26 シジエムの知識は
セティはその小さな体で、自分よりも大きい
シジエムは、
「
「
炎を防ぐための、水のカーテンが、氷の壁が、セティとソフィーの前に現れる。
リオンは、
吐き出された炎を、
セティは氷の壁の上に飛び乗ると、ぐ、と膝を曲げて体を沈ませた。そして、
水のカーテンを破って。真っ直ぐに。標的に向かって。その跳躍もまた、
白銀の槍が
傷口からインクのような黒い液体があふれ出る。それは、
セティは槍を抜く。傷口から、黒い液体がぼとぼととこぼれ落ちる。止まらない。
セティは地面に飛び降りる。難なく着地できたのも
傷は深い。致命傷に見えた。
セティも、ソフィーもリオンも、その光景に希望を見出した。これなら
三人の表情がそれぞれに、明るく輝く。
シジエムは慌てる様子もなく、なだめるように
シジエムの光に覆われると、傷口からあふれる黒い液体が止まった。そのまま傷口がふさがってゆく。光の中で、
「わたしの知識は
シジエムの声は静かだった。気づけば、
自分の力で
「何をやっても無駄。あなたたちにこの
見出した希望は、まるで幻のように消えてしまった。
「また最初っからやり直しかよ」
毒づく声は天井高く、誰にも届かなかった。
ソフィーの隣で、セティは片膝をついた。
体の輪郭がぼんやりと揺らぐ。頭を振って、踏みとどまる。
まだ、閉じるわけにはいかない。セティは必死に顔をあげて、シジエムを睨んでいた。その瞳は、まだ希望を失ってはいなかった。
隣でソフィーは、次の
炎であれば
(いざとなったら、自分が抱えてでもセティを守る。セティに託す)
リオンが、
けれど、
「
反応は遅れたが、セティは氷の壁を作り出した。伸び上がる途中の壁は、たやすく崩され、尻尾はそのままソフィーの体を打ち払った。
「ぐ、ぅ」
苦しげな呻き声をあげて、セティを抱えたままソフィーの体が地面を転がる。それでもソフィーの腕は、セティの体を頭を守っていた。
「ソフィー!」
転がったソフィーの体から抜け出して起き上がると、セティはソフィーを覗き込んだ。ソフィーは地面に転がったままセティを見上げて微笑んだ。
「大丈夫、少し痛かったけど、このくらい平気」
「でも!」
ソフィーが起き上がろうとして顔をしかめる。セティは目を見開いて、その苦しげな表情を見つめた。
さらに追撃をしようと、
「ああ、本当に邪魔ね。先にそっちをなんとかしちゃって」
シジエムが感情のない声で
リオンは少しずつ下に下に追い詰められていた。そこへ前脚が襲いかかる。わずかに避け損なって、
間髪入れずに長い尻尾が
ふふ、とシジエムが笑う。
「セティエム、もうわかったでしょう。あなたたちでは勝てない」
体を起こそうとするソフィーを抱えて、セティエムは唇を震わせた。そんなことないと言い返したいのに、言葉が、何も出てこなかった。
さっきまで感じていた勝利の希望は、今はもう粉々に打ち砕かれてしまっていた。
「ねえ、セティエム。わたしは人間たちには興味はないの。だから、あなたがわたしと一緒に来るなら、そこの人間たちは殺さずに見逃してあげる」
その提案がまるで慈悲深いものであるかのように、シジエムは微笑んだ。造り物めいた顔で。
セティはその表情を見上げながら、ソフィーの手を握った。温かい。この体温が、失われてしまうのは嫌だと思った。
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