第6話 ヒマンドの策略



 派閥の争いも、どうにかこうにか収まった。


 一段落終えて、俺セロニアスとカーターは一緒に歩いて話をしていた。



「どうにか美談になって、丸く収まったな」

「収まっていないと思いますが」

「そうなの?」

「そうでしょ。ジョアンヌ様が倒れちゃったじゃないですか」

「嬉しさの余りな」

「ショックでですよ!」



 俺がザイトリンをゾンビ化したので、親子の再会が出来た。もしもあの時、俺がゾンビ化しなければ、あいつは墓の中だった。



 そう思うと、我ながらいい事したと思ったのだが。親子の愛は人それぞれか。難しいものだ。



「じゃあ俺は牢屋に戻るから、また何かあったら呼んでくれ」

「今回も別に呼んでないですよ」

「そうなの?」

「死刑囚を謁見の間には呼ばないでしょ!」

「そんなものか」

「見付からなくて良かったですよ。まったく」



 俺達は地下の牢獄にたどり着いた。



「じゃ、カーターまたな」

「はい。大人しくしていて下さいよ」

「任せておけ」



 俺はひん曲がった鉄格子の間を通って、自分の牢屋に入った。そして念の為、ひん曲がった鉄格子を真っすぐに戻しておいた。



「う~ん、暇だな…」



 俺は眠くなったので、牢屋の中で横になった。一部始終を見ていたカーターは、またポカンとしていたがすぐに帰っていった。









 その頃、第2王子ヒマンドはジョアンヌの寝室にいた。



「くそ、国王派閥めぇ!」



 ヒマンドはベッドの上で気を失っている母ジョアンヌを見て、さらなる怒りが沸き起こっていた。



「高貴なる兄上を事もあろうにゾンビにし、さらには母上まで寝込ませるとは!」

「ヒマンド様、落ち着いてください」

「これが落ち着いていられるか!」



 テーブルを何度も叩いていたヒマンドを、側近のサンポール大臣が宥めた。



「しかし我々の計略により、あのセロニアスを排除出来たのは大きいかと」

「あいつの死罪は変わらぬのであろうな?」

「変わりありません。国王の命を狙ったのですから」

「そうか。追放が死罪になったのは嬉しい誤算ではあったが。…それにしても腹が立つ!」

「お気持ちお察し致します」



 正室のジョアンヌと息子達は宰相のザルーダと手を組み、国王やセロニアスを排除して王国を我が物にしようと企んでいた。



 セロニアスは上手く排除出来た。しかし、次期国王にしようとしていたザイトリンがゾンビになってしまった事で、派閥には大きな動揺が生まれていた。



 それでもヒマンドは、国王派閥に一泡吹かせたいと思考を巡らせている。




「サンポール大臣、あいつらを苦しめる手はないか?」

「…私に1つ考えがございます」

「ほう、それは何だ?」

「セロニアスには溺愛している犬がいます」

「確か小型犬を飼っていたな」

「はい、その犬は国王もアンジェも溺愛しています」

「確かにそんな話を聞いた事がある」

「その犬が無残な死に方をしたらどうでしょう?」

「……ククク。面白い。実に面白いな」



 たかが犬。だが動物も長年飼っていると家族同然となる。


 ヒマンドは、大事な家族を失う国王らの泣きっ面が目に浮かび、不気味なニヤけ顔となった。



 ザイトリンやヒマンドは、自分達の本当の父親は宰相のザルーダと知っている。


 母のジョアンヌからその事実を聞かされた時は、ショックなど無くむしろ喜びしかなかった。



 貴族として由緒正しい血筋を持つ宰相ザルーダの息子というのは、彼らの誇りにすらなっていた。



 そして平民出で武力しかないリチャード国王は軽蔑の対象だったのだ。




「それでセロニアスの犬はどこにいるのだ?」

「はい、王宮庭園の奥にいるようです」

「そうか、では誰にも見られないように犬を攫って来い」

「了解いたしました」



 サンポール大臣も、ヒマンドと同じような不気味なニヤけ顔になった。


 







 サンポール大臣と配下の兵士達は、王宮庭園の奥に来ていた。



「確かこの辺りに犬小屋があったはずだが」

「見付かりませんね、サンポール大臣」



 その後も庭園を探したが犬小屋は見付からなかった。


 サンポール大臣は仕方なく、庭園の手入れをしていた使用人の老人に声をかけた。



「おい、そこの使用人」

「あ、これはこれは大臣様」

「ここら辺に犬小屋があったと思うのだが?」

「…あぁ、ポチマルの犬小屋ですな」

「名前は知らんが、その犬はどこにいる?」

「あぁポチマルでしたら、森にいますよ」

「森だと? …なぜ犬が森などにいるのだ?」

「セロ様が言うには、ポチマルがわんぱくになったからと」

「わんぱく? ……あのバカ王子は犬の躾も出来んのか」



 セロニアスをバカ王子と言った事で、使用人の表情が曇った。


 彼は気さくに話しかけてくれるセロニアスが好きだったからだ。



「それで、その森というのはレプの森か?」

「そうです。あそこは王城から程近いですから」



 サンポール大臣はヒマンドの所に戻り、ポチマルの事を報告した。


 するとヒマンドも乗り気になってレプの森に行く事となった。



 レプの森は全長3キロある為、すぐにポチマルが見付かるようにと側近の兵士10名も駆り出された。




 しかし、ヒマンド、サンポール、兵士10名、彼らにはとんでもない未来が待ち受けていたのだった。


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