第8話 そして

何が起こったのだろうか。この世界は被験者の欲望を叶え、快楽を享受し、幸福に包まれる為に、現実を模倣したVR世界から絶望や苦痛、不安、苦しみ、悲しみ、怒りや妬み、争いそして醜悪なものなどを排除し、一方で喜びや幸せ、愛や思いやり、そして美しいものを集約させた世界だ。一方で闇を押し付け、光を奪い取られたを世界を発生させてしまった。絶望や苦痛しかなく醜く争いも絶えず、幸せや喜びが一切ない世界、地獄とも言える世界だ。二つの世界は大きく隔たれており、地獄から天国に行くことは出来ず、天国から地獄に行くことは無いだろうと考えていた。だが彼は、自らの意思で飛び込んだのだ。途中で中断させることも出来たであろうが、K所長は彼の意思を尊重して最後まで手を出さなかった。設定された時間になりカプセルが開くと、彼は明らかに今までとは異なる、確信した表情でカンバスに向かった。

 それは素晴らしい作品であった。この世界の闇で覆い尽くされた中からの一条の光。それが指し示すのは人類の希望であり、また未来であった。彼の作品の中でも間違いなく最高傑作である。作品を仕上げた彼は折り畳みの椅子に座り「美術鑑定人」を呼び出した。「美術鑑定人」は監視データから送られた作品のデータを受け取り判定を行った。

「判定C、20XX年ニューヨーク出身のウォール・アレックスの作品の模倣」

渾身の作品であったが、これがこの作品に下された評価だ。彼は乱暴に椅子から立ち上がり、傍にあったペインティングナイフでカンバスを大きく切り裂いた。そして膝から崩れ落ち、天を仰ぐように暫く天井を見つめ、そのまま崩れ去った。


 「その時に撮られた写真です。写真の男性はそのまま亡くなりましたが、この写真は、その場にいた研究者によって『美術鑑定人』に送られました。一人の芸術家の人生と芸術と言うものの本質を表現した作品として素晴らしい評価を受け、A評価の作品としてXX年に『美術目録』に収納されました。これ以降、『美術目録』に新たな作品が収納されることが無くなったため、このように呼ばれるようになりました」バーチャル美術館の説明を聞いて改めて作品みるとこれ以外に言い表す言葉が見つからなかった。

 『芸術の終焉』

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芸術の終焉 りゅうちゃん @ryuu240z

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