第36話 ギノール王国の7人衆


 帝国領、ギノール王国。


 この国は女王ポーラ・ギノールが統治する強国として知られている。


 兵力数は20万という、帝国屈指の軍事国家である。



「7人衆よ、揃っているな」

「「はは!」」



 今、女王ポーラ・ギノールの眼の前には、王国を支える7人衆、コラック、シリーノ、テイバック、シリフェチン、プリケイツ兄弟、ベンピン、が集っていた。



「皆、わんぱく王国侵攻の準備は万全だな?」

「はい。抜かりはありません」

「シリーノ、魔王ヒマンドについてどう思う?」



 ポーラ女王は、王国の頭脳である参謀シリーノに問いかけた。



「正直、ビビっております」

「貴様ぁ!それでも帝国戦士か!」

「あぁポーラ様、私に罰を下さい!」


「おいおいシリーノ、抜け駆けは無しだぞ! 俺達もポーラ様のお仕置きを待っているのだ!」



 口を挟んで来たのは、騎士団長コラックだった。コラックは変態紳士と呼ばれる変質者であり、帝国外にもその名を轟かせている。



「コラック、私が先だぞ!」

「なんだと!? 貴様……」

「やめなさいコラック。今は言い争っている場合ではない」



 2人を仲裁したのは、テイバックだ。彼は大陸でも上位に入るドM男である。


 ゆくゆくは、大陸最強の変態だったスカトロンを超えるかもしれない、とも言われている程の人材だ。



「まぁ、とりあえず戦ってみるといいでごわす!」

「そうそう、兄者の言う通りでごわす!」



 双子のプリケイツ兄弟は共に元変質者で、2人共いかにも元変質者の様な容姿をしている。

 そしてその容姿通り、常に変態プレイに駆られる危険な内面性を持っていた。



「ともかく、我がギノール王国の脅威は完全に摘むべきでしょうな」



 大司祭ベンピンは、野太い声でそう言った。ベンピンも司祭でありながら、下半身は常に赤フンドシという変態だった。



「よし、7人衆よ! その力を魔王ヒマンドに見せてやるのだ!」

「「はは!!」」


 

 ポーラ・ギノール女王の号令に、7人衆は颯爽と出陣の準備に入った。



「よし、早々に負けて罰を頂こう!」

「ぶわはは! ポーラ様のムチ打ちの刑は私が一番乗りだ!」

「コラック、私が先だ!」

「分かった、分かった」

「私は新たな変態プレイを試させてもらう」

「私達に変態の神の加護があらん事を」

「あらん事をでごわす!」



 こうして、戦いの火蓋は切られようとしていた。







 わんぱく王国、ガルベス大平野。


 そこには宮廷格闘家モーリスが、ギノール王国軍を待ち構えていた。



「ハニマルには負けられん!」



 10万のブラゼル聖王国軍を全滅させたハニマル。モーリスはそんな彼に強いライバル心を持っていた。



 そしてしばらくすると、モーリスの前にギノール王国の7人衆が颯爽と現れた。



「む、どうした7人だけか!?」

「そっちこそ1人だけなのか!?」



 モーリスと7人衆は、お互い驚いていた。



「そうだ、ギノール王国など私1人で十分だ!」

「何、それでは私達が勝ってしまうではないか!? マズい事になったぞ!」

「……貴様ら何を言っている!?」

「私達は早々に負けてこそ、ポーラ様からお仕置きを頂けるのだ!」

「貴様ら頭がおかしいのか! 訳が分からんぞ!」



 モーリスは変態7人衆を相手にして、頭が変になりそうだった。



「くそ!どうにかして、このジジイに負けなければ!」

「貴様らとは付き合いきれん!」



 モーリスは、鍛え抜かれた脚力で一気に相手との距離を詰めると、右ストレートと回し蹴りを炸裂させた。



 7人衆の内2人は、その攻撃で地に倒れてしまう。



「おぉ、このジジイ強いぞ!」

「これは期待出来る!」

「ポーラ様、今行きますぞ!」



 仲間がやられて、何故か嬉しそうな5人。すると間髪入れずに、モーリスの裏拳2発とカカト落としが炸裂した。



 そして……




「喰らえ、ハッスルボマー!」

「ぐわあぁぁぁあーっ!」

「ハッスル・パイルドライバー!」

「ぐわあぁぁぁあーっ!」









 結果、7人衆は全員絶命した。








永遠とわに眠れい、変態達よ!」

 


 モーリスは、転移魔法でその場を去っていった。



 こうして、ギノール王国のわんぱく王国侵攻は完全な失敗に終わったのだった。







 デストラーデ帝国、バークレオ城。


 皇帝の元に、次々と伝令の兵士がやって来た。



「陛下、報告致します!」

「どうした?」

「ブ、ブラゼル聖王国10万の軍が全滅致しました!」

「……何!? …ぜ、全滅だと!?」



 絶句する皇帝の前に、新たな伝令の兵士が駆けて来た。



「陛下、報告致します!」

「…………」

「ギノール王国軍は7人の将が討ち死にし、ポーラ女王は全面降伏しました!」

「──!?」

「なお、ブラゼル、ギノールの両国は、突如現れた魔物達が占拠しています!」




 わんぱく王国の王城にて増え続けている魔物達は、その後も全て帝国の大森林にリリースしていた。

 そして手薄になった王国を占拠するように、セロニアスは魔物達に指示していたのだ。



 皇帝オレス=ティウスは、玉座から立ち上がりふらふらと歩き出した。



「……そんなバカな、確かな情報なのか!?」

「は! 間違いありません!」

「ま、魔王ヒマンド、何という強さなのだ……」



 すると、そこにまた伝令の兵士が走って来た。



「陛下、申し上げます!」

「うるさいっ、 騒々しいぞ!」

「も、申し訳ありません! 」

「今度は何なのだ!?」



 玉座に座り直した皇帝は、伝令に尋ねた。



「レ、レイノルズ王国に侵攻していた我が軍が、全滅しました!」

「──な、何だと!?」

「我が軍は、オークの群れに背後から襲われたそうであります!」

「……オ、オークだとぉぉ!?」

「メスオークが率いる群れだとの事です!」

「メスオーク!?」

「それと、レイノルズ王国にも不死身の兵士がいて、我が軍に甚大な被害が出たそうであります!」


 

 皇帝は、予想だにしていなかった自軍の大敗北に、只々呆然とするばかりだった。

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