93:わけあって、ルルイエ再び(2)
『それは無いと思っています。あの人が何故クトゥルフを選ばざるを得なかったのかを考えればそれはまぁ』
これが俺の返答だった。
アリシアさんが俺に協力してくれるはずが無い根拠としての返答。
彼にとって、これは及第点だったのかどうか。
ブワイフさんは「ほぉ?」なんて感心の響きを漏らした。
「そうか。間の抜けたお前だが、そう思ったか?」
『間の抜けた俺でもそのぐらいは。彼女は人類を存続させる力があると期待して、邪悪であってもクトゥルフを選ばれたのだと思います。一方で、俺はどうなの? って話でして』
案の定として、彼は同意の頷きを見せてくる。
「まぁ、そうだな。お前は間の抜けた人の良さは十分に見せつけてきたが、頼るに十分な実力は見せてはおらん」
『俺が魚顔の皆さんを解放しようとするとして、あの人は全力で阻止して来ると思います。俺たちの実力を試して来ると思います。そして、不足と判断した時には……クトゥルフによる平穏を邪魔する敵として、俺たちを排除することでしょう』
それがユスティアナさんたちと話し合った末の俺の見解だった。
ブワイフさんが見せた反応は今回も頷きだ。
「だろうな。あの方の念頭にあるのは人類の生存だ。そのためにとクトゥルフに全てを捧げてこられた。しかし、お前にとっては災難だな」
『へ? 災難?』
「災難以上に不条理か。アリシア様にせっつかれてやる気を出してくれたようだが、そのアリシア様はお前を歓迎するでも無く殺しに来るのだからな」
俺は苦笑的な意思を漏らさざるを得なかった。
それは本当、確かに。
アリシアさんの求めるように行動したのに、そのアリシアさんによって排除される可能性が存在しているのだ。
ただ、この辺りは仕方ないだろうかね。
そもそもとして、この世界がたいがい不条理だろうし。
『とにかく、えぇ。俺たちはアリシアさんとの激突は必死だと考えています。そして、必ず勝たなければいけないと考えています』
「そのための今日か? アリシア様の実力を測るため、彼女をよく知るだろうワシに会いに来たか?」
『はい。その通りです』
「そうか。それはお前にしては悪くない慎重さだな。ただ……あまり期待はするなよ」
俺はかなりのところ嫌な予感に襲われるのだった。
眉をひそめる的な心地でブワイフさんを見つめる。
『期待はするな……ですか? 協力は望めないということで?』
だとしたら困るどころじゃないけど、ひとまずは幸いだろうか。
ブワイフさんはすぐさま首を左右にした。
「そうでは無い。協力はしてやる。期待
『え、えーと?』
「仮に、お前がアリシア様に打ち勝つことが出来たとして、お前の望むようにはならない。そういう話だ」
俺は思わず『あぁ』と漏らしていた。
俺がなんとなく察するぐらいだから、そうだよね。
側近であろうこの人が、そのことに気づいていないはずが無いよね。
『断罪……でしょうか?』
これは彼にとって予期せぬ返答だったのだろう。
ブワイフさんは魚の眼を大きく見張った。
「これは……驚いたな。そこに気がついていたか。正直、お前の察しの悪さは相当だと思っていたが」
『ま、まぁ、はい。察しは悪いですが、我々にはユスティアナさん……アリシアさんと姉妹のように過ごしていた方がいらっしゃいますので』
「ユスティアナ? ほぉ、そうか。あやつは生きていたか。ならば、お前の理解の助けにもなっただろうな」
俺はぐねりとなることになる。
どうにも、ブワイフさんとユスティアナさんは知り合いなのかな?
なんとも気にはなるが、今は脇に置いておくべきか。
今語るべきは、アリシアさんについてなのだ。
『やはりその、ブワイフさんもそう思われますか? 俺たちが十分な実力を見せることが出来たとして、彼女は協力してくれることは無く別の道を選ばれると?』
「あぁ。お前が十分な実力を見せることが出来たとして、アリシア様は喜んでクトゥルフによる平穏を諦めになられるだろう。喜んで、滅びの時を迎えることを選ばれるだろう。これまでの
ブワイフさんは淡々と俺を見つめてくる。
「お前はどうにもお人好しだからな。忠告しておいてやるが、その点は覚悟しておけ。お前に出来ることは、せめて報いを与えることのみだ」
彼の助言は、きっと俺のためでありアリシアさんのためであった。
その時に遭って、俺が迷わずにすむように。
アリシアさんが、満足出来る終わりを迎えられるように。
ただ、うん。
ありがたい助言だったけど、素直に頷けるのかと言えばそれはちょっと違うのだった。
『……圧倒的に打ち勝つことが出来たらどうでしょうか?』
唐突な俺の尋ねかけに、ブワイフさんは
「圧倒的に打ち勝つ? それはアリシア様を相手にしてという話か?」
『はい。平穏な世界は間違いなくやってくる。そう思ってもらえるような戦いが出来たなら、どうでしょう? 彼女はその時まで生きてみようって思ってくれるんじゃないでしょうか?』
これは俺だけの願いでは無かった。
ユスティアナさんはもちろんとして、他の人間の方々も多くはアリシアさんに同情的だったのだ。
ただ、間違いなく
ブワイフさんは呆れたように鼻を鳴らした。
「ふん。まだ勝算もついてなかろうに、とんだ
『ま、まぁ、はい。なので、教えていただけませんか? アリシアさんの実力は? 俺たちはどうすればあの人に勝てると思いますか? 圧勝することが出来ると思いますか?』
ということで、巡り巡っての再びの本題だった。
未来を
しかし……う、うーむ。
正直、返答が怖いような。
無理。
そんな一言を返されたら本当どうしようね? いや、どうしようも無くなっちゃうよね?
緊張してその時を待つ。
ブワイフさんは触手のヒゲを黙してさすり続けた。
そして、
「まぁ、無理だな」
彼の返答は結局こんななのでした。
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