第30話 ハッスルG



 私の名はモーリス。アンジェ軍に入隊して3ヶ月が過ぎた。



「モーリス殿、いよいよですな」

「ええ、少しばかり緊張しておりますが」

「何、すぐに慣れますよ」



 そして今私は、戦場の最前線にいた。アンジェ軍のボルザック部隊に配属されている。



「まさか帝国と戦う事になるとは」

「ワクワクしますな、モーリス殿」

「…………」



 基礎トレーニングや格闘訓練を終えた私は、戦場で戦う事になっていた。しかしかつての邪神騒動で、各国は戦争をピタッと止めてしまったのだ。


 まあ、人間同士で戦っている場合ではない、という事だろう。



 なので、アンジェ様は私に言った。



「モーリスお前、帝国にケンカ売って来い」



 私は耳を疑った。デストラーデ帝国は数々の王国を支配し、この大陸の半分以上を治めている超大国だ。


 かつての我が祖国の10倍以上の広大な土地と人口を持つ。



「アンジェ様、本気ですか?」

「小国を攻めても意味が無いだろう」

「それはそうですが」

「モーリス、お前は楽な道を歩みたいのか?」

「とんでもありません。歩むべきはイバラの道のみです」

「そう、それが正解だ」



 こうして私はボルザック部隊の協力を得て、帝国領の中のメヒア王国に攻め込む事になった。わずか100騎で。




「ボル殿、今回は武器を使うのですね。」

「ええ、何せ相手はあの帝国です」



 さすがのボルザックも、帝国軍には一目置いているようだ。小国の軍隊とは別格という事だろう。



「なので、ひのきの棒は必要ですな」

「…………」



 ひのきの棒など、今は駆け出しの冒険者でも使わない粗末な武器だ。


 いくら堅いひのきで作った棒でも、所詮は「木」である。剣で簡単に切られてしまうのだが。



「それと実力者には、別の武器が支給されました」

「そうなのですか?」

 


 やはり、ひのきの棒だけでは戦争に勝てない。アンジェ様はきっと強力な武器を用意されたのだろう。



「で、どのような武器なのですか?」

「あぁ、これですよ」



 ボルザックが見せてくれたのは、何とペンペン草だった。



「え? ……冗談ですか、ボル殿」

「いやいや、冗談ではありませんよ」

「まさかペンペン草で戦えと!?」

「ええ。さすがアンジェ様です。我々の考えのはるか上をいっていますなぁ」



 ボルザックの話を聞いていると、ひのきの棒が支給された自分は、まだ幸運であったと思えた。


 

 そうこうしていると、あちこちで物凄い怒声が起こり、いつの間にか戦いは始まっていた。私は深呼吸をして覚悟を決めた。







「うおぉぉぉーっ!」



 私はひのきの棒で、帝国の強兵に向かっていった。



「お、お前らバカなのか!?」

「そんな木の棒で何がしたいんだ!?」



 帝国兵の言葉はもっともだ。当然ながら私のひのきの棒は、帝国兵の長剣で真っ二つにされてしまった。



「……く、くそ!」

「死にやがれ、クソジジイ!」



 私の首元に帝国兵の長剣が振り下ろされた。しかし、その時だった。



「だらしねえぞ、ジジイ」

「お、お前は……!?」



 何と私の前に散髪屋のジョーが現れ、真剣白刃取りで私を守ってくれたのだ。



「勘違いすんじゃねぇぞ」

「何!?」

「ジジイを殺すのは俺だ。誰にも殺らせねえ」



 ジョーの目は異様にギラついていた。恐らく本気で私を殺したいのだろう。



 そしてジョーの反撃が始まった。ジョーはペンペン草を振り上げ、帝国兵に猛然と襲いかかる!



───ペシ。



「…………」

「…………」

「…………」



 しばしその場に静寂が訪れた。



「き、貴様ふざけてるのかぁ!」

「うるせー!ペンペン草舐めるな!」



 帝国兵はジョーの持つペンペン草を、剣で真っ二つに斬った。



「ア、アンジェ様に頂いたペンペン草がっ!」

「死にやがれぇぇ!」



 帝国兵はジョーを仕留めにかかる。



「ゆ、許さん、許さんぞぉぉ!」

「…ぐはぁぁぁぁー!」



 斬られたペンペン草を握りしめたジョーの右拳が、帝国兵の顔面を捉えた。帝国兵はそのまま地面に倒れ、動かなくなる。



「…はぁ……はぁ……」



 ジョーは右拳に握られたペンペン草を見た。



「まさか、ペンペン草にこんな力があるとは!」

「…………」



 ペンペン草には何の力もねえよ! と思うモーリスだった。



 そうこうしていると、モーリスの方に巨漢の帝国兵が襲いかかって来た。



「……く、どうする!?もう、ひのきの棒は無いぞ」

「ジジイ、覚悟しやがれ!」



 モーリスは巨漢兵士の太刀をかろうじて躱す。そして一瞬の隙を狙い巨漢兵士の足にローキックを食らわした。


 しかし……



「ぷ、ぷははははぁぁー!」

「何ィィ!?」

「そんな老いぼれの蹴りなど、このゴンザレス様には効かぬわ!」



 モーリスのローキックは、巨漢兵士ゴンザレスには効かなかった。


 再び、ゴンザレスの大剣がモーリスを襲う。



「くたばれジジイ!」

「ここで死ぬ訳にはいかぬ!」



 モーリスは巨漢兵士の太刀をかろうじて躱す。そして一瞬の隙を狙い巨漢兵士の足に再びローキックを食らわす。


 しかし……



「ぷ、ぷははははぁぁー!」

「何ィィ!?」

「そんな老いぼれの蹴りなど、このゴンザレス様には効かぬわ!」



 やはり、モーリスのローキックは、巨漢兵士ゴンザレスには効かなかった。



 老体のモーリスが奮闘していると、やがて仲間のアンジェ軍から応援の声が上がった。



「…お、ジジイがハッスルしてるぞ!」

「頑張れハッスルジジイ」

「ハッスル爺さん!」

「ハッスルG!」



 この日からモーリスは「ハッスルG」と呼ばれる様になった。



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