第2章 新たな旅立ち編
第22話 ヒマンドの新生活(ヒマンド視点)
私の名はヒマンド。
かつて王国の第2王子だった。しかし今は「国王」という肩書きだ。
しかし、国王は国王でも普通の国王ではない。そう、この王国では何もかもが違っていた。そう、何もかもだ。
……何が違うかって?
まず、国王の配下。これは誰もが、勇ましくてかっこいい聖騎士とかを想像すると思う。でも私の国では違う。
私の王国の配下は全て魔物なのである。
言い間違いではない。ゴブリンとかオークとかの魔物が私の配下なのだ。
私が国王として彼らに声をかけても「グガァァ!」とか「ギャォォォーっ!」とかの返答が返ってくる。
私は当然魔物の言葉は分からないし、彼らの返答を聞くだけで失禁してしまいそうになる。
そしてこの国の王妃だが。
国王っていうと「美人な王妃達をはべらかして、いいよなぁ」と思われるかもしれない。
だが言っておこう。この国の王妃、つまり私の妻は美人ではない。
ていうか、そもそも人間ですらない。「ブヒィィ!」って喋るブタの魔物オークなのだ。名前をサブリナという。
そしてこの王国の外観だが、これは一言でいうと「魔王城」だ。魔王はいないけど。
実は、少し前に起きた邪神騒動で、王城の半分近くが崩壊したのだが…
「なんか廃墟感が、魔王城っぽくてカッケェ!」
というセロニアスの一言で、王城の修繕工事は全く行われていない。
なのでどこにいても風や雨に晒されるのだ。食事をしていても用を足していても、風にビュービュー吹かれて大変なのである。
昨日は早朝の大雨に濡れて起きてしまったし、食事も雨で水浸しになりとても食えたものではなかった。
そしてこの王城の周辺は、常に暗闇だ。
セロニアスがハニマルという子犬に指示して、24時間365日の暗闇を作り出す魔法を使わせたのだ。
おかげで王城は朝から暗闇に覆われているし、耳をつんざく様な激しい雷も毎日鳴っている。
24時間ゴロゴロ、ピカピカなのだ。
「おぉ! 魔王城感ハンパねぇ!」
つって、セロニアスの奴が喜んでいたのが、本当に腹が立って腹が立って仕方なかった。
常に暗闇なので洗濯物も全く乾かないし、何より気分もどんより暗くなる。
さらに、この王国の名前も特殊だ。
王城の見た目は、暗雲が立ち込める不気味な「魔王城」なのだが、国名は全くイメージと違う。
「ヒマンドのわんぱく王国」
これがこの王国の名前になる。もちろんセロニアスがその名付け親だ。
「ヒマンドには、わんぱくに育って欲しいから」
という理由が、このふざけた名前の由来らしい。
「…くそ! セロニアスめえぇぇぇーっ!」
私はやりたい放題のセロニアスの事を思い出して、怒りが込み上げて来た。
とそんな時、私の足に何か液体のような物がかかった。どんどん私の服がビショビショになっていく。
気が付くと私の足に、ハニマルという子犬がオシッコをしていた。
「…くぉの、クソ犬があぁぁーっ!」
私はハニマルを追いかけるが、奴は素早い動きでかなり遠くへ行ってしまっていた。
そして遠くの方で私の方を見て、ニヤッと笑っている。
「どいつもこいつも、私をバカにしおってぇぇーっ!」
私は悔し涙が止まらなかった。
♨
──3日後。
何もかもが嫌になった私は、勇気を振り絞ってこの王城から逃げ出す事を計画した。
「母上、ヒマンドは必ず脱出してあなたに会いに行きます!」
覚悟を決めた私は、今いる王城5階からすぐ下の4階を目指した。
5階は普段サブリナもいるのだが、ちょうど彼女は昼寝中だったので、またとないチャンスなのである。
ちなみに4階は、ミノタウロスという牛の魔物達の巣窟になっている。
私が夜寝ていると「ウンモォ゙ォ゙ーっ!」という唸り声が明け方まで聞こえて来て、いつも寝不足なのだ。
さて、私が4階に降りると、ミノタウロス達は激しい戦闘訓練をしていた。
「ウンモォ゙ォ゙ォ゙ーっ!」
「ブンモォォォーっ!」
奴らはマジの殺し合いをしている。角が折れ、片腕がもげてもまだ戦っているのだ。
そうこうしていると、奴らの血しぶきが私の顔にかかった。
「…ひ、ひぃぃぃーっ!」
私は恐怖で腰が抜けた。何でそこまでして戦闘訓練するのだろう!? 私には全く理解出来ない。
それでも四つん這いになって、私は3階に降りる階段を目指した。
しかしその階段のすぐ傍には、体長5メートル近くありそうな巨大な魔物が仁王立ちしていた!
ミノタウロスキング。
かつての地下迷宮の支配者である。もうラスボス感がハンパない。私は全身が激しく震え失禁寸前になってしまった。
「ブンモオォォォォーっ!!」
奴は激しいうなり声を上げた。
そして私は激しく失禁した。
……や、殺られる! このままではこの巨大な魔物に惨殺されて、そのまま喰われる! と私は思った。
しかし、私はこのミノタウロスキングとは面識がある。私とサブリナの結婚式、そして「ヒマンドお帰りなさいの会」でも顔を合わせているのだ。
──話せば分かる! そうだ対話だ、大事なのは対話なのだ!
私は勇気を振り絞り、目の前の魔獣と対話しようと試みた。
しかし……
私は魔物の言葉が分からなかった。
「くそ、一体どうすれば!? そ、そうだゼスチャーだ。ゼスチャーで対話をするのだ!」
閃いた私は、自分の鼻を指で押し上げてブタ鼻を作ると、もう片方の手で下の階を指さした。
──下の階のオーク集落に行くだけですよ。
きっとこのゼスチャーの意味が魔獣にも分かるであろう。夫が妻の実家に用があるというのもとても自然だし。
しかし……
現実は違っていた。奴は私を獰猛な目で睨むと、巨大な戦斧を高々と振り上げたのだ!
「ブンモォォー!(我に喧嘩を売るとは、さすが国王殿だ!)」
「…ひ、ひいぃぃいーっ!」
ミノタウロスキングの戦斧は、王宮の大きな柱を破壊した。そして柱を失った天井も大きく崩れていく。
私は偶然腰が抜けて、どうにかその戦斧の餌食になる事を回避出来たのだ。
──き、危機一髪だった!
腰が抜けなければ確実に死んでいた!
「……はぁ……はぁ……」
私は失禁全開で階段にダイブすると、転がるよう階段を下りていった。
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作者のコマ凛太郎です。
いつも読んで下さりありがとうございます。
先日、感想付きレビューを頂きまして、本当に感謝感激しました。嬉し過ぎて家族に報告もしちゃったくらいです(笑)。
もちろん感想無しのレビューであっても、めちゃくちゃ嬉しいです。1人1人お会いしてお礼言いたいくらいですね。
さて、またタイトルを変えさせて頂きました。変更ばかりで本当に申し訳ありません。多分これが最後かとは思いますが、もしかしたら微調整するかもです。
宜しくお願い致します。
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