第17話 自己紹介②

 奏音達は瑠海に案内され、空いていたボックス席に座った。隣のボックス席には明香里、茉奈、凛、風花、朔が座っていた。


「好きなもの頼んでいいよ! お金はいいから」


 水を運んできた瑠海はコップをテーブルに置きながらそう言った。


「えっ、でも……」


 深月がためらう。


「いいのいいの! 今日は瑠海から誘ったんだし」


 屈託なく笑った瑠海は再び厨房に戻っていった。


「あ、そう言えば」


 先にボックス席に座っていた明香里が口を開いた。


「瑠海って、中学の時のあだ名が『コミュ力おばけ』だったから、気をつけたほうがいいかも。私も自己紹介して一秒で『あかりん』なんて呼ばれるようになったから」


「え、可愛い! ねえ、あたしもそう呼んでいい?」


 深月が身を乗り出すと、明香里は思わず苦笑した。


「瑠海と同じタイプか。いいよ」


「ありがと!」


 その時、再びカウベルの音が店内に響いた。


「ごめん遅くなった!」


 そう言って入ってきたのは夕梨だ。後ろには優、透也、奈津、拓翔、詩歩、結那、つかさ、晴花がいる。


「あ、来た!」


 気づいた瑠海がカウンターから顔を出す。


「ごめん! 電車が遅延して……」


 透也が申し訳無さそうに目尻を下げる。


「いいよいいよ! ボックス席座って!」


 瑠海が水を取りに厨房に引っ込んでいくと、明香里は人数を数え始めた。


「十九……あれ、一人足りない」


 この学年は二十人いたはずだが。


「あ、莉音なんだけど、来ないと思う」


 そう言ったのは拓翔だ。


「あいつ、こういうやつには絶対来ないんだ。一応メールしたけど、返信来ないからたぶんベースの練習にでも行ってるんじゃないかな」


「そうなんだ……」


 いつの間にか戻ってきていた瑠海がため息をつく。


「……でも確かに、ちょっと話しかけづらい空気はあったかなぁ」


「悪気はないんだけど、ストイックで厳しいからどうにも言い方がキツくなっちゃうみたい。だから、あまり人といるの見たことなくて」


 奈津がバッグを膝に置きながら言った。


「ベースに一生を捧げてるやつだからな。ベーシストになりたいみたいだし」


 透也がため息を付いた。


「仕方ないかぁ……じゃあとりあえず始めよ! まずは自己紹介からかな? 部活でもやったけど、仲良くなろーって会だし、もう一度やっとこ!」


 水の入ったコップをテーブルに置き終わった瑠海が空いているカウンター席に座って言った。


「うーんと、名前と出身中学、担当楽器、あと、好きなことをもうちょっと詳しく、ってとこかな。他にもあるなら言ってって感じ!」


「瑠海ってホント、そういうときだけ主導権握るよね」


 明香里が苦笑する。


「うーん、クラス順に行く? 一組から」


「…………」


 奏音は一瞬顔を強張らせた。


 ――出身中学。奏音がずっと避けてきた話題だ。だが、こうなることも予想して、答えは用意してきた。深月も怪しまないような答えを。


 裕真がチラリと奏音を見るが、奏音は大きく深呼吸した。


(……大丈夫。堂々としてれば、バレないから)


「……いいよ」


 と、立ち上がったのは優だ。

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響け 瑠奈 @ruma0621

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