第7話 最後の挑戦
もうあきらめるしかないのであろうか。K所長は少し躊躇った顔をして、「恐らく、このシステムを使えるのはあと一度か二度、しかも、現実世界を模したVR世界では新しいものは見出せないでしょう。お役に立てず申し訳無いが、もう諦めましょうか。なに、諦めないと。無駄であろうと続けると仰られるのですね。分かりました。あまりお勧めできませんが、これが最後です。ある被験者のために特別に作ったVR世界に行ってもらいます。人格も、才能もそのままで良いでしょう」と言って装置を操作しだした。
彼がシステムに入ると、怪訝な顔をしている助手に向かって話し出した。「残念ながら、今回の実験はこれで終了だ。もう彼は作品を創ることはないだろう。彼の入った世界は、ある意味天国であり、あらゆる欲望や快楽が思いのまま、罪悪感も無く多幸感のみの世界だ。人生に絶望した友人のために創った世界だ。その友人はシステムから出ても現実世界には戻らず、その世界の住民となってしまった。脳がその回路を覚えてそれ以外を受け入れなくなってしまったのだ。彼もこの先は絶望しかないのであれば、自分の世界とはちがっても幸福な世界で生きたほうが良いだろう」だが、彼の芸術家の魂は想定を大きく裏切った。楽園での生活に甘んずることも無く、あらゆる欲望や快楽を避け、唯々創作のためにだけに生きた。突然、K所長は「うむ、いかんな。想定していないことが起こった」と言って、淡々とした表情でモニターを見続けた。
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