98:時間稼ぎのお時間(2)

 トロピカルフルーツたちの襲撃に対し、アリシアさんを始めとして触手ヅラたちの反応は鈍かった。

 

 まぁ、果物だしね。

 攻撃性があるようには欠片も思えないだろうし、慌てて迎撃するつもりにはなれないのだろう。

 ただ、実際はそんな無害では無いと言うか、ただの誠意の塊では無かったりした。

 触手ヅラの一体が、飛んできたマンゴーを腕で払おうとする。

 すると、


「な、なっ!?」


 困惑の悲鳴が上がった。

 振り払われるだけのはずのマンゴーが、触れた途端に爆発したのだ。

 まぁ、火薬的なものとは違うので、爆発自体に威力はそれほど無い。

 ただ、効果はなかなかのものだった。

 数多の果物が爆発し、果汁が霧のようになって飛び散った。

 そして触手ヅラの多くは手で顔を覆うことになっていた。中には両手で顔を覆ってうずくまる者もいた。

 なんとも辛そうだけど、この結果の原因は南国フルーツ勢に付与された特性にある。


 ──────《果物(色々)》──────

・糖分増加Lv50

・強靭Lv50

・発酵促進Lv50

・アレルギー性強化Lv50

 ───────────────────


 爆発の原因は、糖分増加と発酵促進にあった。

 ふんだんに過ぎる糖分が盛大に分解発酵された結果、果物はガスでパンパンになっていたのだ。

 本来の果物であれば、とっくの昔に破裂していたんだろうけどね。

 そこは強靭によって抑え込んでおきましたので、だからこそ派手な爆発に繋がったわけですね、はい。


 んで、次にものを言ったのがアレルギー性強化だ。

 マンゴーなんかが人によってはカブれるものとして有名だろうけど、その辺りの性質をこれまた盛大に強化。

 まぁ、あの連中がアレルギー反応なんて起こすの? って不安はあったんだけど、生命の範疇では一応あってくれたみたいだね。

 飛び散った果汁を浴びた彼らは、けっこうな苦痛を味わってくれているようだった。うーむ、痛そう。かゆそう。


 ただ、彼らはもっと痛い目に会うことになった。

 果物爆弾は機先を制するための小道具に過ぎないのだ。

 ユスティアナさんがすでに動いていた。

 瞬きの間に、長剣を一閃。

 うずくまる触手ヅラの首を斬り飛ばす。


「遠慮はするなっ!! 我らが実力をもって、邪教のともがらどもを殲滅しろっ!!」


 ということで、はい。

 第2ラウンドの開始だ。

 武力をもって時間を稼ぐお時間の始まり始まり。


 リリーさんが「きゅーっ!!」なんて飛び出して、集落の戦士たちがそれぞれの得物を手に後に続く。

 ちなみに、リンドウさんは訳あって俺の隣でお留守番ですが、ともあれともあれ。

 先制は完全に成功した。

 数には劣れど、戸惑いうろたえる触手ヅラたちを圧倒する。


(ただ……うーむ)


 俺は優勢を喜ぶ気にはなれなかった。

 負傷させたところですぐに回復されてしまっているということもあるが、それ以上に彼女がねー。

 

 簡単な相手なんかじゃ間違いなく無いのだ。

 案の定として、アリシアさんに動揺は無かった。

 逃げ惑う触手ヅラの1人の肩を淡々とつかんだ。

 そして、破裂させた。

 得体の知れない黒い液体が、大きな円を描くようにして飛び散る。

 液体はうごめいた。

 そして、途端に形を作っていく。

 イソギンチャクめいた触手の塊が無数に生じる。

 海魔と呼ばれていたイカだかタコだかの化け物が5体、6体と巨体を露わにする。


無様ぶざまな振る舞いは控えなさい。我らは尊き方のにして使徒。ふさわしき振る舞いがあるはずです」


 まぁ、彼女はさすがだよね。

 この行動と言葉で雰囲気は一変した。

 触手ヅラたちに冷静さが戻る。

 彼らはきっと武人では無いが、強力な存在では間違いなくあった。

 自らから触手を生やし、それを束ねては槍のような得物と為す。 

 反撃に出てきた。

 数の優位もあり、異形としての回復力もある。

 俺たちを押し返してくる。


 その最中で、アリシアさんは俺をじっと見つめてきた。

 この程度では無いはずだ。

 そんな願いの籠もった視線に思えた。

 実際のところ、現状の俺たちに決定打は無かった。

 彼女の期待に応えることは現状では出来ない。

 ただ、時間を稼ぐ方策については練って来ている。 


(さーて)


 クトゥグァが現れることを願いつつ、俺は人事を尽くすとしましょうか。

 神格解放。

 原始なるふるき創造神の残滓ざんし

 バフマシマシパンジーはいつも通りとして、今回は新顔を予定していた。

 時間稼ぎ以上の働きを期待出来る新顔であり、早速ご登場願うとしましょうね。

 

「あら?」


 アリシアさんは首をかしげて足元を見下ろす。

 そこには、パンジーに混じって妙な葉っぱが生えてきていた。 

 あえて言うなら蝶々の羽っぽい?

 開いたり閉じたりしそうな見た目で、実際その通りに動く代物しろものだ。

 それは無数に生まれ、急速に成長した。

 葉っぱの直径は10メートルじゃ収まらない程度になったかな?

 現実感が無いほどのサイズに広がり、そしてパクン。

 閉じた。

 触手イソギンチャクやら海魔やら触手ヅラやら。

 色々なものを巻き込んで、固く閉じた。

 そして、じゅーじゅーじゅー。

 なにかが溶けるような嫌な音が響き始めたのでした、まる。

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