第42話 最終話
「ライトナイツが敗れただと!? こ、こんな馬鹿なことがあってたまるか! 銅級使い魔ごときに魔王と同等の力があるわけない!」
「無様だな。これで貴様を守る使い魔ははいなくなったわけだ」
「ヒッ!?」
取り乱すハインツの前にクラリッサが立ちふさがる。逃げられないように見張っていたようだ。
その顔には嗜虐的な笑みが浮かんでいる。
「クラリッサさん、殺すつもりですの? わたくしは……できるなら法の裁きを受けさせるべきだと思いますわ。貴女が望むならですけど」
「俺たちに復讐を止める権利はないからな。戦いが終わったら好きにする約束で協力を頼んだわけだし。これからなにをしようと見ないフリをしてやるよ」
「安心しろ、殺すつもりはない。魔術協会の刑罰は死ぬよりも残酷だという噂だ。ただ、怨みは晴らさせてもらう」
そう言うとクラリッサはハインツの前に立ち、サッカーボールを蹴るように、足を振り上げた。
「私たちの苦痛を思い知れ! この外道が!」
「ハウッ!? お゛っ、ホギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
断末魔のような悲鳴が上がった。風を切る速さのキックが、ハインツの股間を直撃したからだ。
あれは確実に潰れているな。同じ男として一ミリだけ同情してしまう。
クラリッサは満足そうに鼻を鳴らし、リーシャは顔を赤くしていた。
「まあ、なんだ、強く生きてくれ元局長」
「お゛へ、あげげげげげげげげげ……」
地面を転がり回る元局長を見ながら、俺は手を合わせた。
それから二時間後。
「みなさん無事でぇしたか!」
「マイヤ、来てくれたのか」
「わたくしたちは無事ですわよ」
手を振りながら、マイヤが駆け寄ってくる。その後ろには応援に来てくれた、魔道具開発局の魔術師たちがいた。
みんなマイヤと似たような恰好で、様々な薬草や魔道具をマントにぶら下げている。
何度もビームが空に放たれたので、ここの場所はすぐにわかったそうだ。
「なんて戦いの跡だ。森が消し飛んでいるぞ」
「魔術師と使い魔に治癒魔術を行う」
「この男はひどい重症だな。片手がない上に睾丸が潰れているんじゃないのか」
「そいつが今回の事件の首謀者だ」
俺とリーシャも治療を受け、体の傷はすっかり回復した。クラリッサはもっとハインツの股間を蹴り上げたいと、残念がっていたな。
あとのことは魔術協会の上層部が処理するそうなので、俺たちは一度家に帰ることになった。
ただ魔術犯罪対策局局長の不祥事、人体改造をふくむ非合法な魔術実験に関わったということで、しばらくの間、自宅で待機しなければならないそうだ。
この時の気持ちは疲れたので、なんでもいいから休ませてくれだった。
「帰るかリーシャ」
「はい。わたくしたちの家へ」
魔術師たちが用意してくれた、グリフォンの馬車に乗って、俺たちは住み慣れた屋敷に帰宅した。
◇◇◇◇
二週間後。
「いま連絡が届きましたわ。自宅待機が終わるみたいですわよ」
「ようやくか。長かったな」
魔術協会のフクロウが、手紙を届けてくれた。
内容を読み上げると、今回の事件は現会長イスカ・ゴッドフリート自らが指揮を執り、実態の解明に乗り出すそうだ。
人体実験を行っていた研究所は突き止められ、関わっていた魔術師や研究者はすべて逮捕されている。
ハインツ自身も脱出不可能とされる無限牢獄に収監されるそうだ。
そしてクラリッサの処遇については、魔道具開発局で預かることに決定していた。人間にスキルを埋め込む技術は魔道具にも通じる部分があるので、メンテナンスなども請け負ってくれるらしい。
当面はマイヤの家で一緒に暮らしていると書かれていた。
「これでひと段落って感じか」
「そうですわね。初めての仕事から大事件でしたわ」
たしかに初心者魔術師コンビがやるにはハードすぎる内容だったな。
俺もできたばかりの上司を倒すことになるとは思わなかった。
「明日から魔術犯罪対策局に戻っていいそうですわ。次の局長が決まるまでの間は、副局長が仕事を割り振ってくれるそうです」
「仕事に復帰できるんだな。ずっと自主トレばっかだったから勘が鈍ってないといいんだが」
「リュウジなら大丈夫ですわよ。だって魔王ですもの」
あの戦いから俺のスキルは少し変化していた。【変身】も【魔眼】も前より精度が上がり、より複雑な機械に変われたり、魔力の痕跡も細かくたどれるようになった。
これで前よりも上手く戦えそうだ。
「俺を初めて召喚した夜のこと覚えているか?」
「もちろんですわ。あの時は大パニックでしたから」
クレーン車に押し潰されて死にかけて、前世と名乗る魔王の力で復活。リーシャに呼ばれてこの世界に来たわけだ。
最初は戸惑うことばかりだったが、いまはこの暮らしにも満足している。
元の世界に対する未練はない。
一体の使い魔として、リーシャ共に力を尽くしていくつもりだ。
「これからもよろしく頼む。俺の魔術師お嬢様」
「はい。わたくしの頼れる使い魔さん」
俺がリーシャの手を取ると、彼女はぐっと身体を近づけ、俺の頬にキスをした。
唇の柔らかで温かい感触が伝わってくる。
「え、ええ」
「あら、キスをされるのは初めてですの? ここでは挨拶のようなものですわよ」
「そ、そうだよな。いや、俺はもちろんわかっていたけどな」
「嘘ですわよ。貴方でなければしませんわ。これからもずっと一緒にいてくださいね」
俺は自分の顔が赤くなるのを感じながら、「ああ」と頷いた。
おっさんには刺激が強すぎることばかりだが、これからも彼女と共に生きていこう。
前世魔王のオッサン、異世界に召喚されお嬢様の使い魔になる 須々木ウイ @asdwsx
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