第31話 メヒア王国の6英雄
デストラーデ帝国領、メヒア王国。
この王国を治める代々の王は、帝国皇帝と血縁関係にある。そして長年皇帝を支えている強国としても有名であった。
「6英雄よ、揃っているな」
「「はは!」」
今、メヒア王の眼の前には、王国を支える6英雄、キーディス、チャドス、フルシアンテ、フーリン姉妹、ナヴァロ、が集っていた。
「皆、アンジェ軍の侵攻は知っているな?」
「はい。僅か100騎で攻め込ん来たとか」
「その通りだ。これをお前はどう読む?」
メヒア王は、王国の頭脳である最高司令官の軍師、キーディスに問いかけた。
「何か策があるのは間違いありません」
「ほう、お主はそう思うか」
「背後には数万の軍勢が控えてる可能性もあります」
「ぶはははっ!キーディス、お前はいつも慎重過ぎるぞ!」
口を挟んで来たのは、王国騎士団長のチャドスだった。チャドスは一騎当千と呼ばれる猛将であり、帝国外にもその名を轟かせている。
「チャドス、お前が単細胞過ぎるのだ」
「なんだと!? 貴様……」
「やめなよ、チャドス。今は言い争っている場合じゃないだろ?」
2人を仲裁したのは、宮廷女魔術師のフルシアンテだ。彼女は大陸でも上位に入る魔法の使い手である。
ゆくゆくは大賢者モーリスを超えるかもしれない、とも言われている程の人材だ。
「まぁ、とりあえず戦ってみるとイイっすね」
「そうそう、姉さまの言う通りっす」
双子のフーリン姉妹は共に魔獣使いで、2人共あどけない容姿をしている。しかしその容姿とは逆に、常に戦いを求める好戦的な性格をしていた。
「ともかく、我がメヒア王国の脅威は完全に摘むべきでしょうな」
いつも冷静沈着な大神官ナヴァロは、穏やかな声でそう言った。ナヴァロは神官でありながら、格闘術に優れた戦士でもある。
「よし、6英雄達よ! その力をアンジェ軍に見せてやるのだ!」
「「はは!!」」
メヒア王の号令に、6英雄達は颯爽と出陣の準備に入った。
「よし、久々にドラゴンも連れて行くっす!」
「ぶわはは! 僅か100騎にドラゴンか?」
「チャドス、敵を甘く見るな」
「分かった、分かった」
「私は新魔法を試させてもらうぞ」
「私達に神の加護があらん事を」
「あらん事をっす!」
こうして、戦いの火蓋は切られようとしていた。
♨
6英雄が指揮する5万の軍勢が、王城から出陣した頃。
モーリスと巨漢兵士ゴンザレスの戦いは、ヒートアップしていた。
「やっちまえハッスルG!」
「老人パワーだ!」
「加齢臭を食らわせろ!」
アンジェ軍の仲間達の応援もヒートアップしている。
「どうしたジジイ? 息が上がってんじゃねえか!?」
「……はぁ……はぁ……」
「負けを認めるなら、楽に殺してやるぜ?」
「ふ、ふざけるな、私は絶対に勝つ!」
「バカなジジイだ!」
ゴンザレスが、猛然とモーリスに襲いかかろうとしていた時だった。
高台にある王城から、騎士団長チャドスの大号令が響き渡った。
「全軍、出陣だぁぁぁーっ!!」
「「うおぉぉぉぉおおーっ!!」」
とてつもない数の騎馬軍勢が、こちらに向かって駆けて来た。
「ボルザックさん、とんでもない数の軍勢です」
「…く、流石に数が多すぎるな」
「兵士の背後には、魔獣もいますよ!」
5万の軍勢の背後には、魔物の頂点に君臨するドラゴンの姿もある。流石のボルザックも冷や汗が出ていた。
そんな時、モーリスは魔法の詠唱に入っていた。
「古の盟約により目覚めよ破壊の邪神……」
それを見たゴンザレスは笑みを浮かべた。
「何だジジイ。魔法も使うのか?」
「出来れば軟弱な魔法など使いたくないが」
「ふん、オレの鎧は魔法耐性があるんだ、そんな物効かんぞぉ!」
モーリスは、王城から出撃した5万を超える軍勢に向かい、特大魔法を放った。
「
モーリスの特大魔法は、炎に包まれた無数の大隕石を降らせ、5万の大軍勢に襲いかかった。
結果、メヒア王国5万の大軍勢は全滅した。
「……え!?」
「ふん、今回は軟弱な魔法が役に立ったわい」
巨漢兵士ゴンザレスは、あまりの出来事に体を硬直させていた。
5万を超える大軍勢。
そして王国が誇る6英雄。
魔物の頂点に立つドラゴン。
その全てが一瞬で滅んだのだ。
「隙ありィィィーっ!」
「何ィィィーっ!?」
モーリスは、再び地味なローキックをゴンザレスに食らわす。
「バカめ! そんな蹴り通用せぬと言っただろうが!」
「それはどうかな……?」
「何だと?」
何とゴンザレスは膝から崩れ落ちた。
「ふ、ローキックを甘く見たな」
「ま、まさか……」
「そうだ。小さなダメージも散り積もれば、大きなダメージとなる」
モーリスは体勢の崩れたゴンザレスの背後に回り込む。そして両腕でゴンザレスの体を抱きかかえて高く持ち上げた。
「喰らえ! ハッスルボマー!」
そして、そのままゴンザレスを頭から地面に叩き付ける!
「ぐはあぁぁぁあーっ!!」
ゴンザレスは血反吐を撒き散らして、その場に倒れた。
「
戦いに勝利したモーリスに、ボルザックが駆け寄って来た。
「モーリス殿、やりましたな!」
「はい、これもアンジェ様やボル殿のおかげです」
「いやいや、モーリス殿の鍛錬の成果ですとも!」
そして仲間のアンジェ軍も集まって来る。
「ジジイ、やったじゃねえか!」
「ハッスルしやがったな、ジジイ」
「ハッスルG!」
気が付くとモーリスの周りで「ハッスルG」の連呼が始まっていた。
「モーリス殿、凄い魔法ですな!」
「いや、あんな遠くの敵を倒しても意味がありません。それよりも私は、ローキックが決まった事が嬉しいのです」
モーリスは、目の前の敵を倒せた事が何より嬉しかった。
こうしてモーリスとボルザック部隊は、僅か100騎でメヒア王国を陥落させてしまったのだった。
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