95:打開策(2)

 (う、うーむ)


 俺はぐねぐねともだえずにはいられなかった。

 期限はやはり5日。

 アリシアさんが現れるまでの5日。

 いや、場合によってはもっと短くなる場合もあるか。

 ルルイエを完成させるより先に、生贄を確保してしまいましょう。

 そんな方針転換があっても別に不思議では無いし。


(となると、どうだ?)


 俺には神格がある。

 地母神、第11級だっけか。

 重要なのは、その11という数字だ。

 これが上がると何かしらの意味が生じるというのがこれまでであった。

 ただ、本当にどう?

 12に上がるまでに必要だった神性が、確か1000。

 そして、11に上がるために必要だったのがドドンと増えて100,000。

 10級に上がるにはどんだけ必要なんだろうね?

 正直、考えたくも無いよなぁ。


(む、無理か?)


 わずかに5日では神性の上昇には期待出来ない。

 そんな結論を出さざるを得ないような気が。


『ぶ、ブワイフさん?』


 どうか素晴らしいご助言をいただけないでしょうか?

 そんな念を込めた呼びかけだったけど、あ、ダメそうですね。

 ブワイフさんは真顔で肩をすくめる。


「打開策を求めているのだろうが、そんなものが簡単にあってたまるか。ちなみにだが、ワシは力を貸せんぞ。お前が力不足だったとして、これからもアリシア様をお支えしなければならんのだ。一緒に排除されるのは御免ごめんこうむる」


『は、はい。その辺りはえーと察しておりますが……打開策の方はまったく?』


「無い。そもそもとしてクトゥルフは強大なのだ。対抗出来るのは、真性なるジョブ=ニグラスか、本体として顕現けんげんせしクトゥグアか、あるいは異界のまだ見ぬ邪神どもか……ともあれ、無い。しょせん人の域に収まっているワシ程度に考えつくものは何も無い」


 俺は思わず天を仰いだ。

 なんだか、俺たちが何を相手にしているのかっていうのをあらためて分からされた感じだよな。

 化け物を相手にしていると言うよりは、理不尽そのものを相手させられていると言うか。

 ブワイフさんのおっしゃるように、人間が頭を絞ったところでどうにか出来る相手じゃないんだろうねー。


 まぁ、だから考えるのやーめたとはいかないのだけど。

 本当に何も無いのか?

 アリシアさんを打倒し、未来に希望を持ってもらえるような方策は無いのか?


(……そう言えば?)


 俺はぐねりとして思い出す。

 本当そう言えばだけど、アレ何だったんだろうね?

 クトゥグァ。

 ブワイフさんがその名を口にしたからこそ思い出したのだけど、あの存在についてずっと引っかかっていたことがあったような。


『あのー、ブワイフさん?』


「無い。悪いが、もうワシには聞いてくれるな」


『い、いえいえ、対策の話では無くってですね。クトゥグァについてなんですけど、ブワイフさんは声を聞いたことがありますか?』


 俺のこの疑問はよっぽど奇妙に響いたらしい。

 ブワイフさんは「は?」と眉間に深くシワを寄せる。


「クトゥグァの声だと? いきなりどうした? わけが分からんぞ」


『ちょっと気になったと言いますか。耳にされたことなどは?』


「あるわけが無かろう。現在に至るまで一度として無い」


 俺は『んー?』とちょいと考えることになる。

 やっぱりと言うか、他の人には聞こえて無かったっぽいよね。

 クトゥグァの出現の前触れ的に、俺は妙な声ないし意思を確かに耳にしたのだけど。

 全てはビビリスライムの幻聴である。

 現状そんな結論もありだけど、違う可能性が俺の脳裏には浮かんでいた。

 意思疎通。

 そんなスキルが俺にはある。

 思えば、クトゥグァとの初対面ではあんな声を耳にはしなかったよな。

 あの時、俺には意思疎通は無かった。

 となると、どうだ?

 意思疎通を持つ俺は、クトゥグァと意思を交わすことが可能だったりします?

 そうなると、これは……ふーむ?


『……ブワイフさん。1つ思いついたことがありまして、お聞きいただいても?』


 と言うことで、俺は脳裏に浮かんだあるアイデアをブワイフさんに伝えさせてもらった。

 んで、それに対する反応はと言えば、


「お前、やっぱりバカだろ?」


 そんな深い呆れを含んだ罵倒だったのでした。

 ただ、「他に策は無かろうな」と、悩ましげな一言もオマケで付いてきた。

 本当そうだよなぁ。

 バカな策だとは俺も思うが、他に策は無い。

 この路線でちょっとがんばってみるしかないかもね。


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