れさせて閉じさせる方が良いかしらね」
シジエムも地上を見下ろす。水蒸気のもやが薄れてゆく。
「それとももう、セティエムは閉じてしまったかしら」
首を傾けたシジエムは、次の瞬間目を見開いて頭上を見た。咄嗟に身を引いたその場所に、
シジエムのリボンがちぎれ、金の髪の毛が幾筋か舞い散った。
その目の前で
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