104:苦闘の結末

「きゅ、きゅーっ!?」


 リリーさんが慌てふためいているけど、それはそうね。

 フレイムボールストーム的な?

 なんか上級炎魔法が俺に放たれた感しかないよね。


(死……?)


 やっぱり喚き散らすのはアカンね。

 前世絡みでよくよく理解してはいたけど、なんの解決にもならないよね。

 さすがに終わりを覚悟せざるを得ないけど、あんら?

 俺はぐねりと体をひねる。

 なんとも違和感だった。

 迫りくる炎に熱さはまったく無かったのだ。

 炎は消えていった。

 俺に触れるや否やってタイミングで、静寂の中で淡々と消えていった。


(……えーと?)


 この現象の意味は何なのか?

 俺は呆然としつつにステータスでも確認しようと思ったのだが、


 ……オォ……オォォ……ッ!!


 すんげぇ叫び声が響いたのでやんのね。

 炎は消えたのだ。

 一方で、黒色の怪物どもが俺たちの周囲には変わらず残されていた。


(やっぱり死……?)


 目の前には闇ゴリラであって、俺の神格解放については種切れ。

 リリーさんは隣にいるけど、生き残れる気はあんましないよね。

 

 多分、リリーさんもそう思ったのかな?

 だから、ぐわし。

 この子は不意に俺を両手でつかんできた。

 んで、ぐるんぐるん。

 とんでもない速さの旋回が始まり、そして、


「きゅ──────っ!!!」


 まぁ、叫び声も含めてハンマー投げだよね。

 俺はとんでもない勢いで空を切り裂くことになった。

 考えるまでも無かった。

 リリーさんは俺を死地から逃そうとしてくれたのだ。


 一方のあの子は敵の渦中だ。

 猛然と遠ざかっていく敵地にて、リリーさんは俺に可愛らしくサムズアップを送ってきた。

 ここは私に任せておけ。

 きっと、そんな意思の込もった振る舞いであった。


(リリーさん……)


 あの子の献身に、俺はとある思いを抱かざるを得なかった。

 もうちょっと他に何かありませんでしたか……?

 だって俺、とんでもない勢いだし。

 低弾道でとんでもない速さで飛んでるし。

 安全な着地なんて夢のまた夢だ。

 墜落先がシリカゲルの海でも無ければ、俺は順当に天に召されることになるだろう。


(なんだかなぁ)


 あの子ね、わりとフィーリングで生きてるよね。カッコよさそうなのを即断即決してるよね。

 神格解放は温存出来ているのだし、他にやりようはあったような気がするけどねぇ。


 まぁ、今さら文句を言っても始まらない。

 俺はスキル形状変化でパラシュート的に生存を図ろうとするが、うわぁ。風圧すっご。

 風の抵抗が強く、変化なんて無理無理の無理であった。

 では、どうなるのか?

 もはや地面は近いわけで、まぁ、そうなるんだろうね。

 ただ、


「ひ、ひぃぃっ!?」


 なんか俺がよく上げるような悲鳴を耳にすることになったのでした。

 次いで、衝撃……が無い?

 正確には、さほどでも無い。

 視界がぐるんぐるんとしたが、これも痛みは無い。


 回転が収まると、俺は状況を理解することになった。

 俺の頭上には、ぜぇはぁと荒く呼吸を続けるユスティアナさんの顔がある。

 な、なるほど。

 どうにも、俺は彼女に受け止めてもらえたようだった。

 さきほどの回転は、彼女が地面を転がりながらに俺の勢いを吸収してくれたからだろうね。


 しかし、これはふーむ?

 俺は恐怖で縮こまることになった。

 ユスティアナさんの表情だが、それは明らかに俺の無事を喜ぶものでは無かった。

 怖いね。

 この人、こんな剣呑な表情をされることもあったのね。


「み、御使い様っ!!」


『は、はいっ!!』


「貴方はいつもいつも何で迂闊極まりないことをやらかしてくれるのですか!! 一歩間違えば一体どうなっていたことか!!」


『す、すみませんすみません。でもこれ、今回は俺じゃなくて……』


「言い訳しないっ!!」


 俺はすんと黙り込むしかなかった。

 実際、俺の迂闊な行動は枚挙まいきょにいとまが無いからね。

 今回はリリーさんのせいだけど、俺に反省が必要なのはただの事実なのだ。んで、怖いし。これ以上食い下がる勇気とか無いし。


 ともあれ、俺は一安心だった。

 ユスティアナさん、元気そうだね。

 アリシアさんを相手にして、そう長く持つとは思えなかったのだ。

 間に合わなかったらどうしようかと不安に思っていたけど、これは本当うれしい結果だった。

 ただ、


『あ、あの……リンドウさんは?』


 これは大きな不安の種であった。

 俺を見つけたらすぐに近寄ってきそうなあの子なのだが、その姿はどこにも見えない。

 激闘の末に……なんて嫌な予感を禁じ得ないのだが、ユスティアナさんが見せたのは安堵を呼ぶ笑みだった。


「心配はありません。神格解放が切れたので、集落の方に退避させました」


『そ、そうでしたか。それは良かった』


「そちらのリリーさんは?」


『あの子も問題はありません。黒いのを相手にしているだけですから』


 神格解放が残っているし、相手はせいぜいが闇ゴリラだからね。

 俺という足手まといさえなければ、あの子が苦戦する要素は無いことだろう。

 ユスティアナさんもまた安堵の笑みをもらす。

 だが、間髪入れず、彼女は表情に緊張感を漂わせた。


「御使い様。不意にクトゥグァの気配が消えました。貴方が戻ってきたこともあれば、これはつまり……」


 当然と言うか、ユスティアナさんは結果について気にしているようだった。

 そして、それは彼女もということになるだろうか。


「……ふーむ? 」


 その怪訝そうな呟きは、もはやほとんど混沌の塊と化したアリシアさんのものだった。

 上半身をわずかに残すばかりとなった彼女は大きく首をかしげていた。

 数体の黒カニに襲いかかられたが、そこに動揺は無い。海獣の角と思わしきもので串刺しにする。

 ただ、黒カニの末路は彼女の気を引くものだったのかどうか。

 黒い霧が宙に舞うと、それを不思議そうに見つめる。


「……今までには無いことですね。クトゥグァが自ら退しりぞいた? 分かりません。これは一体どういうことなのでしょうか?」


 アリシアさんは俺をじっと見つめてくる。

 ユスティアナさんもまた、期待の眼差しを懐にいる俺に向けてくる。

 残念ながら、俺に返す言葉は無かった。

 だって、何が起こったのかさっぱり分からないし。

 高等炎術っぽいもので焼き殺されるかと思ったんだけど、それは杞憂きゆうでの現在で、本当一体何が?


(あっ、そうだ)


 黒色たちに邪魔されたけど、俺はステータスを確認しようとしてたっけね。

 ということで、


 ───────《ステータス》───────

【種族】グリーンスライム《加護:クトゥグァ》

【神格】地母神[第6級]


レベル:212 

神性:110,562 [+10,000,000]

体力:201/201

魔力:172/197

膂力:71

敏捷:68

魔攻:70

魔防:65


【スキル】[スキルポイント:12]

・光合成Lv35

・種子生成Lv50

・土壌改良Lv15

・木獣使役Lv2

・形状変化Lv5

・硬化Lv10

・促成栽培Lv6

・神格解放Lv1

・神格解放[クトゥグァ]Lv1

・聖性付与Lv2

・意思疎通Lv1

・耐火Lv5

 ──────────────────────


 確認してみたのだけど、まぁ、はい。

 クトゥグァさん、加護ってくれてますやんね。

 

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