第38話 毒針再び


「……た、助けてくれぇ!」



 皇帝に短剣を突きつけられたヒマンドは、顔を青ざめさせて震えている。



「早くしろ!私は本気だぞ!」



 皇帝は短剣をヒマンドの首元に押し付け、そこから血が滲み出て来た。



 それを見たセロニアスは、懐から吹き矢を取り出すと、皇帝の頭目掛けて毒針を放った。



───ぴゅっ!


 毒針は、皇帝オレス=ティウスの額の中心にぶっ刺さった。



「──は!?」

「あれ? お前も避けないのか!?」



 皇帝とセロニアスの視線が合う。

 お互いちょっとびっくりしている。そして皇帝オレス=ティウスはそのまま仰向けに倒れた。



「おいおい、お前も死んだふりか?」



 セロニアスはカーターに視線を向ける。

 カーターは青褪めながら、皇帝オレス=ティウスの脈を確認した。



「……あ、死んでる」

「おいおい、カーターも冗談が好きだなぁ」

「いや、本当に死んでるって」

「え、だって帝国皇帝だぞ?」

「長い針が深くぶっ刺さってる!」

「え、だって軽くピュってやっただけ…」

「だから、ピュっじゃねーよ!」

「じゃあ、ふーって感じ?」

「そういう事じゃねぇって、前回言ったろうが!」



 セロニアスは、ザイトリンに続き、帝国皇帝までも毒針で殺してしまった。



「セロ様、どうするんですか!?」

「どうしようカーター?」

「だから、どうしようじゃありませんよ!」



 モーリスとヒマンドは呆然としている。



「セ、セロ様、少しは学習して下さいよ!」

「バカ野郎! そんな事より人命救助が先だろうが!」

「そ、そうでした!」

「おい、しっかりしろ皇帝!」



 セロニアスは皇帝の身体を激しく何度も揺らした。

 その度に皇帝の頭は床にぶつかって、額から大量の血がドバドバ出て来る。



「うわ、また血が止まらなくなったぞ、カーター」

「あんたが余計な事するからだっ!」

「は、ハナクソで止血してみよう!」

「だから、ハナクソ付けてもダメなんだよ!」

「そうだった、ザイトリンの時もダメだったんだ」

「 …ていうか、皇帝はもう死んでるんだよ!」



 その場にいた全員が呆然としている。



「そうだ、ザイトリンみたくゾンビにしよう!」

「え、またですか!?」

「……あぁ、それは名案ですな」



 モーリスがようやく口を開いた。



「帝国が二度と戦争しないように出来るかもしれませんぞ」

「おお、これで世界平和が完成するな」

「さすがはセロ様です」

「よし、さっそく死霊術士のジジイに会いに行こう「」!」



 セロニアス達は、死霊術士のジジイの所へ向かった。







 わんぱく王国の酒場「イバラの道亭」。



 邪神を操って世界を滅亡させようとしていた、死霊術士のジジイはそこにいた。


 彼は邪神をセロニアスに取られてしまい、最近は飲んだくれのアル中になっていたのだ。



「おうジジイ、飲んでるか?」

「何だお前か、何しに来やがった?」

「いや、帝国の皇帝をうっかり殺しちゃってさぁ」

「ウッカリだと?……ヒックっ」

「そうなんだよ。またゾンビにしてくれよ」



 ジジイは、手に持っていた酒瓶を一気に呷った。



「ふん、嫌だね。私は酒だけ呑んで生きていくんだ。……うぃ〜」

「バ、バカヤロー!」

「ぐはあぁぁあーっ!」

「お前の夢はそんな物だったのか!」

「…痛てぇな、何しやがる!?」

「お前は、世界を滅亡させたいんだろ!?」

「うるせー、そんなのは儚い夢物語なんだよ」



 またジジイは酒を呷った。そして酒瓶は空になった。



「おいマスター」

「へい、何でしょう旦那!」

「このジジイに最高級の酒を出してやってくれ。俺のおごりだ」

「へい、喜んで!」



 ジジイのテーブルには最高級の酒が置かれた。



「ジジイ、この酒やるからゾンビ化頼むよ」

「たく、しょうがねぇな。今回だけだぞ」

「おぉ、やってくれるか」



 こうして帝国皇帝オレス=ティウスのアンデッド化は始まった。



「それで命令はどうする?」

「今回も3つか?」

「3つだ」

「じゃぁ、とりあえず女装家のオネェにしてくれ」

「残りの2つは?」

「平和主義、人に優しく、で頼む」

「分かった」



 こうして帝国皇帝オレス=ティウスは「人に優しい平和主義者で、女装家のオネェ」なゾンビとなった。







 デストラーデ帝国、バークレオ城。


 その玉座には、ゾンビとなって蘇った皇帝が堂々と座っている。



 ゾンビ皇帝は側近の兵士に尋ねた。

 


「ちょっと、あんた」

「…は、はい!」

「和平交渉はどうなってるのよ?」

「セ、セギノール共和国の連絡待ちとなっております!」

「あらそう。早く停戦出来るといいわよねぇ」

「は、はぁ……」



 皇帝オレス=ティウスはゾンビになって、顔色は生気が無い青紫色となり、腐敗臭も強く漂っている。


 しかしモーリスの認識阻害魔法でそれらをカバーし、アンデッドだとバレないように工夫されていた。




「それよりあんた、休みは取ってるの!?体調とかどうなのよ!?」

「わ、私は大丈夫です!昨日休みを頂きましたので!」

「あらそう。ご両親は元気なの?たまには帰ってあげなさいよ」

「は!お心遣い感謝致します!」



 急激に性格や話し方が変わった皇帝。周りの配下達は大きく戸惑った。


 しかし、優しい言葉を掛けられるのは、誰でも悪い気はしない。



 そして、圧倒的な強さで帝国軍を殲滅していく魔王ヒマンドや、徹底抗戦する各国と停戦するのには、誰も反対しなかった。




 こうして、世界各国は平和に向かい歩み出して行くのであった。

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