第24話 ヒマンドの挑戦状


 私の名はヒマンド。


 ついに私は王城の3階を脱出し、2階に辿り着いた。



「母上、ヒマンドはやりましたぞ!もう少しで王城を脱出出来ます!」



 私は体と胃がボロボロになりながらも、強い覚悟を持って2階へ向かった。


 

 階段を降りて行くと、何やら大きな歓声が聞こえて来る。物凄い熱気だ。



「ウガァァァ!」

「ブヒィィ!」

「ゴブゥゥゥ!」



 2階には物凄い数の魔物が集まり、闘技会のような物が行われていた。


 大部屋の中央には闘技場があり、四方は金網で覆われている。脱出出来ないようになっているのだろうか?



「な、な、何だここは!?」



 私が闘技場の方を見ると、2人の魔物戦士が激しい殺し合いをしていた。



「ウンモォ゙ォ゙ォ゙ー!」

「ウガァァァー!」



 すると牛の大きな魔物が、犬の魔物の右腕を切り飛ばした!



「ひ、ひぃぃぃーっ」



 驚いた私は、また腰が抜けてしまった。さらにまた失禁寸前である。



「ウガァァァ!」



 すると今度は、腕を切り飛ばされた犬の魔物が反撃を始めた。物凄い圧の剣撃が牛の魔物を襲う。



「ブンモォ゙ォ゙ォ゙ー!」

「ウガァァァー!」



 何と犬の魔物が、牛の魔物の首を跳ね飛ばした!


 犬の魔物は牛の魔物の首を拾うと、それを高々と掲げた。



「ウガァァァ!」

「ブヒィィィ!」

「ゴブゥゥゥ!」

「ウンモォ゙ォ゙!」



 闘技場は魔物達の大歓声に包まれた。



「よし、よくやったぞ。ポチマル!」

「ウガァァ!」



 何と、観客席の中にあの忌々しいセロニアスがいやがった。何度見てもあの顔は腹が立つ。



「くっそぉ!よりによってセロニアスが王城に来てるなんて!」

 

 

 私は何とか2階まで辿り着いたが、ここに来て最大の難関を迎えてしまった。




 セロニアスごときは大した事ない。奴は無能のバカ王子なのだ。しかし問題はあの犬の魔物だ。


 そう、闘技場で牛の魔物の首を飛ばしたのは、私を苦しませた犬の魔物ポチマルだった。



 あのポチマルは、セロニアスに絶対服従。セロニアスの無茶振りをゴリ押しするのが、あの犬の魔物なのである。


 あの地獄の最凶コンビは、非常に厄介だ。



「ど、どうすればいいんだ…!?せっかく2階まで辿り着いたのに!」



 私はあの日のトラウマも蘇って来て、足がすくんでしまった。


 すると、セロニアスが何か話し出した。



「よしポチマル、その首を観客席にぶん投げろ!」

「ウガァァァ!」

「首を掴んだ者が、次の挑戦者だ!」

 


 セロニアスの言葉に、会場の熱気と歓声がピークになる。



「ウンモォ゙ォ゙ーっ!」

「ブヒィィィーっ!」

「ゴブゥゥゥーっ!」



 私は恐怖の限界を超えてしまい、その場を離れようとしていた。



 するとその時、金網で囲まれた闘技場から出て来たポチマルは、牛の魔物の首を上に向かってぶん投げた。



 気が付くと、私の目の前には牛の魔物の首があった。



「──う、うわぁぁーっ!」



 私は牛の魔物の首を両手でガッチリと掴んでいた。


 一瞬会場内は静けさに包まれる。そしてすぐにそれが大歓声に変わった。



「ウガァァァ!」

「ブヒィィィ!」

「ゴブゥゥゥ!」



 鳴り止まない歓声と拍手。私は呆然となりその場に立ち尽くした。



「ヒマンドやるなぁ」

「……えっ!?」

「まさかポチマルに挑むとは!わんぱくになったじゃねぇか」



 セロニアスは立ち上がって拍手した。それにならって、会場内の魔物達も全員スタンディングオベーションをした。



「えっ……えっ!?」

「金網デスマッチだからな」

「ちょ、ちょっと待っ…」

「どちらかが死ぬまで闘うから」

「───!?」



 そして会場内は「国王コール」が始まった。



「「コ・ク・オ・ウ!」」

「「コ・ク・オ・ウ!」」

「「コ・ク・オ・ウ!」」



 魔物達が人間語を喋っている。練習したのか!? いや今はそんな事はどうでもいい!



「…ど、ど、ど、どうしよう!?」



 その後も魔物達のスタンディングオベーションは収まらない。そして一匹一匹の眼光が鋭い。物凄い殺気を感じる。


 おそらく断ったら、間違いなく殺られる!私の体は八つ裂きにされて肉片も残らなそうに思えた。



 すると一匹の魔物が私の体を掴むと、高々と持ち上げてそのまま観客達の頭上にぶん投げた。



「……う、うわぁぁーっ!」



 魔物達は頭上の私を前へ前へと運んだ。まさに魔物のビッグウェーブ!



 気が付けば、私は金網デスマッチのリングの上にいた。



「ウガァァァァァ!」

「ひ、ひぃぃーっ!」



 リング上のポチマルは、私を殺害する気満々だった。



「ガウァァァー!」



 ポチマルが唸ると、牛の魔物に切られた腕が血飛沫と共にズバズバァっと生えて来た。



「や、や、やめて…」

「ウガァ!(国王よ、永遠とわに眠れい!)」



 そして闘いのゴングがなった。



「た、た、助け……」

「ウガァ!(必殺奥義!)」



 ポチマルは私の体を掴んで、そのまま上空に高々とぶん投げた。


 私の体は天井近くまで飛ばされ、逆さまになって頭から下に落ちて行く。



「…ひ、ひぃぃぃぃーっ!」



 ポチマルの両手両足は、私の両手両足をガッチリとホールドした。脱出不可能な殺人技を、奴はマスターしていた。



「ウガァ!(ポチマルドライバー!)」



 私の頭はそのまま、固いリングに叩き付けられた!



「…ぐ、ぐはぁぁぁぁーっ!」



 脳天をかち割られた私は、頭と口から真っ赤な血を大噴出させて──絶命した。












 ……かに思えたが、



 セロニアスがギリギリの所で、上級回復薬ハイポーションを私に飲ませ、一命を取り留めた。



「ま、一応国王だしね」


 

 セロニアスの一言で、また国王コールが始まった。



「「コ・ク・オ・ウ!」」

「「コ・ク・オ・ウ!」」

「「コ・ク・オ・ウ!」」



 するとそこに、鬼の形相になったサブリナが現れた!



「ブヒィ!(探したわよダーリン)」

「…ひぃぃぃぃーっ!」



 サブリナは私を脇の下に抱え込むと、そのまま王城の5階まで走っていく。



 こうして私の王城脱出計画は、失敗に終わったのだった。

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