第3話 蘇生



 その日俺とカーターは、とある洞窟の中を歩いていた。


 2人で死体が入った棺を引きずっているから、けっこう大変だ。



「セロ様、ザイトリン王子の遺体を一体どうするんですか?」

「いや、流石に殺害はまずいと思って…」

「やはり隠ぺいするのですか?」

「いや、生き返らせようと思う」

「は? まさかそんな事出来るわけ……」

「いや出来るよ」



 どうやらカーターは、俺の言葉を信じていないようだ。



「この洞窟の奥には、死霊術師が1人いるんだよ」

「死霊術師!?」

「そうそう、前は20人以上いたんだよ」

「20人? それが真実なら国家存亡の危機ですぞ」

「そうなんだ。だから父上に頼まれて俺が壊滅させた」

「…確かに3年前、アンデッドの群れが出現した事がありましたが」

「そうそれだよ」



 カーターは、俺の話を半信半疑で聞いているようだった。



「セロ様、ではなぜ1人だけ死霊術師が残っているのですか?」

「あぁそれな。実は…」

「実は?」

「あいつら邪神を復活させようとしていてな」

「じゃ、邪神ですと!?」

「そうそう、面白いから1人だけ見逃しているんだよ」

「え? それってヤバくないですか!?」

「う~ん、邪神が復活したらヤバいよね」

「じ、人類が滅びますぞ!?」

「いや、俺と父上と妹のアンジェが共闘して、前回は勝ったんだよ」



 カーターはまた口をポカンとさせている。でもどこか半信半疑っぽい。



「…さて着いたぞ」



 俺とカーターは洞窟の奥底にある地底湖まで来ていた。


 地底湖の手前には、大きな祭壇とローブを被った1人の不気味な老人がいる。



「おう、ジジイ。元気にしてたか?」

「……げっ! 悪魔王子!!」

「悪魔王子だなんて心外だなぁ」

「な、何しに来やがった!?」

「いや、お前に1つ頼みがあって。それより邪神はどうなんだ?」

「…ククク。もう腕を動かせるぞ」

「すっげー」

「邪神が復活すれば、貴様など虫けらの様に殺すぞ」

「ほほう」



 俺はワクワクして、地底湖に封印されている巨大な邪神の姿を眺めた。


 邪神は目玉だけを動かして、ジッと俺の顔を見ている。



「邪神なんて本当にいるんですか?」


 カーターが俺の傍に来て、地底湖を覗いた。


 すると突然、巨大な邪神の腕が地底湖から現れてカーターの体を鷲掴みした。



「う、うわあぁぁぁーっ!!」



 俺は瞬時に跳躍して、邪神の7本の指を剣で切り刻んだ。


 カーターは俺の傍に落ちて来て一命を取り留める。



「カーター、あんまり近づくと危険だぞ」

「……じゃ、邪神、ほ、本当にいるなんて!」

「いや全部本当だから」

「邪神の指を全て切り刻むとは…!」



 ローブの老人が、がっかりした表情を浮かべる。



「ジジイ、そうがっかりするな」

「くそっ、化け物め」

「それより、お前に頼みがあるんだよ」

「何だ? 嫌な予感しかせぬぞ」

「先日うっかり皇太子を殺しちゃってさ」

「うっかりだと?」

「そうそう、だから蘇生して欲しいんだ」

「蘇生? バカを言うな。わしはアンデッド化しか出来ぬぞ」

「やっぱそうか。…じゃそれでいいよ」

「ちょ、ちょっと待てぇーっ!」



 俺とジジイの会話にカーターが割り込んで来る。



「貴方、ザイトリン様をゾンビにする気ですか!?」

「うん、まぁ死ぬよりマシだろ?」

「マシなわけないでしょ! 皇太子ですぞ!?」

「カーター、家族というのはな、例えゾンビであっても生き返って欲しいものなんだよ」

「そ、それは違うと思うんだけど」



 その後も俺は「家族の深い愛」について、カーターに丁寧に説明し続けた。


 その甲斐もあって、どうにかカーターも納得したようだ。



 そして、ザイトリンのゾンビ化の儀式が始まった。



「ところで、ゾンビへの命令はどうするのだ?」

「命令?」

「操ってこそのアンデッドであろうが」

「ああ、そういう事ね。命令は1つだけか?」

「3つまでは命令出来る」

「なるほど」



 俺はザイトリンへの命令をどうするか、カーターに相談した。



「そうですね、やはり陛下を守れとかでしょうか?」

「それって普通過ぎないか?」

「陛下をお守りするのは重要任務ですぞ」

「いや、父上ならお喜びにならんな」

「じゃあどうします?」

「むしろ父上の命を狙え、の方が父上は喜ぶぞ」

「はぁ!?」

「だってほら、いばらの道が好きな人だから」

「ま、まぁそうかもしれませんが」



 よし、まず1つ目の命令は決定だ。

「隙あらば国王陛下の命を狙え」うん、いいかもしれない。



「さて残り2つだが」

「うーん、王城を守れとかでしょうか」

「門番か。うん、ゾンビの門番もいいな」

「今までに無い門番かもしれませんね」

「よし2つ目はそれでいこう」

「最後の1つはどうしましょう?」

「うーん、ザイトリンは性格悪いからな」

「確かに」

「人にやさしくとか?」

「セロ様にしては名案ですな」



 こうしてゾンビ・ザイトリンへの3つの命令が決定した。



 俺はさっそく、ザイトリンの棺の蓋を開ける。


 するとそこには、額に大量のハナクソが付いたザイトリンの死体があった。



「なんで額にハナクソが付いておるのだ?」

「細かい事は気にするな」

「ではアンデッド化するぞ」

「おう、頼むぞジジイ」

「本当にいいのか? こいつは皇太子なんだろ?」

「皇太子であればこそだ」



 ジジイは俺の考えが理解出来なそうだったが、アンデッド化の儀式を始めた。



 俺もカーターもドキドキしながら、その儀式を見守った。

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