第15話 国家滅亡の危機


 セロニアスが率いる魔物の群れと王国騎士団。両者は王城の北門で対峙していた。



「セロニアス、捕虜の命がどうなってもいいのかっ!」

「捕虜だと?」



 王国騎士団に厳重に守られたサンポール大臣は、捕虜を人質に魔物の群れを追い払おうと必死になっていた。



「ククク。貴様はクーデターを知らんのか?」

「クーデター?」

「国王は国外追放。アンジェ軍も壊滅状態。そして千人を超える捕虜がこちらにはいるのだよ」



 セロニアスは少し沈黙した後、話し出した。



「な~んかウソくせえ」

「う、嘘ではない!真実だ!」

「お前らが父上とアンジェに勝ったの?」

「そういう事だ!」

「やっぱりウソくせえ」

「だから嘘じゃねえって言ってるだろ!」



 セロニアスはため息を付いて、サンポールに返答した。



「その話はもういいよ。魔物に総攻撃を開始させるから」

「ちょ、ちょっと待てえぇぇーっ!」

「何だよ、こっちは急いでるんだよ」

「とにかく待て! 今捕虜を連れてくるから」

「え~待てないよ。魔物達うずうずしてるし」



 サンポールは、獰猛な咆哮を繰り返す魔物の群れを見た。すると足が震えだし、全身から溢れるように汗が出て来た。



「そこを何とか頼む! …そ、そうだ高級紅茶でも入れるから、なっ?」

「たく、しょうがねえな。紅茶すぐ頼むぞ」

「ま、任せておけ」



 サンポールは捕虜を連行させる為に、王城の中に走っていった。そしてセロニアスと魔物のボス達には、高級紅茶が振る舞われた。







 一方その頃、ジョアンヌとザルーダには別の急報が伝えられた。



「ザルーダ様、ジョアンヌ様! き、緊急事態です!」

「一体どうしたのよ?」

「ザ、ザイトリン様の軍が!」

「ザイトリンがどうしたのだ!?」

「アンジェ軍に壊滅させられました!」

「「……はぁ!?」」



 ジョアンヌとザルーダは絶句した。我に返ったジョアンヌが伝令係に尋ねる。



「ザイトリンの軍は5000騎いたわよね?」

「は!5000騎でした」

「アンジェ軍は500騎よね?」

「は!500騎であります」

「てめぇ、ふざけてんのかぁぁーっ!」

「ひぃっ!」



 伝令係を殴ろうとしたジョアンヌを、傍にいたモーリスが抑え付けて止めた。そして伝令係に再度尋ねる。



「その情報に間違いはないか?」

「はい、間違いありませんモーリス様」

「くっ、それでアンジェ軍はどうしたのだ?」

「アンジェ軍はまもなく南門に到着する見込みです!」

「すぐに南門の守りを固めよ!」

「は!」



 こうして、ジョアンヌ派閥は南北の門をセロニアスとアンジェに攻められようとしていた。







 王城の南門では、アンジェ軍とモーリスを中心とした騎士団が対峙していた。


 そしてモーリスは自身の顎鬚を触りながら、悠然と話し出した。



「アンジェ王女、こちらには捕虜がおります」

「あぁ、知っている。では捕虜交換しようではないか」

「そちらはザイトリン様ですね?」

「ほう、話が早いな」

「では捕虜の半数を解放しましょう」

「モーリス、お前ふざけてるのか? 全員に決まってるだろ」

「…半数です。アンジェ王女」

「おいお前ら、あのクズを連れて来い」

「は!」



 アンジェの部下が連れて来たのは、ボコボコにされて意識がぶっ飛んでいるザイトリンだった。



「アンジェ王女、捕虜を暴行するなどもってのほかですぞ!」

「すまんな。こいつらは私が命令する前に暴走してしまうんだ」


 

 モーリスはアンジェの部下達を見た。すると全員から狂気染みた殺気を感じた。そして彼らは、とんでもない事を言い出した。

 


「アンジェ様、早くこのジジイを惨殺させて下さい。それとも拷問ですか?」

「ジョアンヌ派閥は皆殺しで構いませんね?」



 どいつもこいつも、とんでもない事を口走っている。捕虜交換の交渉中に全く適さない言葉を聞き、モーリスは混乱していた。



「──うぉっ!」

 


 そんな時だった。突然モーリスの頬の横を一本の矢が通り過ぎていった。やがて頬からは血が滲み出て来る。



「お前ら落ち着け。まだ交渉中だろうが」

「アンジェ様、申し訳ありません」

「すまんなモーリス。荒くれ者が多くて、私も手を焼いているのだ」



 完全に油断していたモーリスは、肝を冷やされた。



「くっ、こちらにも千人の捕虜がおるのだぞ! 交渉する気が……」

 


 モーリスの発言の前に、アンジェの部下達はザイトリンを袋叩きにしていた。体の至る所から緑色の血が吹き出している。



「…た、助げて…く…べぇ」

「ザイトリン様!」



 モーリスは訳が分からなかった。こんな言葉の通じない狂人達を相手にするのは、今まで経験がなかった。


 モーリスが混乱していると、さらに狂人達は暴れ狂いザイトリンの体を真っ二つに引き裂いてしまった。



「…ぎやあぁぁぁああーっ!」


「モーリス、捕虜千人今すぐ開放しろ。ザイトリンが危険だ」

「わ、分かったから! その狂人達を止めるのだアンジェ王女!」

「保証は出来ない。とにかく急げ」

「…くっ!」

 


 モーリスは捕虜千人を開放すべく、王城の中へ走っていった。



──10分後。


 捕虜を監禁している大部屋の前で、走って来たモーリスとサンポール大臣が鉢合わせた。



「モーリス殿、一体どうしたのですか!?」

「…はぁ……はぁ……」

「大丈夫ですか!?」

「ほ、捕虜は全員、今すぐ解放する」

「何を言われます! 捕虜を盾にせねば、魔物に襲われるんですぞ!?」



 モーリスはその言葉で我に返る。アンジェ軍の事で頭がいっぱいだった彼は、魔物の群れが集結している北門の事を思い出した。



「…くっ、一体どうすれば」

「モーリス殿、何があったのですか!?」

「ザイトリン様の命が危ないのだ!」

「……ザイトリン様が!?」



 モーリスは一部始終をサンポール大臣に伝え、サンポールは酷く狼狽した。



「しかしモーリス殿、北門は国家滅亡の危機が迫っておるのですぞ!?」

「……仕方ない、セロニアス王子と仲の良かった騎士団長と使用人を連れていきなさい。アンジェの方は何とか誤魔化すしかあるまい」



 こうしてセロニアスを止める為に、騎士団長カーターと使用人達が北門に連行された。

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