第9話 花ムコ


 ポチマルがオークの群れに近付くと、オーク達は深々と頭を下げた。そしてオークキングは玉座から立ち上がった。



「ブヒイィィ!(よく来たな)」

「グガァァ!(元気だったか?)」



 ポチマルとオークキングは熱い抱擁をかわした。


 この2人は元々敵同士だったが、激しい戦闘を繰り返す内に、熱い友情が芽生えていたのだった。



「セ、セロニアス、私はまだ恋人は……」

「まぁ、お互いの気持ちもあるしな」

「そ、そうだとも。こういうのは相性もあるし」




 ポチマルと話し込んでいたオークキングは、隣に座っていた娘のメスオークであるサブリナに声をかけた。


 するとサブリナはヒマンドの方を見て、頬を赤らめた。



「あれ、メスオークはお前の事気に入ったみたいだぞ」

「そ、そんな! 何かの間違いであろう!?」

「あ、こっちに歩いて来るぞ」

「ひ、ひいぃぃーっ!」



 ヒマンドの傍に来たサブリナは、また頬を赤らめモジモジしている。


「ん? 何だメスオーク、遠慮はいらないぞ」

「ブ、ブヒイィィー!」



 セロニアスの言葉を聞いたサブリナは、ヒマンドを脇の下に抱えるとそのままどこかに連れさっていった。



「セ、セロニアス! た、た、助け……」

「はは、ヒマンドの奴泣いて喜んでるぞ」

「ひ、ひいぃぃーっ!」

「ジョアンヌもすぐに孫の顔が見られるな」



 めでたくカップル成立した所で、セロニアスとポチマル親子は地下迷宮を後にした。









「……という訳なんだよカーター」

「え、冗談でしょセロ様…」

「本当だよ。ヒマンドはメスオークの花婿になったんだ」



 俺はその後再び牢屋に戻り、様子を見に来たカーターにヒマンドの事を話していた。カーターはいつもの様に口をポカンとさせている。



「…ど、どうするんですか!?」

「え、何が?」

「何がじゃありませんよ。第2王子をメスオークと結婚させるなんて!」

「強引にさせた訳じゃないぞ」

「え、そうなんですか?」

「そうだよ。俺だって当人同士の気持ちを無視するほど、横暴じゃないさ」

「ちょっと信じられませんが」

「本当だって」

「…しかし、これはとんでもない事になりましたぞ」



 カーターは俺の牢屋の前を、ブツブツ言いながらいったりきたりしている。



「何だカーター、トイレ我慢してるのか?」

「違いますよ。もうすぐ宰相のザルーダが帰国するんです」

「ああ、そんな奴もいたな」

「どうするんですか、息子の1人がゾンビになって、もう1人がメスオークの花婿になったんですよ!?」



 俺は少し考え込んでカーターに返答した。



「孫の顔も見られるし、喜ぶだろ?」

「喜びませんよ!ていうか人間と魔物の間に子供は出来ないし」

「え、そうなの?」

「そうですよ。人間と動物の間にも子供出来ないでしょ?」


 

 それはそうだが、それは相手が動物の話だ。



「でもカーター、思い出してみろ」

「何をです?」

「ジョアンヌとヒマンドは、かなりオークに近いぞ」

「ま、まぁ確かに言われてみると…」

「出産祝い用意した方がいいぞ」

「え、そうなのかなぁ…?」



 カーターは難しそうな顔をして、俺が収容されている牢獄を出て行った。俺はまた暇になったので、牢屋の中で筋力トレーニングを始めた。








 

 ヒマンドがメスオークの花婿になった翌日。帝国の視察から宰相のザルーダが帰国した。



 ザルーダの乗せた馬車は王城の正門前に停まる。それを出迎えていたのは、サンポールを始めとしたジョアンヌ派閥の大臣達だった。



 馬車からは、宰相ザルーダと側近の2人が降りて来た。


 1人は大賢者と呼ばれる宮廷魔術師モーリス。そして元S級冒険者である女戦士イメルダだ。



 正門前を歩いていたザルーダは、とある門番兵の姿が目に入った。



「な、な、何だあのゾンビは!?」

「そ、それはその……」

「なぜゾンビがおるのだ! 汚らわしい!」

「あのゾンビはその、ザ、ザイトリン様で…」

「あぁ!? サンポール貴様、ふざけているのか!」

「め、滅相もございません」



 ザルーダが激昂していると、そのゾンビの門番が歩み寄って来た。


「父上、私はザイトリンデス」

「…はぁ!?」


 

 ザルーダはそのゾンビを見た。


 顔は生気の欠片も無い青紫色。片方の目玉は地面に落ちそうになっている。そして額には、乾燥したハナクソが沢山付いていた。



 しかしその顔は紛れもない我が子だった。衣服も特注品のザイトリンの物だ。



「お、お前本当にザイトリンなのか!?」

「ハイ。私ザイトリン。門番してマス」



 ザルーダは近くにいたサンポールの首根っこを掴み、問いただした。



「サンポール、これは一体どういう事だ!?」

「も、申し訳ございません!」

「どういう事だと聞いているんだ!」

「…こ、国王派閥の者にやられたのです」

「何だと!?」



 ザルーダは呆然と立ち尽くした。それを見ていた側近の宮廷魔術師モーリスがザイトリンの前に立った。


 モーリスは自身の白く長い顎髭を触りながら、ザイトリンを観察した。



「…ふむ、これは太古の死霊術が行使されておりますな」  

「モーリス、ザイトリンを人間に戻せるのか!?」

「残念ながら……」

「クソがっ、リチャードめぇ!」

「しかし皇太子様の自我を取り戻す事は可能にございます」

「何、本当か!?」

「はい。術者の命令だけなら解除可能にございます」 

「よし、今すぐやってくれ!」



 こうしてザイトリンは、モーリスによって自我を取り戻そうとしていた。





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