第27話 オークキング



 私はジョアンヌ。


 今は地下迷宮の4階層にいる。4階層はミノタウロスの巣窟である。



 5階層ではゴブリンが地面から生えて来たが、4階層ではミノタウロスが生まれるのだろう。



「ウンモォォォ」

「うるせぇぇぇ!」



 ミノタウロスの攻撃は物凄く力強かった。人間の男の比ではない。


 しかし私も、ずっとゴブリンを運んだり叩いたりしていたので、相当筋力が付いていたようだ。何とか奴らの攻撃を持ちこたえる事が出来ている。



「……はぁ……はぁ……」



 でも流石にこちらの攻撃は利かない。第3階層に続く階段が見えて来たが、ミノタウロスの数が多すぎるのだ。



「くそがぁ! 諦めてたまるかぁっ!」

「ウンモォォォーっ!」

「モォモォ、るせーんだよっ!」



 私の渾身の一撃で、ついに目の前のミノタウロスは膝を付いた。しかし次々にミノタウロスが現れ、周りを囲まれてしまう。



「……くそ、ここまでか」




──私が諦めかけた、その時だった。


「「ブヒィィィ!」」



 突然ミノタウロス達に襲いかかる魔物達が現れた。良くみるとそいつらはブタの魔物、オークだったのだ。



「ウンモォォォーっ!」

「ブヒィィィィーっ!」



 両者は激しくぶつかり合った。そしてオークの群れの中の1匹が私の手を取り、その場から逃がしてくれた。



「…え、まさか仲間だと思ったの?」

「ブヒィィ!」

「てめぇ、ふざけんな!」



 私は助けてくれたオスオークを殴ってしまった。殴られたオスオークは意味が分からずキョトンとしている。



「で、でも助けてくれた訳だしね」

「ブヒィィ!」



 私はそのオークと一緒に、地下3階層に続く階段を下りた。仲間のオーク達も次々と撤退して階段を下りる。



 私を含めオーク達は傷だらけだった。退却の戦は被害が甚大になると聞いた事があるけど、本当にその通りなのだろう。




「ブヒィィ!」

「…ここが、あなた達の住処なのね」



 私達は、地下迷宮3階層にあるオークの集落に辿り着いた。



「…何とか逃げられたわね」

「ブヒィィ!」

「とりあえず、お互い傷を癒さないとね」



 私を助ける為に、オーク達はかなりの怪我を負ってしまったようだ。中には片腕を切り飛ばされたオークもいるようだ。



「わ、私の為に……」



 傷だらけのオーク達を見て、私は自分の衣服をビリビリと破り、包帯代わりにオークの体に巻いてやった。







 あれから、どれくらいの時が流れたのだろう。おそらく3ヶ月くらいだろうか。



「みんな、おはよう」

「「ブヒィィ!」」



 私達の傷はすっかりと癒えて、私の看病の甲斐もあって重傷のオークも元気になった。



 朝食のリザードマンの丸焼きとカブトムシの佃煮を食べながら、私は仲間達に言った。



「あんた達、よく聞きな」

「ブヒィィ」

「あんた達とはお別れよ」

「ブヒィィ!?」

「私はやる事があるのよ」

「………」


 

 私は朝食を食べ終わると、自分の棍棒を手に取った。そして仲間達に別れの挨拶をした。



「あんた達は私の命の恩人よ」

「ブヒィィ」

「本当にありがとう」

「ブヒィィ!」

「私は生まれて初めて、本当の仲間が出来たのかもしれないわね」



 思えば、私の貴族時代には友達や仲間なんていなかった。いるのは自分の利益を考えて近づいてくる人間だけ。



 腰ぎんちゃくに、ゴマすり野郎。



 そんな奴らは仲間じゃない。オーク達は命がけで私を助けてくれた。一緒に飯を喰らい、酒を飲んで歌を歌った。



「忘れないよ。あんた達」

「ブヒィィ!」



 私は地下2階層に続く階段を上った。すると、私の後をオーク達が追いかけて来た。



「…バ、バカ野郎」

「ブヒィ」

「遊びに行くんじゃねえぞ」

「ブヒィィ!」

「生きて帰れないかもしれねぇんだぞ」

「ブヒィィィ!」



 私は溢れてくる涙を乱暴に拭った。



「バカだね、好きにしな」

「「ブヒィィィィ!」」



 こうして私達は強い絆で結ばれ、地下第2階層を目指したのだった。









 地下第2階層。そこはコボルトの巣窟だった。



 しかし……



「こ、これは一体どういう事!?」

「ブヒィィ!?」



 なんとそこには、無数のコボルトの死体が地面を覆うようにあったのだ。そしてどこからか声が聞こえて来た。



「…おい、お前らオークが出たぞ!」

「オークキングもいるわよ!」

「くそ、やっとコボルトを殲滅出来たのに」



 少し離れた所に、冒険者風の男女4人がいた。…オークキングって、まさかと思うけど私の事!? さ、流石にそれは無いか。



 冒険者達は有無も言わさず、いきなり襲いかかって来た。



「いつも通りいくぞ!」

「OK、フォーメーションAね」



 冒険者達は、スカした事を言っていやがる。何がフォーメーションAだ。


 そんなしゃらくさい事言ってたら、ダンジョンで3ヶ月も暮らせやしないよ。



「あんた達、オーク魂を見せてやりな!」

「「ブヒィィィ!」」

「先に後衛の女共を狙うんだよ!」

「「ブヒィィ!」」



 仲間のオーク達は、戦士風の男2人をスルーした。狙うは魔法使いと回復術士の女2人だ。



「く、こいつら後衛を狙ってるぞ!」

「「…キャァァ!」」



 女2人はすぐにオーク達にやられた。ふん、キャピキャピした女がダンジョンなんかに来るからだ。ピクニックじゃぁねんだぞ。



「くそ、よくもやりやがったな!」

「オーク共めぇ!」



 慌てた前衛の男2人が、女達の元へ助けにいく。でも、それを逃す私じゃあなかった。



「男が背中見せてんじゃねぇぇ!」

「「…ぐはぁぁぁぁーっ!」」



 私の渾身の一撃を喰らった男2人は、だらしなくその場に倒れた。



「くそ、オークキングめ!」

「誰がオークだ、この野郎!」

「…バ、バカな! このオーク、人間の言葉を話すのか!?」

「うるせぇぇぇー!」



 私の足蹴りが男の急所を捉えた。


 冒険者達は全員意識を失った。すかさず私は、こいつらの懐から金目の物を奪った。



「ち、しけてやがる」

「……ブヒィィ」

「人間の女を連れて行きたいの?」

「ブヒィィ!」

「好きにしなさい」

「ブヒィィ!」

「じゃあ、第1階層にいくわよ!」

「ブヒィィ!」



 私達はいよいよ最後の階層である、第1階層を目指した。


 もうゴールは目前である。私は仲間と共に歩を進めたのだった。


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