第16話 交流会

 午後三時になり、部活が終わった。


 奏音がホルンの水抜きをしていると、「西野さん!」と声をかけられた。振り返ると、一年生達が集まっている。声をかけたのは明香里だった。


 手招きされるまま近寄ると、明香里はスマホを差し出した。その画面にはQRコードが表示されている。


「一年生のグルラ作るから、ライン交換しよ!」


「あ……うん」


 頷いた奏音はスカートのポケットからスマホを取り出した。そして読み取り画面を開き、明香里が差し出すQRコードを読み取る。


「ありがと!」


 明香里は奏音のアカウントを追加し、グループラインに追加した。


「それでさ、今度一年生の交流会しようと思ってるんだけど、どう?」


「交流会?」


 奏音は素っ頓狂な声を上げた。


「うん。瑠海、よろしく!」


 頷いた明香里は後ろにいた女子を振り返った。ポニーテールを少し巻いた瑠海が「オッケー!」と返事をする。


「一年生みんないる? 瑠海の家喫茶店やっててね、一日貸切にして交流会するのはどうかなあって思って。入部して二週間経つか経たないかくらいだし、まだ全員の名前覚えられてないと思うからここでお互いを知ろーって会! どう?」


 説明した瑠海が一年生を見回す。


「楽しそー! やろやろ!」


 最初に口を開いたのは深月だ。


「確かに、全然名前覚えられてないや」


「それなー」


 詩歩と風花も頷く。


「じゃあ決まり! 急だけど明後日で!」


 奏音は黙ったまま盛り上がる同級生を眺めていた。


「……奏音」


 同じく黙って話を聞いていた裕真がそっと近づいてきた。


「……大丈夫。話さなければ多分、わからないから」


 自分のことを話すのは、正直まだ怖い。でも、この二週間、バレている様子はない。


「……そうか」


 静かに頷いた裕真が自分の席に戻っていく。


 奏音もまだ盛り上がっている同級生達の声を聞きながら席に戻った。



 二日後。奏音は裕真と瑠海の喫茶店に向かっていた。


「確かこの辺りのはず……あ、あった」


 赤レンガでできた二階建てのレトロな喫茶店だった。入口の付近の壁に下がった看板には『伊藤喫茶』と書かれている。


 通りに面した大きな窓から見える店内には、すでに何人かの人影があった。


「こんな雰囲気のお店、初めてかも」


「だよね! 最近こういうレトロなの見ないからなー」


 奏音の独り言に答えた声に振り返ると、深月と柚月が立っていた。


「深月ちゃん、柚月さん」


「やっほー!」


「こんにちは」


 ニコニコと手を振る深月に対し、柚月は軽く頭を下げた。双子とは言え、性格はバラバラらしい。


「今来たとこ?」


「うん」


「そっか! じゃあ入ろ!」


 深月が『Close』の札が掛かったドアを押し開けると、ドアに取り付けられたカウベルが鳴った。


「あっ、いらっしゃい! こっちだよ!」


 落ち着いた赤色のエプロンをつけた瑠海が四人に気づき手招きする。


 店内はボックス席とカウンター席が並んでいて、温かみを感じる雰囲気だった。カウンターの奥では、瑠海の両親らしき男性と女性が行き来している。


 集合時間より十分ほど早いが、もう五、六人ほどが来ていた。

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