第34話 邪神再び



 ヒマンドのわんぱく王国。


 セロニアスとカーターは、国内の森でバーベキューをしていた。



「うん、うめぇ」

「セロ様、帝国がレイノルズ王国とセギノール共和国に侵攻したそうですよ」

「あいつらも懲りないな」

「邪神が現れて、戦争は無くなるかと思いましたけどね」

「上手くいかないもんだな」



 カーターも串肉を頬張りながら、話を続けた。



「そういえば、邪神はどうなったんですか?」

「報告によると、完全体に近付いたそうだ」

「えー、大丈夫なんですか?」

「ちょっと様子を見てくるか」



 セロニアスとカーターは、邪神が潜んでいる地下迷宮の地底湖に向かった。







 地下迷宮、邪神が潜む地底湖。



「おっす、ジジイ。元気にしてたか?」

「貴様、とんでもない女をよこしやがったな!」

「あぁ、ジョアンヌの事か」

「ふん、まぁいい。邪神はもう完全体になった。世界の滅亡はもう止められんぞ!」



 セロニアスは、教祖のジジイを無視して地底湖に近付いた。



「おい、邪神!もう一度俺と勝負しろ!」

「バカめ、お前1人で何が出来る?」

「あれから猛特訓したんだよ。もう1人でも戦えるさ」

「何をバカな事を……」



 セロニアスの呼びかけにより、地下迷宮が激しく揺れ出し天井の岩が落ちて来た。



「セ、セロ様、本当に邪神に勝てるんですか!?」

「心配するなカーター」



 そして邪神は、その禍々しく巨大な姿を現した。



「オラ、かかって来やがれ巨大ウンコ野郎!」

「…………」



 セロニアスの挑発に、邪神は沈黙した。



「来ないなら、こっちからいくぞ!」



 セロニアスが抜刀すると、邪神はついに動き出した。地底湖の水が激しく動き、辺りが浸水する。


 しかし……



「なんだこりゃ?」

「……こ、これは一体!?」



 セロニアスとカーターの眼の前には、小さい体に姿を変えた邪神が現れた。その大きさは中型犬くらいである。


 そして小さな邪神は、セロニアスに土下座した。



「何だお前、俺の仲間になりたいのか?」

「アナタ二、フクジュウ、シマス」

「おぉ、人間語しゃべれるのか」

「ハイ。オボエマシタ」



 教祖のジジイとカーターは驚愕した。



「な、な、何て事だ……!」

「おお、流石はセロ様」

「こんなバカな事が……」

「前の戦いで、セロ様に背中を滅多刺しにされてたからなぁ」



 セロニアスはさっそく邪神のしつけに入った。



「おい邪神」

「ハイ」

「お前の名は、今日からウン・コロスケだ」

「ワカリマシタ」

「それと語尾には必ず『ナリ』を付けろ」

「ワカッタナリ」



 こうしてセロニアスは、邪神ウン・コロスケを配下に加えたのだった。


 

「よしカーター、こいつの首輪と犬小屋を買いにいくぞ」

「邪神に犬小屋って……」

「トップブリーダーに俺はなる!」




 セロニアスとカーターは街に出て、首輪とリード、犬小屋を買いそろえた。


 そして王城に行き、ヒマンドの寝室に犬小屋を設置したのだった。



「な、な、何だ、この不気味な生物は!?」

「邪神だよ。俺が留守中は面倒みてくれ」

「ふざけるな、何で私が!」



 セロニアスの提案を拒絶するヒマンドだったが、小さくなった邪神をサブリナが気に入ってしまった。



「ブヒィ!(可愛いじゃない!)」

「か、可愛くなんかないだろ!?」

「ブヒィ!(私が可愛いって言ってんでしょ、アンタ!)」



 サブリナの殺気にヒマンドは怖気づき、何も言えなくなってしまった。



「はは、すっかり尻に敷かれてるな」

「う、うるさい、そういう訳じゃない」

「まぁ、散歩は俺がするから心配するな」

「犬小屋もセロニアスの部屋に置けばいいだろ!」

「えー、嫌だよ。邪神なんて気持ち悪い」

「貴様、ふざけるなぁ!」

「じゃあ、後はよろしく」



 セロニアスは邪神ウン・コロスケをヒマンドに託し、再びカーターと出かけてしまったのだった。



 その場に残されたヒマンドと邪神ウン・コロスケは、お互いを見つめ合い呆然としていた。







 1ヶ月後。


 久しぶりに王城にやって来たセロニアスとモーリスは驚いた。



「あれ、魔物の数増えてないか?」

「増えてるという次元ではありませんぞ、セロ様」



 ヒマンドの王城に邪神ウン・コロスケが住むようになって、そこは魔物で溢れ返っていた。


 そんな魔物の群れの奥から、ヒマンドが大声で話し出した。



「セロニアス、魔物を何とかしろっ!」

「配下が沢山出来て良かったじゃないか」

「ふざけるなっ、これでは息もまともに出来ないだろうが!」



 ヒマンドの周辺も、隙間が無いほど魔物で埋め尽くされている。


 セロニアスは、空中を浮遊していた邪神ウン・コロスケに注意をした。



「おいコロスケ、魔物を作り過ぎだぞ」

「スミマセン、デモ、止メラレマセン」

「なるほど、魔物は自然発生してしまうのでしょうな」



 セロニアスは考え込んだ。



「モーリス、どこか魔物が生活出来る所はないか?」

「まだまだ魔物は増えますからな…」

「あの地下迷宮だけじゃ足りないだろ?」



 モーリスも考え込んだ。そして名案が浮かんだ。



「帝国領になりますが、広大な大森林がありますぞ」

「仕方ない、そこに魔物を移動させよう」

「人を襲わないか心配ですが」

「じゃあ人を襲わないように、コロスケに命令させよう」


 

 こうして王城に溢れ返っていた魔物は、帝国の大森林に移動する事になった。



 モーリスの転移魔法で、魔物の群れ5万匹を次々に移動させると、王城はすっかり落ち着きを取り戻したのだった。



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