11 影狩の猟犬(シャドウハント・ハウンド)
相変わらず乾いて清潔そうなのは、
いつもと大きく変わったところはない、とソフィーは判断する。であれば、やることはいつもと一緒だ。
リオンも早速一冊の
「
リオンの声とともに、手のひらの
「罠に対して鼻が効くんだ、便利だろ」
リオンはセティに対して自慢げに言う。セティは犬の姿を見て、唇を尖らせた。
「便利なのはお前じゃなくて
「この
「ふん」
セティの生意気な顔に、リオンは悪態をつきたくなった。けれど、ソフィーがじっとりとした視線を二人に向けていることに気づいて、リオンは諦めて口を閉ざした。
「
今度はソフィーが
しばらくその歌声を確認して、ソフィーは手のひらを差し出した。
「
鳥の輪郭が曖昧に光って、その光がソフィーの手のひらの上に集まる。そして、光が消えたときには、それは四角い石の姿に戻っていた。
「もう閉じるのか?」
「ずっと音を出しておくと、危ないことがあるから」
ソフィーの説明に、セティはちょっと首を傾けた。危ない、ということがよくわかっていない顔だった。
リオンはそのやりとりを訝しげに見ていた。何か言いたくなって口を開きかけたが、結局は何も言わずに、通路の一つに視線を向けた。
「ともかくこっちの方だな。進むぞ」
先頭は
最初のうちは石積みの廊下も、いくつかの分かれ道があった。分かれ道のたびにソフィーが
そうやって進むうちに、分かれ道に出会わなくなった。時折曲がり角はある。ちょっとした罠もあったが、
そんな明かりはあるが光量の少ない薄暗い廊下を、ただ進んでいた。
セティは先を進むリオンとソフィーの後ろを手持ち無沙汰についてゆくだけだった。それがなんだか、セティには気に入らなかった。
「やっぱり便利ね、
「だろ? 俺と組むのも悪くないと思うよ」
「それはまた別の話」
ソフィーがリオンの
(俺だって……俺の方が、役に立つのに)
セティはむすっと唇を曲げて二人の後をついてゆく。前を行く二人は、セティのそんな様子に気づいていない。そのこともまた、セティの苛立ちを濃くした。
やがて、
「罠があるな。避けて通れそうか?」
リオンはしゃがむと、
ここまでずっと一本道だった。罠を避けて別の廊下を通るなら、だいぶ戻らないといけない。
このままさっさと進めば良いのに、とセティは苛立ちとともに思った。
「避けて進めるみたいだな、
ぽんぽんと、リオンは
「わかった」
ソフィーはほっとしたような顔で頷いた。さっきからソフィーは、リオンとその犬ばかり見ていて、後ろからついてくるセティを気にする様子がない。セティは気に入らないも苛立ちも通り越して、腹が立ってきた。
(なんださっきから俺のことは放っておいて罠の話ばっかり。そんなのどうってことないのに。さっさと進めば良いのに)
そして、もう待つのが嫌になった。
セティはソフィーの脇を通って、リオンとその犬の脇も通り抜けて、その罠があるという廊下に踏み込んだ。
「
セティの目の前に炎の
「セティ!?」
ソフィーが声をあげたときには、もう全部終わっていた。セティは自慢げな顔で振り向いてみせる。
「罠なんかどうってことないじゃないか」
けれど、ソフィーはセティを褒めることも賞賛することもなく、怒り出した。
「なんてことするの!」
セティはきょとんとソフィーを見上げる。
「どうしてだ? 先に進みたいんだろ? どんな罠でも俺なら大丈夫……」
「大丈夫なわけないじゃない! 今回はたまたま対処できたから良いけど、そうじゃない罠だったら大変なことになってたかもしれないのよ!?」
ソフィーの怒りはセティを心配してのことだけれど、セティにはうまく伝わっていない。セティはただ、ソフィーに認めてもらえなかった、と感じただけだった。
「俺なら……大丈夫なのに」
「大丈夫じゃないこともあるかもしれないの!
セティはふてくされた顔で、うつむいた。その様子に、ソフィーも自分が声を荒げていたことに気づく。小さく溜息をついて、ソフィーはセティの顔を覗き込む。
「とにかく、無事で良かった」
セティは気まずいまま、ふいと横を向いた。
「心配なんかされなくたって、俺は平気だ」
二人のやりとりに、リオンは小さく肩をすくめた。
「
「こ、子供扱いするな!」
「言い合いはやめて」
また口喧嘩になりそうなセティとリオンをソフィーの声が止める。
「先に進みましょう。今はとにかく
セティも大人しくついてきてちょうだい」
釘を刺されて、セティはむすっとしたまま、それでもしぶしぶ頷いた。
「ソフィーはなんだってこんな物知らずのガキと一緒にいるんだ」
「リオンも煽るようなことをいちいち言わないで」
セティが反応するより先に、ソフィーがリオンを叱る。その様子に、セティはちょっとだけ気分が良くなった。
「お前もソフィーに怒られてるじゃないか」
「中身が違うだろ、ガキと一緒にするなよ」
また言い合いになりそうな二人に、ソフィーは特大の溜息をついた。
「わたしから見たらどっちもそんなに変わらないけど?」
ソフィーの言葉に、セティは不服そうな顔をして、リオンは「えぇ〜」と情けない声をあげた。
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