第4話 門番ザイトリン
今俺とカーターの前には、1体のゾンビが立っていた。
「オレ、ザイトリン。主の命令守ル」
「ほう、じゃあ主の命令を言ってみろ」
「国王陛下の命を狙ウ」
「それから?」
「門番スル。人に優しくスル」
「よし、完璧だぞザイトリン」
俺とゾンビとなったザイトリンは、うまく意思疎通が出来た。
カーターは、それを見て口を半開きにしている。
「こ、これで本当に良かったんでしょうか」
「最高じゃないか。国王の命を狙う門番だぞ?」
「まぁ、今までにないタイプではありますが」
「ゾンビ皇太子は希少だぞ」
だが少し経ってから、俺は重大なミスに気が付いてしまった。
「うーん、でもザイトリンって戦闘力が皆無なんだよな」
「まぁ内政しかやっておりませんでしたから」
「多分元気のいい5歳児にも負けるくらいだぞ」
「え、そんなに弱いですか?」
「だってザイトリンだぞ」
「確かに」
「弱い刺客など、父上はお喜びにならんぞ」
「なりませんな」
「どこかの部隊で修行させるか?」
「ゾンビにですか?」
「ああ。むしろゾンビであればこそだ」
カーターは腕組みをしながら考え込む。
「ゾンビとはいえ、元第1王子ですからな」
「みんな遠慮してしまうか」
「そうなりますね。きっと」
「じゃあ、アンジェの部隊に入れてみるか」
俺の妹アンジェ。
彼女は、王国最凶と言われる遊撃部隊の司令官を務めている。愛情深いあいつなら、ザイトリンを厳しく育ててくれるはずだ。
──2日後。
戦場の最前線にいたアンジェの元に伝令係が走って来た。
「アンジェ様、レイノルズ王国から和平の使者が参りました」
「ふん、今更降伏など許さんぞ」
伝令係の男は、アンジェの美貌とその美しい声に一瞬で心を奪われる。
そして頬を赤らめた彼は、胸を高鳴らせてアンジェに声をかけた。
「使者はそのまま帰しても宜しいでしょうか」
「その使者に伝えろ。男なら最後の1兵になるまで戦えと」
「ははっ!」
アンジェは伝令係が帰っていくと、大きなため息をつく。
「まったく、どいつもこいつも楽な道ばかりを歩みたがる」
するとそこに、アンジェの側近である女騎士ニーナが走って来た。
「ア、アンジェ様」
「騒々しいぞ、今度は何だ?」
「申訳ありません! セロ様からの伝言が届いております」
「おお、兄上からか。それで伝言は何だ?」
「は! ゾンビを1体送るから鍛えて欲しい、との事です」
「ゾンビだと?」
「はい、確かにゾンビが一体近くに来ております」
アンジェはニーナに案内されて、ゾンビの元にやって来た。
「オレ、ザイトリン。セロ様の命令守ル」
「は!?」
「オレ、ザイトリン」
「まさか、こいつは第1王子か!?」
「そ、そのようです。間違いありません」
ニーナは、セロニアスから預かった手紙をアンジェに渡した。
=====
拝啓 我が妹アンジェ。
今年は例年になく冷え込む秋となりました。
健やかにお過ごしでしょうか。
この度つまらない物で恐縮ですが、
ゾンビを1体送ります。
可能であれば国王陛下の命を狙える
強い門番に育てて頂ければ幸いです。
兄セロニアスより。
=====
アンジェはセロからの手紙を読んで沈黙する。
そしてその後、豪快に笑い出した。
「ふはははははーっ!」
「アンジェ様?」
「流石は兄上。父上の命を狙ったかと思えば、今度は第1王子をゾンビにして従わせるとはな!」
「一体どういう意図があるのでしょうか?」
「さあな。兄上は私の想像のはるか上を行くお人だ」
「でも流石に国王陛下の命を狙うだなんて」
「いや、父上は強者との戦いを好む」
「アンジェ様、では本当にこのゾンビを鍛えるのですか?」
「そうだな。他ならぬ兄上の頼みだ」
アンジェとニーナは、ゾンビとなったザイトリンの身体を見た。
「うーん、こいつは元気のいい5歳児にも負けそうだな」
「え、そんなに弱いですか?」
「ザイトリンだからな」
「確かに」
「ニーナ、お前しばらく指導してやれ」
「えぇ!私ですか!?」
「基礎トレーニングだけでいい。その後は私が最前線に連れていく」
「本当にゾンビを鍛えるんですね」
「むしろゾンビであればこそだ」
こうして、ゾンビとなったザイトリンの修行がスタートしたのだった。
──さらに2週間後。
王城の正門には人だかりが出来ていた。
そこには、厳しい修行を終えたゾンビ、ザイトリンが門番を務めていたからだ。
顔色は生気の無い青紫色。片方の目玉は今にも地面に落ちそうになっている。
「お、おいあれって、ゾ、ゾンビだよな!?」
「物凄い死臭がするぞ!?」
「ていうか、その前にあれは第1王子のザイトリン様では!?」
王城の正門辺りが大騒ぎになっていた。
「オレ、ザイトリン。門番スル」
「や、やっぱりザイトリン様でしたか!?」
兵士や民衆はすぐに平伏して、ザイトリンを敬った。
「平伏いらない、みんな平等デス」
「……え!?」
「同じ人間。仲良くするが1番デス」
「お気持ちは嬉しいのですが、あなたは人間でなくゾンビでは!?」
空気を読めない天然の兵士が、暴言を吐いてしまった。周りの人間達の心が恐怖で凍り付く。
「ハハハ。これは一本取られマシタ」
ゾンビ皇太子は、兵士の暴言を広い心で受け止め微笑んだ。兵士や民衆は安堵のため息をつく。
そしてみんなの顔が笑顔になった。
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