91:では、そういうことで
『……あら?』
俺は思わず周囲を見渡すことになった。
久しぶり……でも無いけど久しぶりな気もするような。
どこまでも広がる白の空間。
ここはアレだね。
例の空間だよね。
当然のこととして、俺の目の前には例のあの方がいた。
古代チックな服装をされている、美人だがぶっちゃけ怖い系の推定女神様だ。
どうだろうね?
ユスティアナさんと一緒に、みんなの元に戻ったまでの記憶は確かにあるんだけど。
考えすぎの知恵熱からのバタンキューってのが、ここに招待されるまでの流れかな?
まぁ、そこは別にどうでも良いけど、気になるのは理由か。
何故、彼女は俺をここに呼び寄せたのか。
『しゃ、謝罪でしょうか……?』
まず頭に浮かんだのがそれだった。
そう言えばだけど、この方のおっしゃったことを俺はまったく信用しなかったからね。
その点について土下座なりを求められると思ったのだが、彼女は『は?』と眉間にシワを寄せた。
「藪から棒になんですか? 意味が分かりませんが」
どうやら予想は的外れであったらしい。
となると、どうだ?
俺がぐねりとして見つめていると、女神様は静かに口を開いた。
「……伝えておくべきかと思ったのです」
『伝える?』
「私は貴方に多くを求めるつもりはありません」
俺は女神様をじっと見上げることになる。
例に洩れず、俺の現状を把握されているみたいだね。
となると、多くを求めないっていうのは、まぁ、きっとそういうことだろう。
(俺に救世的な働きは求めないってことだよな)
俺は再びぐねりとなる。
今まで多分とか推定とか枕につけてきたけど、この人アレだよね。
ユスティアナさん曰くの真なる神。
アリシアさんの曰くだと、この地の神だったっけか。
とにもかくにも、神様だ。
この地の人々のためにと、転生者を遣わしてきた御本人。
『多くを求めないのですか?』
むしろ、俺に求めたい存在筆頭みたいな気がするけどねぇ。
ただまぁ、前言の通りらしい。
女神様は「ふん」と軽く鼻を鳴らした。
「当然です。貴方に力も姿も与えなかった私に、多くを求める資格など無いでしょう」
なんとも不条理とは対象にあるご発言だった。
正直、当たりはキツめなこの人だけど、そうねぇ。
実際、優しい神様なんだろうね。
俺はちょいと天を仰ぐ。
その優しい女神様はなんとおっしゃったか?
多くを求めないと確かにおっしゃったのではなかったか?
嬉しいお言葉のはずだった。
ヘタレな俺は安堵を覚えても良いはずだった。
女神様のお達しなんて、何もしない言い訳としては最上級だろうし。
ただ、うん。
俺の胸中はといえば、なんとも言えずまっさらな感じなのでした。
何もあまり響いていないと言うか。
(なるほど)
俺は納得の心地だった。
果たして自分はどうしたいのかって悩んでいたけど、本当なるほど。
俺は今、そんな感じなわけね、ふーん。
「……そうですか」
そして、何かをお察しになられたような女神様でした。
俺はちょっと先に詫びておくことにした。
『すみません。何もかも台無しになるかもしれません』
俺が関わるとなると、そりゃその可能性が濃厚なわけだしねー。
女神様は俺をじっと見下ろしてきた。
そして、ポツリと口を開く。
「今の私にさしたる力はありません。現世を変えうる何かはもはやありません。ただ……」
『ただ?』
「必要とあれば呼びなさい。必要であり、呼ぶことが出来るのであれば」
俺は何度目か分からずのぐねりだった。
必要であり、呼ぶことが出来るのであれば。
そうねー。
そんなシチュエーションはパッと頭に浮かばないけど、その時はお頼りさせていただくとしましょうか。
と言うことで、さてはて。
『では、女神様。そういうことで』
彼女は頷いた。
俺もまた頷き的な動きを返した。
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