第25話 ジョアンヌの新生活(ジョアンヌ視点)


 私の名前はジョアンヌ。


 今の私は国王の母、つまり皇太后になる。



 皇太后というと、大きくて煌びやかな王城に住み、何不自由ない生活をしていると思われるかもしれない。


 でも私の生活は、何もかもが違っている。



 …そう何もかも。



 まず、私の住居は王城ではない。ていうか、そもそも家ですらない。


 私の住む場所は、地下迷宮ダンジョンなのだ。



 言い間違いではない。魔物がうじゃじゃ出没する、薄暗くて不気味な場所が私の住居なのである。



 普通の家ならば、小鳥のさえずりで目を覚ますのかもしれない。でも私は、ゴブリン達の「グギーっ!」とか「グギャァー!」っていう鳴き声で目を覚ますのだ。


 

 

──そう、あれは10日前の事だった。


 私とザルーダは邪神騒動で、他国に避難しようとしていた。そこにあの悪魔はやって来た。そうセロニアスだ。



「あ、いたいた。探したよー」

「…セ、セロニアス!」

「邪神はいなくなったから大丈夫だぞ」

「え!?」



 セロニアスは、もう危険は無いから王国へ帰って大丈夫だと、私達に説明した。そして王位はヒマンドに譲るという、衝撃的な事も言っていたのだ。



「ほ、本当にヒマンドが国王でいいの!?」

「あぁ。やりたい奴がやればいいんじゃないか?」



 セロニアスの言う事は、にわかには信じられなかった。


 でも私達が王城近くに戻って見ると、確かに邪神の姿は無かったし、王国を占拠していた帝国兵の姿も全く見えなかったのだ。



「ほ、本当に平和が訪れたのね!」

「王城や街はボロボロだが……」

「ザルーダ、前向きになりなさいよ」

「そ、そうだな。地道に再建するしかないか」



 私とザルーダにとって、それはイバラの道だった。でも手を取り合って私達の理想の王国を1から再建していこうと、前向きになったのだ。



「あ、それと2人には別邸を用意してるよ」

「「……別邸??」」



 セロニアスは私達2人を馬車に乗せ、用意した別邸に連れていこうとした。馬車に揺られる事30分。辺りは薄暗くなり、オオカミの遠吠えも聞こえる。



「……セロニアス!?」

「ん、何だ?」

「こんな所に別邸があるの?」

「ああ。…さて、ここからは徒歩になるぞ」



 私とザルーダは馬車を下りて、さらに道なき道を歩かされた。



「……はぁ……はぁ……」

「もうすぐ着くぞジョアンヌ」

「ちょっと、どこにも屋敷が見えないじゃない!」

「屋敷? お前らの住む所は地下迷宮だぞ?」

「「──はぁぁぁああ!?」」



 私とザルーダがその場に立ち尽くしていると、いつの間にか辺り一面に魔物達が集まっていた。物凄い数だった。



「みんなご苦労様」

「グルァァアア!」

「今日からこの2人が地下迷宮の住人だ」

「グルァァアア!」

「無理言って悪いけど、みんなは王城に引っ越しね!」



 魔物達はセロニアスに従い、群れとなって王城のある方へと歩き出した。



「ど、どういう事だ、セロニアス!?」

「…だって城には兵士いないだろ?」

「いないから何なのよ!?」

「帝国がまた攻めて来たらどうすんだ?」

「「──!?」」



 ザルーダと私は呆然とした。そういえば邪神騒動で王国の兵士はみんな逃げ出したのだ。


 国王のヒマンド1人だけでは、また帝国が占領しに来るのは間違いない。



「だから魔物達に城を守らせるんだよ」

「そ、そんな……!?」

「仕方無いだろう。他に方法あんのか?」



 私達は、魔物達の王城行きに反論出来なかった。



「で、では何で私達は地下迷宮なのだ?」

「そうよ!そんな所に住める訳ないでしょ!」

 

 

 でもだからといって、私達が地下迷宮に住まなきゃならない理由はない。



「いやぁ、実は邪神が地下迷宮にいてさ、その監視を2人にして欲しいんだよ」

「「…はぁぁぁあーっ!?」」



 目の前の男は一体何を言っているのだろう? 私達は訳が分からなかった。



「じゃ、邪神…!?」

「そうそう、見張ってないと危険だろ?」

「嘘でしょ!?」

「本当だよ。地下迷宮の地底湖にいる」

「そんなバカな……!?」

「だから本当だよ。行けば分かる」



 私達はそのまま、地下迷宮の奥底にある地底湖に連れて行かれた。


 そこにはローブを被った怪しい男達が10人ほどいた。セロニアスはその男達に声をかけた。



「おうジジイ!元気にやってるか?」

「……げ! 悪魔王子!?」

「ん、なんか人数増えてるな」

「ククク…。我が教団は力を増して来てるぞ。邪神も完全体で復活させる!」

 


 こいつらは一体何なんだ!? もしかしてこいつらが邪神を操ってたの!?


 私は理解が追い付かなかった。



「そ、それで何しに来たのだ?」

「あぁ、この2人を紹介したくて」

「紹介だと?」

「そうそう、こいつら邪神に興味あって」

「何? 我が教団に入信希望か?」

「まぁそういう事だ」



 セロニアスは小声で、私達だけに聞こえるように言った。



「この教団を潜入捜査してくれ」

「は!? 何を言って……」

「ヒマンドの為だよ」

「で、でもそんなの無理よ!」

「邪神復活したら、王国は今度こそ滅亡するぞ?」



 私とザルーダは絶句した。何で私達が、不気味なカルト教団に潜入捜査しなければならないのか。



「…ひょっとして、こいつらスパイか?」

「いやいや違うよー」

「本当か? もしスパイだったら殺すぞ?」

「スパイじゃないから、それでいいぞ」



 カルト教団のジジイとセロニアスの会話に、私達2人は背筋がゾッとした。



「じゃ、後は頼むぞジジイ」

「ふん、今に見ておれ、今度こそお前に勝つ!」



 セロニアスは大きなあくびをしながら、地下迷宮を去っていった。


 その場に残された私とザルーダは、ただただポカンと立ち尽くしていたのだった。



 

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