78:遥かなる白亜の都

 俺はマジマジと偽聖女さんの心配の表情を見つめる。

 に、人情味はあるよなぁ。

 なんか心を許したくなるような雰囲気を彼女は確かに持ち合わせている。

 これは……信じるべきか?

 女神様のおっしゃったことを信じるべきだろうか。

 どうせと言うか、俺が偽聖女さんに対抗するのは無理だろうし。

 逃げ出そうとしても不可能に違いない。

 だったら思い切って、偽聖女さんに──いや、アリシアさんに黙って従う。

 それしか無いんじゃないかな?


『……大丈夫です。体調についてはまったく』


 俺がそう応じると、彼女は安堵したように笑みを浮かべる。


「それは良かった。ですが、不思議ですね。貴方であれば、現状にもっとこう慌てふためきそうなものでしたが」


 俺に対する的確なご理解なのでした。

 ただ、俺は覚悟を決めたのだ。


『えぇ、今さらですから』


 無駄にあがきません。

 逃げ出そうともしません。

 貴女に従いますよ、ここまで来たからにはね。


 アリシアさんは一瞬不思議そうに首をかしげられました。

 そして、


「それは良いことです。生贄とするのに、これなら無用な手間は無さそうですね」


 花開くような笑みでそう口にされたのでした。

 うーん。

 どうかなぁ。

 なんか前言を撤回したくなってきたなぁ。


(い、いやいやまだまだ)

 

 まだ撤回にはきっと早かった。

 女神様はおっしゃったのだ。

 彼女は誰よりも聖女だったって。

 きっととんでもなく優しい人に違いないのだ。

 俺を生贄にするとか、そんなの出来っこ無いに決まっているのだ。


「あっ、そろそろです。見えますよ」


 俺は思わず『へ?』と漏らした。

 不意の不思議な発言だったけど、その意味は何なのか?

 気がつけば、枯れ木の森は終わりのようだった。

 視界が開ける。

 どうにも高台へと出たらしい。

 それなりの高さだった。

 空が近く感じられ、その青さが清々すがすがしく目に眩しい。

 ただ、のんきに空の青さに目を細めてはいられなかった。


『……都市?』


 そのようなものが視界に映っているのだ。

 かなり遠く、地平線の近くである。

 背の高い建築物群らしきものが見えているような気がした。

 海も見えるか?

 地平線は一部水平線のようであり、つまり港街?

 海を間近にした人の営みが……あるのか?

 不思議な違和感があった。

 なんか神殿っぽいんだよな。

 白亜の神殿群。

 大理石造りの荘厳な何かが、数え切れないほどに立ち並んでいるような感じがするような。

 誰かが暮らし生きているような雰囲気とはどこか遠くて……なんだろうな。

 妙に不気味だよな、正直うん。


 ただ、彼女にとってはそう映るものでは無いらしい。

 満足げに、そして愛おしげに目を細める。


「見えますか? アレがルルイエです」


『る、ルルイエ……?』


「正確にはそれを模した物になります。尊き方のこの世界における寄る辺となるべき都です」


 そして、ニコリだ。

 彼女は嬉しそうに俺を見下ろしてきた。


「まったく僥倖ぎょうこうでした。貴方のような素晴らしき生贄を得ることが出来るとは。これで世界が安寧を取り戻す日がまた一歩近づきました」


 俺はなんともかんとも。

 そうねぇ。

 女神様ねぇ。

 是非とも、もう1度お会いしたいよね。

 弁明……では無くて、詳しい説明をお聞かせ願いたいよね。

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