第7話 愛犬ポチマル


「……はぁ……はぁ」

「大丈夫ですか、ヒマンド様?」

「余は疲れたぞ。犬はまだ見つからんのか?」



 ヒマンド王子は肥満体型であり、普段の運動不足もたたって疲れがピークとなっていた。




「…あ!小型犬がいましたぞ!」

「何、本当か!?」



 側近の兵士が犬を見付けて走り出した。しかし犬も駆け出し逃げてしまう。

 

 犬は一定の距離が出来ると、振り返ってヒマンド達を見ている。




「何をやっておるのだ!早くそのクソ犬を捕まえよ!」

「…は、はい!」



 また側近の兵士が犬を追いかけて走り出した。


 しかし、またもや犬も駆け出し逃げてしまう。犬は一定の距離が出来ると、また振り返ってヒマンド達を見ている。



「おのれ、クソ犬めが!早く捕まえよ!」

「……はぁ……はぁ……畏まりました!」




 また側近の兵士が犬を追いかけて走り出した。


 しかし、やっぱり犬も駆け出し逃げてしまう。犬は一定の距離が出来ると、また振り返ってヒマンド達を見ている。



「クソがあぁぁぁーっ!いい加減にしやがれ!クソ犬!」

「……はぁ……はぁ」

「捕まえなければ、貴様ら全員死刑だぞ!」

「…ひぃっ!」




 ヒマンドに脅された兵士達は、死ぬ思いでようやく犬を捕まえる事が出来た。


 

「ふははははっ!よし、犬に首輪を付けて木に繋ぐのだ」

「…はぁ……はぁ……」

「早くせぬか!」

「…か、畏まりました!」



 ヒマンドは薄ら笑いを浮かべて、逃げ場の無い犬を思い切り蹴り飛ばした。


「キャイン、キャインっ!」



 犬はヒマンドの蹴りをくらい、ぐったりしてしまった。



「ふははははーっ! どうだ犬よ、ヒマンド様の力を思い知ったか!」

「ヒマンド様、このまま蹴り殺してしまいましょう」

「ククク。国王やバカ兄妹の泣きっ面が楽しみだな!」



 するとそこに1人の男がやって来た。



「あれ、兄上?」

「…なっ!?セ、セロニアス」

「こんな所で何してんですか?」

「お、お前、なぜここに!?」


「あぁ、何でも動物虐待者が森に出ると聞きまして。懲らしめに来たのです」

「ふ、ふざけるな!貴様は牢獄から出られぬ身であろうが!」


「う〜ん、仮釈放という事でしょうか」

「そ、そんな訳があるかぁ!」



 セロニアスは横たわっている犬を見た。



「あれ? そこで寝ているのは……」

「ふん、貴様の犬を可愛がってやったぞ」

「兄上が暴力をふるったのですか?」

「おい、兄などと呼ぶな。お前は重罪人であろう」


「なるほど。じゃあ、ブタ野郎」

「はぁ!? 貴様誰に向かって暴言を吐いている!?」

「え? 眼の前の太ったブタにだけど」

「き、貴様あぁぁーっ! 叩き切ってやる!」



 ヒマンドは腰に付けていた剣を抜刀した。



「あれ? 俺に危害を加えるの?」

「当たり前だ! 今ここで処刑してやる!」

「うわ、こりゃ大変な目に合うぞ!?」

「愚か者が、今更後悔しても遅いんだよ!」



 すると剣を振り上げたヒマンドは、大きな影に覆われた。


「……ん? 何だ、何の影だ?」

「あ、ポチマル。…まぁそりゃ怒るよね」



 ヒマンドやサンポール大臣達が後方を見上げると、そこには想像を絶する魔物が仁王立ちしていた。



 身の丈は3メートル以上。大きな口からは鋭利で獰猛な牙がむき出しになっている。


 顔こそ犬の原型があるが、体は人間の巨漢戦士のように鋼の筋肉をまとっている。



 ジャイアント・コボルト。一流の戦士でも苦戦する凶悪な犬の魔物である。



「…ひ、ひ、ひいぃぃいいーっ!!」

「ま、ま、ま、魔物、……こ、殺される!!」



 ヒマンド、サンポール、10人の兵士達の顔は急激に青ざめ、全身を大きく震わせた。



「ウガアァァァーっ!!」

「あぁ、分かるよポチマル。我が子が痛め付けられたからな」

「ゥガアァァァーっ!!」

「あぁ、そうだな。主にも剣を向けたしね」



 キングコボルトのポチマルを見たヒマンドとサンポール大臣は、恐怖で腰を抜かしてしまった。


 兵士達は今にも逃げ出しそうになっている。



「……ど、ど、どういう事だ!? 」

「え、何が?」

「そ、その魔物が貴様の飼い犬だと言うのか!」

「そうだよ。厳しく育てたらこうなった」

「はぁ!? 犬が魔物になったと言うのか!」

「地下迷宮に置いて来たら、わんぱくに育った」

「わんぱくって言う次元じゃねえだろがっ!!」


 

 ポチマルは拳の骨をボキボキと鳴らしている。そしてセロニアスに何かを尋ねた。



「ゥガアァ?」

「うん、誰だろうね。許せないよね」

「……な、何を言っておるのだ!?」

「あぁ、ポチマルの子供を痛め付けたのは、誰かと聞かれたんだよ」

「───!?」



 ヒマンドはさらに顔が青ざめ、震えも大きく激しくなっていった。



「ポチマルの家族愛は強いからねぇ」

「……し、知らない、私ではない!!」

「まぁ、全身噛み千切られるだろうな」


「わ、私じゃない、サンポール大臣が蹴ったのだ!」

「な、な、何を言われます、ヒマンド様!?」


「ほう、ハニマルはお前が蹴ったのか?」

「ち、違う、ヒマンド様だ!」

「サンポール貴様、わ、私が死んでもいいのかぁ!?」

「えー、どっちなんだよ?」



 ヒマンド王子とサンポール大臣の口論は、どんどんヒートアップする。


 そしてヒマンドはとうとうサンポールを殴った。



「な、何をするのですか、ヒマンド様!」

「うるさい!分をわきまえよサンポール!」

「じゃあ、ハニマルを蹴ったのはその大臣でいいのか?」



 ポチマルは獰猛な口を大きく開いて、大きく吠えた。



「ひぃっ! ち、違う。兵士達だ、兵士達がやったのだ!」

「サ、サンポール大臣! 何を言われて…」

「じゃあ、もう兵士達で決定ね」



 するとポチマルは丸太の様な両腕で、兵士達に殴りかかっていった。


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