第8話 謝罪


 ポチマルの容赦無い攻撃は続いた。



「ゥガアァァァーっ!!」

「ぐはあぁぁあーっ!!」

「ゥガアァァァーっ!!」

「ぷべらっ!!」



 ヒマンド側近の兵士達10人は、ポチマルによって瞬殺された。その凄惨な光景を見たヒマンドとサンポールは堪らず失禁してしまう。



「よし、お仕置きはこんな物だろ」

「…ウガァァ」

「え、違うの?」



 セロニアスは、ヒマンドとサンポールの近くに歩みよった。



「おい、お前ら嘘を付いたな?」

「……えっ、何を言って」

「ポチマルは、我が子を痛め付けたのは兵士達じゃないと言ってるぞ」

「そ、そんなバカな……」 


「ポチマルは人間のウソが分かるんだよ」

「えぇ!? …じゃ、なんで兵士達を!?」

「えー、知らないよ。機嫌が悪かったんだろ」

「そ、そんなぁ!」



 セロニアスの後方では、ポチマルが正座をして大剣を研ぎ石で研ぎ出した。それを見た2人は全身汗まみれになる。



「た、頼む、命だけは助けてくれ!」

「え〜、大剣を研ぎ出したポチマルは止められないよ」

「そこを何とか頼む。私が悪かった、この通りだ!」



 ヒマンドとサンポールは、セロニアスに土下座して必死に命乞いする。



「え〜、どうするポチマル?」


 ポチマルは2人を睨みつつ、親指で自分の首を切るような仕草を見せる。



「ありゃ、殺害する気まんまんだよー」

「「ひいぃぃーっ!!」」



 ポチマルは大剣を研ぎ終わり、セロニアスに見せる。



「おお、ポチマルは相変わらず丁寧な仕事するな」

「ガウっ」

「これなら、スパッと首が飛ぶと思うよ」

「ガウっ」



 ヒマンドとサンポールが、恐怖で気を失いかけたその時だった。


 蹴られて横たわっていたハニマルが急に立ち上がり、尻尾を振り出した。



「あれ、ハニマル大丈夫なの?」

「ワン!」

「あ、こいつ〜、重体のフリしてたなぁ」

「ワンワン!」



 ハニマルは元気に走り出し、セロニアスの懐に飛び付いた。それを見ていたポチマルがセロニアスに話しかけた。



「ウガァァ」

「え、こいつら許してあげるの?」



 ポチマルは首を縦に振り、大剣を鞘に戻した。



「おいお前ら、ポチマルの寛大な心に感謝しろよ」

「…ゆ、許してくれるのかっ!?」

「もう動物をいじめるなよ」

「勿論だとも! これからは動物を大事にすると約束しよう!」



 その時、ポチマルは兵士達の屍を眺めていた。その瞳はどこか哀しそうだった。


「ウガァァ」

「え、まぁ仕方ないんじゃない?」



 2人の会話が気になったヒマンドが、セロニアスに尋ねた。



「ポ、ポチマルさんは何と言っているのだ?」

「あぁ、ちょっとやり過ぎたかなって言ってる」

「いや、これは私達が悪いので……」



 するとポチマルはセロニアスに何かを話した。



「ガウァァ?」

「あ、そうなの? それもいいんじゃない」



 ヒマンドとサンポールは、2人の会話が気になって仕方なかった。



「ポチマルは、2人にお詫びがしたいらしい」

「い、いやそんな、気にしないでくれ」

「…え、ポチマルの好意を断るの?」

「いや、決してそういう訳では!」

「じゃ、ポチマルにお願いしよう」


 

 ポチマルは腕を組んで悩み出した。



「そうだね、何がいいんだろ」

「お、お気遣いなく…」

「あ、そうだヒマンドお前、恋人が欲しいんじゃないか?」

「え? 恋人? いや大丈夫…」 


「そうだ、それがいい。俺も男だから分かるよ」

「私は公務で忙しいし、まだ恋人は…」

「はは、遠慮すんなって。お前のタイプはどんな感じだ?」



 ヒマンドはどうにか断ろうとしたが、セロニアスの背後にいるポチマルの獰猛な眼差しがとても怖かった。



「そ、そうだな、…やはり母上の様にふくよかな感じかな?」

「はは、お前あんなデブがいいのか?」

「いやぁ、ははは……(く、今は耐えるしかない!)」

「ポチマル、誰かいないかな?」



 ポチマルは少し考えたあと、ポムっと拳と手の平を合わせた。そして自分に付いて来るように合図した。









 レプの森を離れ、セロニアス達は「魔物の巣窟」と呼ばれる、とある地下迷宮に来ていた。


 そこの最下層の地底湖には邪神も封印されている。



「……はぁ……はぁ」

「おいヒマンド、だらしないぞ」

「す、すまん。…それでもうすぐ着くのか?」

「どうやら、この扉の奥にいるらしいぞ」

「え、いるって何が?」

「何がって、お前の恋人候補だろうが」

「えぇ、この地下迷宮に!?」

「そうだよ。でも相性もあるからな。無理強いはしないよ」



 ポチマルは目の前の扉を開けた。その後にハニマルを抱っこしたセロニアスが続き、ヒマンドも恐る恐る入っていった。


 サンポールは兵士の埋葬がしたいという事で、レプの森に置いて来ていた。



「お、こいつらか。確かにヒマンドのタイプかもな」

「……え、どういう事?」



 扉の奥には、なんと豚の魔物オークの群れが生活をしていた。



「…ひ、ひいぃぃーっ!!」

「お、何だヒマンド、そんなに嬉しいのか?」



 ヒマンドは腰を抜かし地面に倒れ込んだ。ポチマルはそれを気遣い、彼の首根っこ掴んで引きずって歩く。


「はは、ポチマルは優しいな」

「…ひ、ひいぃぃーっ!!」



 オークの群れの中心には、玉座があり群れのリーダーであるオークキングが座っている。そしてその隣の椅子には、肥えたメスのオークが一匹腰掛けていた。



「おお、もしかしてあいつか?」

「ガウァァ!」

「いいんじゃないか、ジョアンヌに似てるし」



 こうして、ヒマンドには素敵な恋人が出来ようとしていた。

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