7-7.我は告げる

『真理封鎖の解除を確認。起動宣告の準備が完了しました』

 不意に脳裏に響いた平淡な機械音声が、啓示のような通告をもたらす。

《……なんだって?》

『真理を正規定立するための準備が整いました。宣告を行うことで、略式起動状態にある真理の支障ない運用が可能となります。宣告文言を入力して下さい』

 文言。悠乃と由祈が行ってみせた真理の定立動作と、はじめに出会った時の悠乃の言葉を思い出す。

 “あなたが本心から抱いている、己の在り方に通じるたいせつな願望。それが願い”

 “受け身の“願い”では“真理”には辿り着けない”

 “――あなたは、自分の本当の“願い”を見つけなければならない”

《…………》

 起動宣告のために必要な文言。直衛佑が求める本当の“願い”。

 そうだ。確かに今、俺の中にはがある。

《……“我は、告げるキャスト”》

 かすれた声で口にする。

 自らの意思で、言葉を紡ぐ。

 “願い”を叶えるために――俺にとっての真実ほんとうを、そうとわかっていて認められなかった摂理と、それへの思いを、空想の受け皿たるこの戦場、識域の蒼穹に、宣言する。

《“存在ものはいつか”、“壊れる”――》

 だが。たとえ、それが避けられないとして。無視し得ない確かな感覚、忘れることもできず、この先もきっと俺を苛み続けるものなのだとして。

 そうだとしても、直衛佑おれは、最後には必ずこう言って立とう。本当に負ける時まで。しごくありきたりの敗死が、俺というちっぽけな存在をひねりつぶす、その時まで。

《――“それでも”》

 りぃ――ん。

 りぃぃ――ん。

 ――りぃぃ、ぃん!

 無垢白プロト・ホワイトの紋が色彩を変える。からっぽの、おぞましい、どうしようもない真理の在りようを示す、虚ろの白ホロウ・ホワイトの確たる光を放つ。

 全身にもう一度力が巡る。完全に開いた神経回路、思考回線を通して空想が溢れ出し、世界を改変する。

 効率化――もとい、迂遠な浪費が解消された空想によって傷が癒える。最低限の稼働のための余力が駆体にもたらされ、直衛佑が飛び立つ。

《へえ――!》

 全身に奇跡を走らせた由祈が不敵に笑う。

《やっと素直になれたんだ、いいね。でも、それっぽっちじゃ私は――》

 ――殺せない!

 言葉が届くより早く、由祈の姿がかき消える。ご丁寧に超振動波による狙撃の一射まで置き土産に撃ち放ってから。

 推力を追加変換、駆体をきしませながら急角度を取り、狙撃を回避。その動きを見透かしたように、現れた由祈が俺への万全の一撃を振りかぶる。

 どっ、ぎゅういっ!!

《ぐっ、うっ!》

 防御姿勢のまま、俺ははるか空へと打ち上げられる。数分前の連撃を食らった時とほぼ同じ、再演と言える状況。

《手ごたえありだよ、佑!》

 空に遠く、どこまでも澄んだ歌声を響かせながら、由祈が俺を追いかける。

 その動きには手加減の余地は欠片も見られない。

 当たり前だ。仰木由祈はいつでも、めがけた目標の達成のために全力を尽くす。

 そして――だからこの一刹那、俺に逆転のための機会が与えられる。

 ――きりいっ!

《!》

 極高速、俺を打ち砕くための全速力をまとった由祈に向け、紋をいななかせて俺は推力を発する。

 その動きに、ほんのわずか、突っ込んで来る由祈が逡巡の色を見せる。この一合では俺は反応できないはずだと、由祈は踏んでいたからだ。

 実際、その読みは九分九厘当たっている。攻撃を食らう瞬間、俺がある抵抗を仕掛けていなければ、今ごろ俺の意識は霧散し、とどめの一撃を無防備に受けるばかりとなっていただろう。

 由祈にとっては警戒してしかるべき場面――しかしそれでも、星火ほしびの銀は速度を落とさず、突撃を貫徹し続ける。

 そう来るだろうと信じていた。ここで振り上げた拳を降ろして逃げるようじゃ、多くの人の希望を担う、なんて芸当はできやしない。

 俺には伏せ札一つ、由祈には圧倒的な切り札が一つ。

 勝つ確証はない。それでも試みることをいとったりはしない。

 そうじゃなきゃ。それくらいしなければ、俺が仰ぐ明星には、到底手なんか届きやしないからだ。

《行くぞ、由祈――!》

 激突の一瞬、俺は声を張り上げて叫んだ。

 それでためらいは消えたようだ。由祈もまた渾身の一声で答える。

《かかってこい、佑――!》

 りいんっ!

 胸の紋が輝きを増し、引き絞った右の手を起点として白光を放つ。

 迫る圧倒的なまたたき、はるかな天の眩さへと真っ向突っ込む。

 そして――、

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