第4話 撤退と強奪

 輝きは徐々に収まっていき、綺麗な緑色だった石は灰色と化した。


「これが回復魔法……すごいあれだけ傷だらけだった身体が元通りになってる」


 すっかりカルキの身体は完治しており、体力は減っているものの、格段に動きやすくなったカルキは、剣を手に再び立ち上がる。


「ありがとう!! 君のおかげで命を救われたよ」


 優しい笑みを浮かべて少女に礼を言いカルキは、壊れた壁から外に飛び出した。


『なにっ!? 何故傷が完治している!!』


 飛び出してきたカルキの姿に驚きを隠せないガーゴイル。

 家の中で何をしたのか考え、ガーゴイルは一つの答えを導き出した。


(まさか回復オーブを持っていたとはな、それも傷だらけだった身体を一瞬で治したということは即時回復か……)


 回復オーブ(正式名称〇〇マナオーブという)それは自然界の万物に宿る力のことをマナと呼び、長い年月を得て色付きの結晶化として鉱石になったことをいう。


 そのマナオーブには専門の魔法知識も含まれており、それは色にやって大まかな区別をすることが可能。


 例え特別な訓練を受けていない一般人であろうとも魔法を使用することが出来るのだ。

 ただし、使用者によって魔法の威力が増減したり、一度マナオーブを使用すると灰色となり一時的に魔法が使用不可となる。


『クック!! 面白い奴だ……若き剣士よお前の名は何と言う?』


「俺の名はカルキ=フランドゥだ」


 口角を上げて微かに笑い、少年の名をしっかり覚えたガーゴイルは、翼を広げてゆっくりと上昇する。


「逃げるつもりか!?」


 カルキは斬撃を飛ばすもガーゴイルの前に紫色の壁が現れて斬撃を防ぐ。

 

(なっ!? まだ隠していた技があるのか!!)


『あぁ、ここは逃がさせてもらおう……その方がお互いに利がある』


 ゆっくりと上昇するガーゴイルを、見つめるしかないカルキ。

 実際に戦って理解したのだ、今の実力ではガーゴイルを倒すのは不可能だと。


(俺は常に全力だった……だがあいつは余裕そうな表情を浮かべ、俺と戦っていた……最初から手加減されていたんだ!!)


 剣の持ち手を力強く握りしめるカルキを見下ろし、ガーゴイルは再び口を開く。


『クック!! ここで生き延びることが出来たお前は自分を誇っても良いぞ……俺は


「なに? ガーゴイルでないと言うなら、じゃあお前は一体何者だと言うんだ?」


 全身灰色で赤い眼を持つ魔物は、ガーゴイルと呼ばれるが、何が違うのかと質問するとニヤリと口角を上げてこう答えた。


『俺の名はPo.006 タルタン!! 偉大なる科学者Dr.プルファンが、ガーゴイルの身体をベースとして作り出した人造魔物じんぞうまものだ!!』


「人造魔物だと!?」


 カルキは初めて聞いた単語に思わず復唱するほど、驚き空いた口が塞がらなかった。

 その単語は隠れて様子を伺っていた少女の耳にも届く。


「人の手で新たな魔物を創造したとでも言うの……そんなことが……」


 空を飛んでいる魔物が同じ人間によって創造された魔物だと知り呆然とする少女。

 

『クック!! 驚きを隠せないみたいだがこれは事実だ……さて、Dr.プルファンに会うのに手ぶらとはいかんからな』


 クチバシが一瞬光り輝くと、少女が大事に持っていた今は灰色と化した回復オーブが咥えられていた。


「あれは……!!」


「えっ!? いつの間に盗まれたの!!」


 接近された覚えがないのにも関わらず、回復オーブを盗まれた少女は、訳がわからず困惑する。

 

「こいつを手土産として持ち帰らせてもらおうか……さらばだカルキ!!」


「待てタルタン!!」


 翼を大きく羽ばたかせ凄まじい速度でその場から離れていく後ろ姿を見つめるしかカルキは出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

月光は今宵も誰かの闇を照らす 赤点候補生 @akatenkouhosei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画