第32話 さらなる旅立ち



「モーリス、よくやった」

「は! 有難うございます。アンジェ様」

「ボルザック部隊もよくやったぞ」

「は! 勿体ないお言葉!」



 帝国領、メヒア王国は僅か1時間で陥落。メヒア王や貴族達はアンジェ軍の捕虜となった。


 そして王城の玉座にはアンジェが座り、すぐ近くに500名の部下達も全員集まっていた。



「お前ら、よく聞け」

「「は!」」

「今日からこの国は、アンジェ王国だ」

「「うおぉぉぉぉおおーっ!」」



 アンジェ軍は歓喜した。



「モーリスよ」

「は!」

「お前はもう、昔の軟弱なジジイではない」

「は! 有り難きお言葉!」

「兄上の元に帰るがいい」

「ア、アンジェ様……」



 こうしてモーリスは、アンジェ軍の元を去る事になった。


 

「このモーリス、アンジェ軍の皆の事は生涯忘れません!」



 号泣するモーリスの元に、散髪屋のジョーが歩み寄った。



「ジジイ!」

「ジョー!」



 2人は熱い抱擁を交わそうとした。しかしギリギリの所で、モーリスはジョーから離れた。


 何とジョーの手には、切れ味鋭そうな短剣が握られていたのだ。



「ち、最後まで感のいいジジイだぜ」

「く、お前も最後まで私の命を狙うか」



 2人は笑顔になり、熱い握手をした。しかし……



「ぐあぁぁぁーっ!」



 何とジョ―の掌には、小さな毒針が仕込んであった。



「貴様、モーリス殿に何してくれてんだぁ!」

「ぎゃあぁぁぁあーっ!」



 ボルザックはジョーの耳に噛り付き、そのまま耳を引き千切ってしまった。辺りは血の海になる。



「やれやれ……」



 アンジェは玉座で小さく微笑んだ。








 

 デストラーデ帝国、王城バークレオでは各領主が集まり緊急会議を開いていた。



「まさかメヒア王国が陥落するとはな」

「何でも敵は狂人の軍隊と聞くが」

「狂人では無く『魔人』なのではないか?」

「僅か100人に陥落させられたのだ。その可能性が高いだろう」



 領主達に緊張が走る。



「まさか魔王の手先か!?」

「やはりアンジェ軍と魔王は繋がっていたか!」




 かつての邪神騒動。

 その時、帝国は2万を超える兵士を失った。



 そしてその後、皇帝の命令で邪神が現れた王都に、少数精鋭の偵察隊が派遣された。


 その偵察隊は、禍々しい廃城を発見したのだ。



「な、何だあれは!?」

「暗雲に囲まれた廃城だ!」

「周辺には、おびただしい魔物の群れが蠢いているぞ!」



 暗雲に囲まれた廃城。

 鳴り止まない激しい雷。

 そして、周辺には魔物の群れが蠢く。



──魔王が現れた!


 帝国はそう確信した。魔王が邪神を復活させ操っていると考えたのだ。




 そしてメヒア王国が陥落し、緊急会議を開いている今に至る。



「それで、魔王国から文書が届いたそうだが?」

「何、まさか人類への宣戦布告か!?」

「ど、どうすれば……」


 

 領主達がざわめく中、それまで無言であった帝国皇帝オレス=ティウスがその口を開いた。



「騒々しいぞ、静かにせぬか!」

「…も、申し訳ありません、陛下!」

「大変失礼致しました、陛下!」

「もうよい。マルティネス、その文書を読み上げい」

「は!」



 帝国筆頭大臣のマルティネスが、魔王国から届いた文書を体を震わせながら恐る恐る読み上げた。



「……建国宣言。我が国の名は『ヒマンドのわんぱく王国』である。以後よろしくね」



「…………!?」

「…わ、わんぱく王国!?」

「何だその珍妙な名前は!」

「そ、その文書が魔王国から届いたのか?」

「間違いありません」

「宣戦布告ではないのか!?」



 各領主は戸惑いの表情を浮かべた。



「しかし、メヒア王国陥落のタイミングだぞ」

「そうだ、魔王ヒマンドは宣戦布告したのだ」

「おのれ、わんぱく王国め!」




 こうして、帝国内では……


 ヒマンド = 魔王。

 わんぱく王国 = 魔王国



 という認識で統一されていったのだった。







 2週間後。セロニアスの元にモーリスが帰還した。



「モーリス、今日から俺が色々教えてやろう」

「は! 感謝いたします。セロ様」

「お前は何が知りたい?」

「色々ありますが、セロ様の魔物を操るスキルに興味があります」

「スキル……?」



 セロニアスは少し考え込んだ。



「スキルなんてないぞ」

「え、ではどうして魔物を操れるのですか?」

「あれは操っている訳じゃない」

「……と、言いますと?」

「まぁ、信頼関係かな」

「信頼関係??」

「まぁ、実践した方が分かりやすいだろ」



 セロニアスとモーリスは、魔物が無数に生息する大森林に向かった。



「お、ちょうどゴブリンがいるぞ」

「おりますな」



 2人の前には、今にも襲って来そうなゴブリンが1匹いた。



「いいかモーリス…」

「はい」

「まずこちらから心を開く事が大事なんだ」

「なるほど」

「魔物を無理やり従わせようとしてもダメだ」

「はい、肝に命じます」



 セロニアスは爽やかな笑みを浮かべて、ゴブリンに言った。



「やぁゴブリン、友達になろうじゃないか」

「グギィィ!」



 しかしゴブリンは、棍棒でセロニアスの頭を叩いた。



「ゴブリンめっ、セロ様に何をする!」

「まぁ待てモーリス、我慢が大事なんだよ」

「そ、そうでしたか、失礼致しました!」

「気にするな。続きをやるぞ」

「はい!」



 セロニアスは、辛抱強くゴブリンに声をかける。



「やぁゴブリン、友達になろうじゃないか」

「グギィィ!」



 しかし、またゴブリンは棍棒でセロニアスの頭を叩いた。



「てめぇ、友達になろうって言ってんじゃねぇか!」



 セロニアスの高速ボディブロー5発が、ゴブリンのミゾオチを捉えた。



「グベェェェエーっ!」



 ゴブリンは地面に倒れ、泡を吹いて悶絶している。



「まぁ、個体によっては頑固だから」

「なるほど。ケースバイケースですな」

「そういう事だ」



 セロニアスはぐったりしているゴブリンに、ハイポーションを与えて回復させた。そして元気になったゴブリンに話しかけた。



「やぁゴブリン、友達になろうじゃないか?」

「ゴ、ゴブゥ……」

「どうなんだ、あぁ!?」



 セロニアスは凄まじい殺気を放ち、ゴブリンに圧をかける。



「グギャァ」

「おお、そうか。よろしくな」



 ゴブリンはセロニアスに土下座をして、命乞いをしているようだった。



「……と、まぁ、こんな感じだ」

「なるほど! 流石セロ様です!」

「大事なのは信頼関係だ」

「はい、肝に命じます!」



 こうしてモーリスは、また新たな事を学ぶ事が出来た。

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