後日談

「おい、これってS邸じゃね?」


 自宅で友人達と某動画投稿サイトでお気に入りの心霊配信者の話を作業用BGMとして流しながら来るべき受験に向けて勉強していたら、友人の一人が動画を止めて、白い屋敷を指差した。


「マジでS邸じゃん!」

「だよな! S邸だよな!」


 もう更地になっているが近所の屋敷が有名心霊動画に取り上げられて嬉しいのか目を輝かせている横で俺は一人、苦笑いを浮かべる。


 その屋敷で俺の幼馴染で元カノだった子が自殺したからだ。


 肝心なところで尻込みする俺をしっかりしなさい! と引っ張ってくれる元カノを好きになるのは時間の問題だった。

 中二の冬、勇気を振り絞って告白して、それを受け入れてもらった時は凄く嬉しかった。

 今考えるとあの時が一番幸せだったのかもしれない。

 俺は元カノが喜ぶためなら欲しいと言ったものは何でも買ってあげた、その頃の俺はそれしか喜ばせる方法を知らなかったから。

 毎月貰う小遣いを切り詰めて元カノの為に使い、別れるまで自分のために使わなかった。高校生になると元カノの欲しいものは高価なものになっていき、俺は勉強そっちのけでバイトに励んだ。

 複数のバイトを掛け持ちしていたから成績は常に底辺、家族や友人達からそこまでして彼女に貢ぐのは止めろと言われたが俺は聞き入れなかった。だって、元カノが喜ぶ顔が見たかったからだ。喜ばせることが彼氏の役目だと思い込んでいた。

 あの頃の俺は本当にどうかしてたと思う。

 そんな俺の目が覚めるときがきたのは突然だった。


「貴方の彼女、私の彼氏と浮気してるよ」


 そう言って学校一の美少女と名高い人気者に元カノが人気者の彼氏とラブホから出てくる写真を見せられた。

 ようやくそこで俺は元カノと恋人らしいこと手を繋いでデートに行ったり、キスしたり、その先以上の事をしていない事に気付いた。俺は財布扱いされていたのだということにも。

 俺は見せてもらった写真を転送してもらい、元カノに別れようと一言告げてラインで送った。

 それ以来、元カノとは接触せず、元カノは自殺した。

 空き家だったとはいえ、頑丈な鍵を付け入れないようにしていたにも関わらず彼女はS邸で自殺をした。

 見つかった同時、無理矢理入ろうとした奴等のせいで新しく交換した鍵は壊れていたという。


 元カノを知っている人達はこう言った、あの家は浮気者を呼んでいるのだと。


 S邸は浮気の果てに建てられたばかりの時に当時の当主の妻が愛人と自殺したらしいという噂が元からあったし10年前にも同じような事が起きたらしいから、多分、そこからそういう話になったのだと思う。

 元カノの事は今でも好きかと聞かれるとハッキリとノーと言えるが幼い頃から知っている間柄だったからしこりのようなものが残っている状態だ。

 だけど、もうこの世に居ない存在。いつか忘れることが出来たら良いなと思っている。


 勉強疲れから気晴らしに友人達と近くのコンビニに菓子を買いに外に出たら、パトカーがS邸跡地に向かっていくのを見た。


「あっちって元S邸だよな?」

「そうだよな、何かあったのか?」

「行ってみるか?」

「面倒くさいからいいよ、それに遠いし」

「だよな~」


 興味はありつつも此処からS邸は割と遠い、だから素直にコンビニへ行った。


 S邸跡地に何があったのかを夕方になってから母が教えてくれた。


「集団自殺があったみたいよ。ほら、この街で一番大きい産院の息子さんと数人の女の子が首を切って亡くなっていたそうよ」


 産院の息子と聞いて、俺は元カノの浮気相手を思い浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【完結】S邸の話 うにどん @mhky

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説