第14話 狂人軍団


「ば、化け物だぁぁー」

「剣や槍が全く利かないぞっ!?」



 ザイトリン率いる5000騎の兵士達は、アンジェ軍の精鋭500人に蹂躙されていった。



「た、助け…ぐはぁぁーっ!」

「やめて、や、やめてくれぇぇ」



 ザイトリン軍の騎馬に、猛然と突っ込んでいく歩兵のアンジェ軍の男達。彼らは上半身裸で、何の武器も持っていない狂人達だった。



「くそっ、こいつら狂ってやがる!」

「さ、3番隊壊滅、4番隊も壊滅寸前です!」



 ザイトリン軍が剣や槍で攻撃しても、狂人達は真剣白刃取りでそれらを粉砕。後は丸太のような腕や脚で敵をボコボコにしていく。



「ゾンビ野郎、アンジェ様を愚弄した罪は重いぞぉ!」

「アンジェ様と同じ空気を吸う資格はない!」

「腐った死体のくせに」

「顔がむかつく」

「母親と弟がデブ!」



 狂人達はザイトリンを罵倒しながら、敵兵を蹂躙していく。



「き、貴様ら何をやっている! 相手は丸腰なんだぞっ!?」

「ザイトリン様、た、助けてぇぇー!」

「愚か者めが! な、何とかせぬかぁ!」



 1時間後、平地は血の海となり、気が付けばザイトリン軍は20騎ほどしか残っていなかった。そして、立ち尽くすザイトリンにアンジェが歩み寄った。



「武器にばかり頼るからこうなるのだ」

「だ、だまれぇぇ!」

「大人しく門番でもやっていれば良かったものを」

「うるさい! 不死身の力を思いしれぇぇー!」



 ザイトリンは剣を振りかぶり、渾身の一撃をアンジェに放つ。しかしアンジェはそれを指2本で受け止めた。



「そ、そんな馬鹿な!?」

「ザイトリン。確かにお前は強くなった」

「……何?」

「私が鍛えて数百倍は強くなった」

「……何が言いたいのだ!?」

「しかしお前は、元が0・1程の強さしかなかった」

「黙れえぇぇえーっ!」



 アンジェは片足で立つと、10連撃の蹴りをザイトリンに食らわす。ザイトリンの顔面や体は原型を留める事が出来ず、緑色の血を大量に噴出させた。



「ぐべえぇぇぇええーっ!」



 ザイトリンは断末魔をあげて倒れた。



「おぉ、アンジェ様お美しい!」

「戦場の女神降臨!」



 アンジェ軍の男達から歓声が上がる。しかし数秒後には、ザイトリンの体がどんどん修復して元に戻ろうとしている。



「流石はゾンビだな。…お前ら、こいつを好きにしていいぞ」

「は! 感謝致します」

「でも殺すなよ。こいつは殺すには惜しい程のクズ野郎だ」

「かしこまりました!」



 こうしてザイトリン軍は、アンジェを崇拝する狂人軍団に殲滅されたのだった。







 国王リチャードが去っていった王城では、ジョアンヌとザルーダが祝杯を上げていた。



「ついにこの日が来たのね!」

「長い戦いだったなジョアンヌ」

「あの平民出のリチャードが、財産没収されて国外追放。最高の気分よ」

「ヒマンドも正気を取り戻したし、これからは4人でこの国を盛り立てていこうではないか」



 2人が乾杯をしている所に、モーリスがやってきた。



「お2人共、まだ油断は出来ませんぞ」

「モーリス、アンジェ軍は壊滅状態なのよ?」

「そうだぞ、セロニアスだって犬の魔獣がいなければ、無能なバカ王子だしな」



 モーリスはため息を付いて話し出した。


「セロニアス王子を侮ってはなりません」

「ふん、あいつに何が出来る?」

「現に2人の王子が痛い目に合っています」

「もうあいつの自由にはさせんよ」

「とにかく油断大敵ですぞ」



 ザルーダは使用人に果実酒のおかわりを催促する。そして彼とジョアンヌのグラスになみなみとそれが注がれた。



「モーリス、あいつと仲が良かったカーターや使用人達は、皆捕虜になっておるのだぞ? 」

「そうですが……」

「人質を無視するほど、あいつもバカではあるまい」

「そうよ、だからモーリスも一緒に乾杯しましょうよ」

「せっかくですが」

「もう、あなたは昔から固いのよね」

「私は城内を見て回って来ます」



 モーリスは妙な胸騒ぎがして、とても祝杯を上げる気分にはなれなかった。



 そんな時だった。

 血相を変えたサンポール大臣から、急報が伝えられた。



「ザルーダ様、た、大変です!」

「何だ、騒がしいぞサンポール」

「セ、セロニアスが……!」

「セロニアスがどうしたのだ?」

「魔物の大群を率いて、こちらに向かっております!」

「ま、魔物の大群だとぉぉ!?」



 モーリスは慌てて、遠見の魔道具である水晶玉を見た。するとそこには1万を超えるであろう、獰猛な魔物の群れが映っていた。


 そしてそれを指揮しているのが、ワイバーンに乗ったセロニアスだった。



「こ、これは……」

「どうしたのだモーリス!?」

「とんでもない数の魔物の群れ、軽く1万はいますぞ!」

「な、何だとおぉぉー!?」

「……こ、国家滅亡の危機です」

「ひ、ひ、人質を盾にするのだ! 準備を急がせろ!」



 ジョアンヌは、飲んでいた果実酒のグラスを床に落として絶句した。

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