第37話 ヒマンドのお誕生日会


 帝国皇帝が呆然自失する中。

 

 ヒマンドのわんぱく王国、王城ではセロニアスとモーリスが話し合っていた。



「なに、ヒマンドの誕生日?」

「はい。一応国王ですので、お祝いをした方がいいかと」

「国王? あぁ、そんな設定だったな」

「そんな設定でございます」



 わんぱく王国では、ヒマンドの誕生日が3日後にやって来ようとしていた。



「うーん、誰か呼んだ方がいいか?」

「ヒマンド様にご友人はおりませんし」

「両親も行方が分からないしな」

「しかし、我々と魔物だけのパーティーだと、ヒマンド様は寂しいかもしれません」

「確かにな」

「セロ様、何かいいアイデアはありませんか?」

「……そうだ、いい考えがあるぞ」

「ほう、流石セロ様ですな」



 こうして「ヒマンドのお誕生日計画」は、着々と進んでいったのだった。








 3日後。


 わんぱく王国、王城では、ヒマンドのお誕生日会が行なわれていた。



 魔物の席には……


 邪神ウン・コロスケ

 ポチマル

 ミノタウロスキング

 オークキング

 ゴブリンキング


 という、邪神と魔物のボス達が集まっていた。オークキングの傍にはサブリナ3姉妹の姿もある。



 そして人間席には……


 セロニアス

 モーリス

 カーター

 オレス=ティウス



 という面子が揃っていた。



「皇帝、起きろ」

「……ん!?」

「悪いな。急に来てもらって」

「……な、何だここは!?」

「いやほら、国のトップ同士なら、お互いの気持ちも分かるかと思ってさ」

「……な、な、な、何なのだ、これ…は!?」





──今より30分前。


 セロニアス達は、モーリスの転移魔法で帝国の王城まで出向いていた。



「セロ様…」

「何だカーター?」

「本当に、帝国皇帝を誕生日会に誘うんですか?」

「そうだぞ」

「来てくれないと思いますけど」

「そんな事はないぞ」



 セロニアス、モーリス、カーター、の3人は、皇帝が1人になる隙を狙った。そして運良く皇帝が自分の寝室に入っていった。



「おっす、皇帝」

「──な、何だ貴様」



 皇帝が話し出すと同時に、モーリスのボディブローが皇帝の腹部を捉えた。皇帝はそのまま気絶し、モーリスは皇帝を自身の肩に担いだ。



「じゃ、連れて行こう」

「ちょ、…これって誘拐じゃないですか!?」

「いやいや、皇帝ともなると中々素直になれないから」

「そ、そうなのかなぁ……」



 こうして3人は、皇帝オレス=ティウスを、ヒマンドの誕生日会に連れて来る事に成功したのだ。







 ヒマンドのお誕生日会では、主役のヒマンドの挨拶が行なわれていた。



「……という訳で、今日はありがとう」

「ヒマンド様、おめでとうございます!」

「ヒマンドおめー」

「「ウガァァァ!」」



 会場は祝福の拍手に包まれた。そして皇帝は驚愕した。



「……ヒ、ヒマンドだと!?」

「そうだぞ、あいつが国王だ」

「……こ、ここは、わんぱく王国か!?」

「その通りだ。まぁゆっくりして行けよ皇帝」

「……わ、我を拉致して、何が目的だ!?」

「別に拉致した訳じゃないって」

「ふざけるなぁぁあーっ!」



 皇帝は怒り心頭となり、テーブルを叩いて叫んだ。


 すると、そこにポチマルとミノタウロスキングが駆けて来て、皇帝の両腕を抑え込んだ。



「ぐわぁぁあ! 何をする、放せぇ!」

「まぁ2人共落ち着け、少し気持ちが高ぶっただけだから」



 セロニアスが声をかけると、2人は皇帝の両腕を解放してやった。



「皇帝、まぁ今日くらいは仲良くしよう」

「何だと!? こっちは3カ国も陥落させられてるんだぞ!?」

「細かい事はいいじゃないか」

「貴様!ふざけるな……」



 皇帝が声を荒げそうになると、ミノタウロスキングが皇帝の頭を鷲掴みにした。



「ぐあぁぁぁあーっ!」

「あ、そいつは鉄球でも簡単に握り潰すから、気を付けろよ皇帝」

「や、やめろ、やめてくれぇぇ!」

「とりあえず、ヒマンドを祝ってやってくれよ」

「わ、分かったから…」

「あいつ友達がいなくてさ」

「……ぜひ、友人にならせて…くれ」



 ミノタウロスキングは皇帝を放してやった。



「じゃあ、ヒマンドと話でもしてやってくれ」

「……わ、分かった」



 皇帝オレス=ティウスは、ヒマンドの隣の席に座った。ヒマンドはどうしていいか分からず、キョトンとしている。



「魔王ヒマンド。私が皇帝オレス=ティウスだ」

「…え、魔王?」

「やはりお前の目的は、世界征服か?」

「え、いやいや、そんな事思ってる訳ないだろ?」

「まぁいいさ。国のトップ同士、大いに語ろうじゃないか」

「あ、あぁ。(別に話す事ないけど…)」



 と、その時だった。

 皇帝オレス=ティウスは懐から短剣を取り出し、ヒマンドの首元に突き付けた。



「貴様ら動くなぁぁ!」

「……何だ、何だ?」

「魔王ヒマンドを殺されたくなくば、すぐに帝国へ我を返せ!」



 すぐにポチマルが駆けていこうとするが、それをセロニアスが制止した。



「おい皇帝、落ち着け」

「黙れ、早くしろ! 転移魔法を用意するのだ!」

「皇帝、もう争い事は止めにしないか?」

「ふざけるなぁぁ! やられたまま引き下がれるかぁ!」



 セロニアスは深いため息を付く。



「あのな、俺の祖国を裏切って占拠したのは誰だよ?」

「うるさい、黙れ!」

「奴隷ギルド使って、俺達の国の子供を誘拐したろ?」

「それがどうした!」

「全部チャラにするから、停戦にしないか?」

「する訳が無いだろう! お前らは全員殺す! 我が世界の覇者となるのだ!」

「何を言っても無駄か」

「転移魔法の準備をしろ! ヒマンドを殺すぞ!」



 ヒマンドの首元には、皇帝の短剣が少しづつ食い込んでいった。



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