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Resume Trailer

 ざつ、ざつ、ざつ、ざつ、ざつ。

 が、き、ぎ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎっ。


 ――がちんっ。


『Re:Re:Re:Re:Re:』

『Re:sume』

『リサンプリングに成功。深層潜航、及び照合解析よし。起動宣告を再実行します』

『“我は告げるキャスト”』


 ごうっ!!


『現地時刻一七時一七分一〇秒、対象の現実からの消失を確認。転移先は不明、敵性識域しきいきの可能性大』

『現刻より申請の内容に従い、作戦ミッションを開始します』

『――降下アセンション


《ぎ、いぃぃぃぃっ!?》

 逃げるという選択肢を放棄し、代わりに眼前の怪物の身体部位を精密感覚。

 黒く光る眼球目掛けて鉄パイプを突き込む。

 引き換えにやられたのは腕。どうなっているか見たくもない。でもいい。

 脆くて儚い。、使い潰してもいい。、どう利用しても構わない。

「そんなふざけたことを考える、やつの、思い通りになるのは……。ごめんだ」

 考えが決まった。やることは一つだ。

「お前の“終わり”を叩き起こす――自分がただの存在モノに過ぎないってこと、思い出させてやる!!」


逸路いつろ。識域から望む“可能性”を掘り出し、その力でもって現実に干渉しようとする禁忌きんき存在。貴方の幼馴染みは、極めて希少で高価値な“餌”として狙われている」

『困った事にこの世界は、やろうと思えば書き換えることが出来てしまう。そうさせないために――』

「あなたは、記憶を。本当の“願い”を見つけなければならない」


「佑ちゃんあの時、?」

 存在ものは壊れる。いつかきっとそうなる、という。その感覚はいつも俺の中にある。

 “それ”が、もし生まれつきのものでないのなら――俺も変われるかもしれない。

 自分だけの“願い”を持って、誰に望まれなくても生きて、動く。そういういいもの、眩しいものに、なれはせずとも近づけるかもしれない。

 “――だよ”

 不意に脳裏に声が蘇り、巡っていた思考を遮って、一つの記憶を意識の真ん中へと差し込む。

 “約束だよ”


「甘やかせ」

 ざく、ざく。

「意外だった。佑がおぶってくれたの」

「俺に、お前が頼んできたからに決まってるだろ」

「何でも言え。聞くし、それがお前の役に立つなら、やるから」


 ひゅうう、どんっ。

 ぱぁんっ。


「思い出せばいいんだろ。それで、言えばいいんだろ」

 約束ってやつの、返事。

「だから、待っててくれ」

 食われたりなんかしないで、それまで。

「ヨシ」


 どんっ、ぱぁんっ。

 ぱん、どんっ。どっ――。


 ――どさっ!


 どさっ!

 どさっ!

 どさっ!

 どどどどどどどどど、ずじゃっ、どざあっ!!


《この世界は残酷だ! 存在われわれをまるで重んじることがない! 神の作りたもうたこの世界は、“!!》

偶像ディーヴァ生命いのちの祈りをおこし導く歌姫ディーヴァ! 不要なるつゆを払い――至った汝の祭壇でこそ、我が悲歌ネーニアは真なる糧を得よう!》

もう一度モア!! もう一度モア!! もう一度モア!! もう一度ワン・モア!!》


『Re:Re:Re:Re:Re:』

『Re:sume』

『Con:struction』

『Chapter:4』


原型げんけい記憶率きおくりつは識域における生命線、下がれば下がるほど実質の死に近づく。扱う空想の出力効率コストパフォーマンスが悪いこと、それが君の最大の課題だねえ』

