3
撃たれた。
「この国の警察官は、無警告で子供を撃つんだな」
父が犠牲者の血を啜っているところを、現場に踏み込まれた。相手は警官だった。被害者が悲鳴を上げたというのに、即座に撤収しなかったのが誤りだった。
「誰が子供だ……! この化け物が! その女を離せ! 次は外さないぞ!」
警官たちは弾が外れたものと思っているらしいが、そうではない。当たったが、通じなかっただけだ。そのへんの警察官の拳銃に、聖化処理を施した銀弾頭など用いられてはいないだろうから、当然のことだが。
「警官を殺すのは久しぶりだ。そこで待っていろ」
吸血鬼ヴィクターが動いた。警察官の首が飛び、鮮血が舞った。だが警察官というものの真に厄介なところは、銃で武装していることなどではなく、仲間を呼ぶ性質を持っているということだ。その警官はただの駐在に過ぎなかったろうが、あっという間に応援のパトカーが何台も飛んできて、我々は逃走に失敗した。囲まれている。
「両手を頭の後ろで組み、地面に腹這いになれ! さもないと射殺する!」
警官隊がこちらを遠巻きにしている。逃げ場はない。
「父さん。どうする? 僕を囮にして、父さんだけでも逃げてくれないか」
そんな言葉を、警官に聞かれた。向こうは何らかの収音手段を使っているのだろう。考えてみれば当たり前だが。
「殺人犯人に告ぐ! 逃げようとしても無駄だ! 子供の命は保証する、その子を解放して投降しろ!」
はは、とヴィクターは、父さんは力なく笑った。
「その子を解放しろ、だとよ。どうする?」
「どうもこうもないだろう、父さん。そろそろ日が昇るよ」
「そうだな」
そうなのだ。警官に包囲されていること以上に問題なのは、朝日がまさに昇りかけていることだった。こんな遅い時間まで、こんな場所で狩りを続けるべきではなかったと後悔してももう遅い。
「あんまり」
「ん?」
「いい父親ではなかったかな、私は」
「そうだね。人食いの化け物で、永遠に子供の姿に身をやつした怪物。僕の母親だって、あなたが食べてしまったんだろう?」
「そうだよ。ビートルズを好む女だった。それだけはよく覚えている」
それでも、父さんは、子供の姿の吸血鬼は、ヴィクターは、単身で警官隊の前に進み出て、こう言った。
「撃たないで! 父さんは誰も殺していません! 殺したのは——」
血風が荒れ狂った。同時に、太陽が昇る。建物までの距離からしてもう間に合わない。
「私だ。お前らもな」
銃が乱射される。警官隊が全滅するのと、父さんが朝日に照らされるのがほぼ同時だった。一瞬で、その全身が灰となって崩れる。
「父さん」
車に飛び込み、急発進。自動的に、カーステレオが鳴るように設定していたのを忘れていた。ビートルズが流れ始める。まるでレクイエムがかかるように。
When I find myself in times of trouble. Mother Mary comes to me. Speaking words of wisdom. Let it be.
門の所に安息はない きょうじゅ @Fake_Proffesor
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