第3話 魔法使い限定の情報屋
カツーン、カツーンと階段を登る音が響く。
「リナリア様、魔法使い限定の情報屋というのは‥‥‥?」
「そのままの意味だよ。魔法使いに対する風当たりの強さは、未だ根強い。だからこそ、魔法使いが生き残るための独自のコミュニティが必要なんだ」
「‥‥‥」
もうすぐ依頼人のいる部屋にたどり着くことを悟ったリナリアは、後ろをついて来ていたルカを振り返った。
「ルカ、情報屋の男に会う前にひとつ伝えておく」
「なんですか?」
「情報屋の言うことは、あまり真に受けすぎるな」
「情報屋なのに、ですか?」
「金を払って得た情報は信用できる。しかし、それ以外の話は、信用しすぎない方がいい」
「分かりました」
リナリアはルカの返事を聞いて、満足気に前を向いた。やがて階段を登り切り、目の前に扉が現れた。リナリアはノックして、扉を開けた。その中にはー‥‥‥
「やっほー、リナリアちゃん。相変わらず可愛いね〜」
そこには、「情報屋」である金髪の男がいた。ネックレスや指輪をジャラジャラ身につけており、カラーグラスもかけている。笑う口元からのぞくギザ歯が特徴的な彼は、片肘ついて挑戦的にこちらを見上げている。
彼の印象を敢えて言うならば、「チャラい」の一言に尽きる。
「‥‥‥」
そんな彼の姿を目にした瞬間、ルカの警戒心が高まったのを感じた。というか、殺気すらを感じる。だから会わせたくなかったんだ、とリナリアは思った。
これは、彼のためにも早く帰った方がいいかもしれない。リナリアは持ってきた資料を机に置いた。
「久しいな。これが頼まれていたものだ。報酬は郵送で。それじゃあ帰る」
「ちょっとちょっと〜。そりゃあ、ないんじゃねえの?」
リナリアが回れ右をしようとしたところで、帰り道に続く扉がバタンと閉められた。
「‥‥‥何か用でもあるのか?」
「しっかり資料に情報が書かれてあるか、軽く確認させて。報酬はその後ね」
彼は資料を手に取って、パラパラと
「というか、リナリアちゃん男連れ? あのリナリアちゃんが?」
「ルカとは、そういう関係じゃない。彼は、私の使い魔だ。前に使い魔と契約したのを話したことがあるだろう」
「俺はそういう関係になりたいと思ってますが」
「君は出てくるな、ややこしい」
リナリアは怒るが、ルカは飄々としている。そんな様子を見て、目の前の情報屋はぶはっと吹き出し、大爆笑をし始めた。
「リナリアちゃんに片想いしてるの?! 大変でしょ。この子、頑固で」
「大変ですね」
「おい」
「リナリアちゃんを落とすための有益な情報売るよ〜。もちろん有料だけど」
「言い値で買います」
「買うなっ」
「その代わり、一生、他の方にリナリア様の情報を売らないようにして下さい」
「よっしゃ、交渉成立〜」
「成立させるなっ」
そんな会話をしている間にも、情報屋はリナリアの渡した資料を確認している。そのスピードは一切乱れず、確認はすぐに終わった。
「よし。しっかり欲しい情報はあった。ありがとうね、リナリアちゃん」
「仕事だからな。それより、暗示魔法の解析と応用の資料が欲しいなんて、悪用はしないんだろうな?」
「悪用はしないし、悪用するような奴に売ったりもしない。僕の仕事は信用で成り立ってるからね〜。これ結構重要なんだよ?」
彼は立ち上がって戸棚から麻袋を取り出す。
「報酬はこれ。しばらくの生活の足しにしてよ」
「助かる。ありがとう」
「仕事だからね〜」
彼はにいっと笑って、リナリアの手のひらに袋を置いた。手の上にずしりとした重みが乗る。情報屋は、すぐにルカに視線をずらした。
「というか、本当にルカ君が使い魔なんだ? 人型なんて珍しいね」
「そうなのか?」
「そうだよ〜。使い魔は、動物の姿をしている場合がほとんどだ。彼は非常に珍しい」
「へえ」
「博識な僕ですら見たことがないし、初めて知った」
「自分で言うな」
リナリアは、初めて知った事実に驚く。情報屋はどこからかボードとペンを取り出してーーー取り出す際に、部屋に積み上げられていた物が少し崩れていたーーー「使い魔とは何か」と書いた。
「使い魔っていうのは、人間が契約して使役した魔物のこと〜。ちなみに、魔物は魔力を持った動物のことだよ。使い魔の姿として一般的なのは、猫とか狼。あとは鳥類かな」
情報屋は、使い魔と人間のイラストを描いて、その主従関係や種類を示していく。情報屋の描く絵はどこかファンシーで‥‥‥見た目とのイメージのギャップが凄かった。
「そして、使い魔を使役する方法は、二つ。一つは、召喚すること。召喚されるのは、人間に従順な低級の使い魔が多いから低リスク〜」
情報屋は次々に猫や鳥のイラストを描いていく。
「もう一つは、偶然遭遇した魔物を手懐けること〜。こっちは、運が良ければ超・レアな魔物を使役できるけど、手懐けられなかったら最悪死ぬからな〜」
「使い魔から殺されるってことか?」
「厳密には契約前に殺される危険性があるってところかな。契約して使い魔になったら、主人を裏切ることは出来ないし、基本的に主人の側を離れることが出来ない。使い魔って、首輪に繋がれてるもんだよね〜」
「えっ」
リナリアは、初めて知った事実に再び驚いた。自分と彼は、平等だと思っていたからだ。「ルカは嫌がっているのではないか」と心配になったリナリアは彼を振り返る。
「リナリア様に首輪で繋がれてるなんて‥‥‥」
「心配した私が馬鹿だった」
ルカは、胸に手を当てて悦に浸っていた。心配する必要はなかったようだ。
「リナリアちゃんは、ルカ君とどんな風に契約結んだの〜?」
「私たちは後者だな。たまたま出会った時に契約を迫られたんだ」
そこまで言って、リナリアはふと考える。
(ということは、ルカは珍しい使い魔ということか? 人間の姿も珍しいみたいだし‥‥‥)
「リナリア様、買い出しにも行かれるんですよね? 時間は大丈夫ですか?」
「ん? そうだな。もう行くか」
ルカに催促されて、リナリアは頷く。これ以上、ここに滞在する理由もない。リナリアは去ろうとしたのだが、情報屋に呼び止められた。
「ちょっと待ってよ、リナリアちゃん」
「なんだ?」
リナリアが振り返ると、情報屋はニヤリと笑った。彼のギザ歯が口元からのぞく。
「頼みたい仕事があるんだ」
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