「せめてもう少し形態かたちの効率が良かったら……」

「……形態かたちを、える?」


 耳障りな羽音が響き渡る。

 聞こえる、肌を総毛立たせる。あらゆる方角から“お前を取り囲んだ”という布告が降ってくる。

「よく、たえた。ここからはわたしのしごと」

 瞬間的に反応変成、炸裂する大容量火薬の爆圧が大気を震わせる。

 生命いのち持つ個体へ贈られるには規格外に過ぎる質量、貫通力、破壊制圧能力。射出された徹甲砲弾は慄くほどの速度で群れへ迫り、望まれた通りの征服を顕現させる。


 悠乃の戦闘力は圧倒的だ。だけど、

「(――まずい!)」

 今、状況の変化を感知したのは恐らく俺一人。

 その俺だって、完全には事態を掴めていない。が起ころうとしているか、すぐに伝えることができない。

 どうすればいいか、把握して対応できるかすらも定かじゃない。

 ……なら、迷っている暇はない。

『できることをやれないのは』

 それは、嫌だ。

 力を尽くすと決めた。読み切れない未来に、何が待っているとしても。

「コギト!!」

了解コピー。略式宣告を実行します』

 空想を打ち込むと同時に足元が溶けた。

 わずか一秒未満、ほとんど吸い込まれるような勢いで、俺は砂地獄が生み出した暗闇の底へと落下していく。


『原型記憶率の低下を確認。これ以上の戦闘の続行は推奨されません』

「諦めて、たまるか……っ!」

 血が足りない。立ち上がろうとする足が震えている。

 敵意を向けることすらままならない。成そうとする間に全身が砕けそうな一撃が降り、突き転がされる。

 一秒、一瞬の足止めにもならない。合流を止められない。

 悠乃たちが危機に陥ろうとするのを、ただ見ていることしかできない。

 これが摂理げんじつだ、と言われているような気がした。

 本当のこと、受け入れるべきこと。

 当然の前提、動かしようのない決まりごと。

 世界は存在のことなんてどうでもいい。

 俺がどれほど大切だと感じていても、信じていても、そんなことは世界にとってつゆほども意味のあることではない。

 知っている。っている。そんなこと、嫌になるほど四六時中感覚している。

「……だから、なんだ」

 血に塗れ、砕けた骨がなお割れる手触りと共に吹き飛ばされながら、毒づく。

「だから、何だっていうんだ」

 瑣末だから。脆く愚かしいから。弱く力がないから。

 、死ぬしかない。

 、願おうと叶わない。

 、ただ頭を垂れて従い、諦めるしかない。

 そんなことを認めろというのか?

 そんなやりきれない本当を正しいと仰げというのか?

 お断りだ。

 それを追認することが適応だと、何かに成ることだというのなら、俺は一生このままでいい。

 何に変わることもできない“からっぽ”のままでいい。

「…………」

 羽音が静まり、翻る。

 ゆっくりとこちらに殺意が向けられるのを感覚する。

 それでいい。

「……効率……」

 朦朧、かすむ意識の奥深くから、すべきこと、その答えが浮かび上がってくる。

 この形態からだじゃ

 もっとましなかたちに換える必要がある。そうすれば直衛佑オレはやりたいことをやりたいように考えられる。

『警告。識閾下制御の強制解除を確認。封鎖設定が無効化されます。危険です』

「少し黙ってろ」

 邪魔なものは脇にのける。そうして空洞を作る。

 否。戻す。元からそうだったからっぽに、俺という存在を定義し直す。

 羽音がいななく。姿が掻き消え、あの粉砕の一撃が迫る。

 けれど、遅い。

 今更の判断だった。既に直衛佑という存在は思考を始めていた。

 走らせていた。

 この、どうしようもなく腹立たしい摂理せかいをひっくり返すための、たった一つそれしかないとわかりきっている空想を。

「――――」

 刹那の一瞬、口を開く。そして紡ぐ。

 布くべき意志、敷くべき宣告。

 俺という存在の、かたちを変えるその空想を。

「“我は我を鋳るリキャスト”」

 そして、世界に無の白が訪れた。


『Con:sume』

『Re:sume』

『Re:cast』


『To be Continued』

『June』

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