第18話 モーリス説教される


「ワイバーンから降りたのが失敗だったな」

「そうなのか?」



 セロニアスの前にイメルダが立ちはだかり、彼女は悠然と剣を構えた。



「王子、私は人生を剣に捧げた女、剣で勝てると思うなよ」

「あぁ、そりゃダメだ」

「あん? 何が言いたい?」

「お前も剣に頼りすぎだ」

「…舐めた口をきくなぁっ!」



 イメルダはセロニアスに凄まじい剣撃を食らわす。しかしセロニアスは自分の剣を捨て、真剣白刃取りで受け止める。そしてイメルダの剣を粉砕してしまった。



「──な、何だと!?」

「それで、剣が無くなったらどうするんだ?」

「…く、くそがぁぁーっ!」



 イメルダは拳と脚を使い、猛然とセロニアスに襲い掛かる。しかしセロニアスはそれを全て軽く躱してしまった。



「お前も楽な道ばかり選んで来たんだな」

「楽な道だと!? ふざけるなぁっ!」

「モーリスやお前は天狗になっていた」

「……何だと!?」

「自分の限界点を頂点だと思い込んでいた」



 セロニアスは指笛を鳴らしてポチマルを呼んだ。ポチマルは猛然と駆けて来てイメルダの前に立った。



「脳筋女、お前の相手はポチマルで十分だ」

「ふざけるな、逃げるのか!?」

「俺はモーリスに説教するんでな」

「何だと…!?」



 モーリスの方へ向かうセロニアスを、イメルダが追いかけようとする。しかしポチマルが間に入りそれを制した。



 ポチマルは手で「かかってこい」という仕草をして、イメルダを挑発する。



「犬の魔物ごときが!」

「グガァァ」

「なめるんじゃねえ!」


 

 イメルダは近くの兵士の手から剣をもぎ取ると、それを振りかぶってポチマルに襲いかかった。しかしポチマルは完璧な剣さばきで、イメルダの剣を封じ込めた。



 そしてポチマルの大剣は、イメルダの剣を弾き飛ばしてしまった。



「──な、何だとっ!?」

「グガァァ」



 イメルダは愕然とし、自分の死を覚悟した。しかしポチマルはイメルダの肩をポンポンと叩き、彼女の健闘を称えた。



「……負けだ。私の完全なる敗北だ」



 イメルダは地面に座り込むと、モーリスの方へいったセロニアスを見た。



「おいモーリス」

「…くそっ、私を殺すのか!?」

「いや、説教をしに来た」

「説教だと……!?」

「お前は、大賢者って呼ばれて天狗になり過ぎだ。子犬と同じレベルなのに」

「何……!?」

「あと先を見る目が絶望的だ」

「何をバカな……!?」

「ちょっと長くなるけど、しっかり聞けよ」



 セロニアスはモーリスを哀れな目で見ている。



「お前な、みんな優しいから言わないんだぞ」

「な、何の事だ…?」

「お前は少し魔法が使えるが、基本的に無能だ。すぐ取り乱すし」

「少しだと!? ……無能!?」

「お前、王国に帰って来て役に立ったのか?」

「──!?」

「ヒマンドを攫って、魔物の怒りを買っただけだろ? この事態はお前が招いたんだぞ?」

「な、な、な……」



 今にも王城に攻め込もうとしている魔物の行軍が、モーリスの視界に入った。



「さらに、帝国と手を組むのは最もダメな悪手だ。すぐ属国にされて終わりだよ」

「な、な、何を言って……」

「帝国がどういう国か知ってるか?」

「当たり前だ!この目で視察した!」

「正体隠して生活したのか?」

「な、何を言ってる……」

「そうしないと見えて来ないんだよ」

「お前はそれをやったと言うのか!」

「やったよ。1年間奴隷になって暮らした」

「──!?」


 

 セロニアスはため息を付いた後、また話し出した。

 


「王国の子供が攫われてたの知ってるか?」

「ご、5年前の事件の事か?」

「帝国の奴隷ギルドがやってたんだよ」

「ば、バカな……」

「だから俺がそれを壊滅させた」

「ウソだ!」

「本当だよ。行方不明事件無くなったろ?」

「──!?」

「他にも色々やってるんだよ。俺達は」



 モーリスは愕然としながらも、セロニアスに聞かずにはいられなかった。



「敵国に金や武器を送っていたのは!?」

「帝国の1強にならないようにだろ」

「……そ、そんな」

「父上は各国のバランスを調整してた」

「ウソだ……!」

「お前らは、国王が狂ったって騒いでたけどな」

「全部デタラメだ!お前の口車には乗らんぞ!」

「そうか。じゃあザルーダと共に破滅するといい」



 セロニアスは再びワイバーンに乗ると、空高く舞い上がった。



「魔物共!ヒマンドを取り戻すぞぉぉ!」

「「グギャアァァァァアアっ!」」



 セロニアスと魔物の唸り声は王国中に響き渡った。







 

 

 魔物の総攻撃はあっという間に北門を突破した。それは「突破した」というよりも「門を破壊した」といった方が正しかった。



 しかし、王城の広大な中庭にはジョアンヌ派の最後の部隊が陣取っていた。



「くそ、魔物共めっ! これ以上は進ませんぞ!」



 ジョアンヌ派の最後の部隊は、鉄壁の守備力を誇るドメスト将軍の部隊であった。



「魔物共、まとめてぶっ殺してやる!」

「うおぉぉー! ドメスト将軍に続け!」



 ドメスト将軍は先頭に立ち、ゴブリンやオークなどの魔物を次々と屠っていった。それに続く兵士達も士気が高く、魔物の群れの侵攻を食い止める事に成功した。



「ブヒィッ! (お前達は下がりな)」



 すると魔物の群れの後方から、戦斧を持ったサブリナが現れた。さらにその隣には同じ姿のメスオークもいた。



「ブヒィ(行くわよキャサリン)」

「ブヒィ(OK、サブリナ姉さん)」



 サブリナとその妹であるキャサリンのオーク姉妹が、ドメスト将軍に襲い掛かっていった。

 

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