第35話 ブラゼル聖王国の6戦士



 デストラーデ帝国。


 皇帝オレス=ティウスは、世界の覇権を握る為の宣言を行った。



「諸君、かつて我々は邪神によって多くの犠牲を払った。だが、そんな事に屈してはいけない!」

「「うおぉぉぉおーっ!」」

「我が国の悲願である世界制覇を、何として成し遂げるのだ!」

「「うおぉぉぉおーっ!」」



 レイノルズ王国、セギノール共和国に侵攻を開始していた帝国は、いよいよ魔王ヒマンドにも戦いを仕掛けようとしていた。



「メヒア王国をアンジェ軍から取り戻すのだっ!」

「「うおぉぉぉおーっ!」」

「魔王ヒマンドも恐れるな! 我々は勇敢な帝国戦士だ!」

「「皇帝陛下万歳! デストラーデ帝国万歳!」」



 こうして帝国は、アンジェ王国(旧メヒア王国)と、ヒマンドのわんぱく王国に宣戦布告し、侵攻を開始したのだった。







 帝国領、ブラゼル聖王国。


 わんぱく王国と隣接しているこの国は、聖騎士団7万と武装神官団3万を擁している。



「6戦士達よ、揃っているな」

「「はは!」」



 今、ブラゼル聖王の眼の前には、聖王国を支える6戦士、リアムス、ノウェル、ボーンヘッド、アラン、ゲム、アンディ、が集っていた。



「皆、わんぱく王国侵攻の準備は万全だな?」

「はい。抜かりはありません」

「リアムス、魔王ヒマンドについてどう思う?」



 ブラゼル聖王は、王国の頭脳である司教リアムスに問いかけた。



「最大の脅威であるのは間違いありません」

「ほう、お主はそう思うか」

「人類の生存をかけた戦いとなるでしょう」


「ぶはははっ!リアムス、お前はいつも慎重過ぎるぞ!」



 口を挟んで来たのは、聖騎士団長アンディだった。アンディは「戦えば百戦百勝」と呼ばれる猛将であり、帝国外にもその名を轟かせている。



「アンディ、お前が単細胞過ぎるのだ」

「なんだと!? 貴様……」

「やめなよ、アンディ。今は言い争っている場合じゃないだろ?」



 2人を仲裁したのは、二刀流の女聖騎士ノウェルだ。彼女は大陸でも上位に入る剣の使い手である。


 ゆくゆくは、Sランク冒険者だったイメルダを超えるかもしれない、とも言われている程の人材だ。



「まぁ、とりあえず戦ってみるといいでやんす」

「そうそう、ゲム兄貴の言う通りでやんす」



 双子のゲム、ボーンヘッドの兄弟は共に元暗殺者で、2人共とても冷酷そうな容姿をしている。そしてその容姿通り、常に殺人衝動に駆られる危険な内面性を持っていた。



「ともかく、我がブラゼル聖王国の脅威は完全に摘むべきでしょうな」



 大神官アランは、甲高い声でそう言った。アランは神官でありながら、わいせつ行為が好きな変態でもあった。



「よし、6戦士達よ! その力を魔王ヒマンドに見せてやるのだ!」

「「はは!!」」


 

 ブラゼル聖王の号令に、6戦士達は颯爽と出陣の準備に入った。



「よし、久々に合法殺人が出来るでやんす!」

「ぶわはは! 魔王ヒマンドは俺が殺るぞ?」

「アンディ、敵を甘く見るな」

「分かった、分かった」

「私は剣術秘奥義を試させてもらうわ」

「私達に神と変態の加護があらん事を」

「あらん事をでやんす!」



 こうして、戦いの火蓋は切られようとしていた。







 その頃、ヒマンドのわんぱく王国では、緊急会議が開かれていた。


 宮廷格闘家となったモーリスが、セロニアスに声をかける。



「セロ様、いよいよ帝国が侵攻して来ました」

「懲りない奴らだな」

「私が出陣して、敵を蹴散らして来ましょう」

「いや、もうカーターが行ったよ」

「え、カーターで大丈夫でしょうか?」

「ハニマルも一緒だから、大丈夫だろ」

「なるほど」




 わんぱく王国内、ガルベス大平野。


 そこにハニマルを連れたカーターがいた。2人は侵攻して来るブラゼル聖王国軍を待ち構えているのだ。



「うー、寒っ! 早く帰りたい」

「ワンワン!」

「ハニマルは嬉しそうだな…」



 すると1キロ先くらいに、ブラゼル聖王国軍が起こしたであろう大きな土煙が見えた。


 カーターはそれを双眼鏡で確認すると、ハニマルに声をかけた。



「ブラゼル聖王国軍が来たな」

「ワン!」

「じゃあ、ハニマル頼んだぞ」

「ワンワン!(任せろ!)」



 ハニマルは特大魔法の詠唱に入り、それを完成させた。



「ワンワンワン!(爆霊地獄扉召喚ヘルター・スケルター)」



 ハニマルの魔法で、何と上空に巨大な禍々しい大扉が現れた。そしてその大扉は、不気味な音を立てて開いていく。


 やがて大扉の中から、爆炎を纏った大巨人の姿が現れた。そして大巨人は大口を開けて勢い良く息を吸い込んだ。



 すると、10万騎のブラゼル聖王国軍は、次々と大巨人の口の中に吸い込まれていってしまうのだった。






 




 結果、ブラゼル聖王国10万騎は全滅した。










「…………」

「ワンワン!」



 カーターはしばらくの間、開いた口が塞がらなかった。



「……す、すげー」

「ワンワン!」

「……じゃ、帰ろうかハニマル」

「ワンワン!」



 こうして、ブラゼル聖王国の侵攻は完全に失敗に終わったのだった。

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