76:お久しぶりでございます
久しぶりということになるのでしょうかね。
この真っ白な空間がまずそうだ。
そして、俺の前で膝を揃えてしゃがんでいる彼女についてもそう。
藍色のしとやかな長髪に、どこか神秘的に光る金色の
古代ちっくな
くだんの推定女神様で間違いありませんよね。
彼女はなかなか印象的な表情をされているのでした。
眉間に、それはもう深くまた深く。
まぁ、はい。
彼女がどんな心中にあるのか?
そんなの考えるまでも無いよね。
『お、お怒りで……?』
おそるおそる問いかける。
すると、彼女はさらに深々と眉間に谷を
「……そうではありません」
ただ、思いがけない返答でありまして。
俺はすかさず疑問の声だった。
『そ、そうなのですか?』
「そうです。この
多分だけどね。
貴女、お怒りだと思います。
よく見ると、眉間でシワがピクピクしていますし。
怒り心頭としか表現しようがないと思いますよ、えぇ。
ともあれ、違うのだ。
彼女は明らかに噴火寸前で恐ろしいし、俺は自身の迂闊さについて猛省すべきだとは思うのだ。
だが、今気にすべきことはきっとそこじゃない。
『き、気絶っ! 気絶ですよねっ!?』
偽聖女さんの本好きを怒らせそうな一撃によって、俺は見事に意識を刈り取られることになったけどさ。
き、気絶だよね?
アレが致命傷になったわけじゃないよね?
俺、まだ死んでは無いですよね?
どうやら、自らの怒りよりも返答を優先してくれたらしい。
彼女は眉間にシワを寄せたままで頷きを見せた。
「そうですね。気絶です。それを利用して、私は貴方を呼びましたから」
俺はホッと心底安堵だった。
よ、良かったぁ……
迂闊な行動の末に、皆さんを残して退場なんてことにならずに済んで本当に良かった。
ただ、そうだね。
手放しで安堵していられる状況では無いよね。
偽聖女さんは運ぶに楽なんて言ってたっけか。
よって、運ばれているのだろう。
現実の俺は、彼女によっていずこかへ。
(う、うーむ)
少なくとも、楽観は無理でした。
よく分からないところの多い偽聖女さんだけど、味方では間違いなく無いわけで。
ユスティアナさんは、今日の襲撃は生贄目当てみたいなことをおっしゃっていたよなぁ。
だから、あるかもね。
レアドロップな生贄として俺が運ばれている可能性は……まったく否定出来ないよね。
(えーと、結局?)
現状が気絶であったところで、死を先送りにしているだけ。
そんな目算が高そうだよなぁ。
(……どうしましょう?)
さすがにまだ死ねないため、俺は頭を絞ることになる。
どうすれば助かることが出来るのか?
偽聖女さんの魔の手から逃げ出すことが出来るのか?
まぁ、そうだね。
何も浮かばないね。
彼女が俺並みの迂闊さを発揮してくれるぐらいしか見込みは無さそうだよな。
俺単独で彼女に
海魔だっけか?
化け物イカを出されでもしたら、それでもうおしまいなのだ。
そして、彼女の力はいまだ底知れ無いわけで。
さらには、彼女には仲間がいるかもなわけで。
むり。
結論としてはそうなりそうだね。わはははは。
よって、俺は女神様を見上げます。
期待を込めて、見つめさせていただきます。
何故ってそうなのだ。
困った時の神頼み……的な何かであるのは間違いないけど、うん。
ちゃんと勝算みたいなのがあるのでした。
この方、おっしゃったよね?
気絶を利用して、俺を呼び寄せたみたいなことを。
きっと理由があるのだ。
呼び寄せたのであれば、そこにはきっと何か理由がある。
前回はアレだったよね?
だから、きっと今回も、
『あ、あの、何かお力
期待させていただいても良いんじゃないかって俺は愚考するのでした。
んで、彼女は「あ゛ぁ?」でした。
なんかこう剣呑にうなって、俺を
「何を都合の良いことをほざいているのですか。ありません。そんな
まぁ、はい。
この展開もある程度は予想していたけどね。
やはり現実は非情みたいですね。
まぁ、そんなものであり仕方はなし。
そう、仕方ない。
ただ、そうね。
ちょっとね、本当にヤバい感じがこうヒシヒシと感じられるようになってきましてね?
『ひ、ひぃぃっ!?』
もうね、落ち着いてらんないのでした。
ぴょんぴょこゴロゴロと動き回らざるを得ないのでした。
だって、ヤバいし。
もう詰みって感じがすごいし。
俺の迂闊さが、最悪の結果を招いたって感じしかないし。
ど、どうしよう?
どうしようも無いけど、どうしよう?
どうにかなんとかどげんか……って、むぎゅ。
「落ち着きなさい」
物理的にはまぁ、はい。
俺は落ち着くことになったのでした。
女神様的な彼女によって、俺は片手でむぎゅっと鷲掴みにされておりまして。
ただ、それでも内心はと言いますと、
『そ、そう言われましても……』
ちょっとまぁ無理ですよね。
心ここにあらずであり、頭は真っ白であり。
そんな俺は彼女にはどう映ったのか?
女神様は「ふぅ」と呆れたように息をついた。
「大した慌てふためきようですね。やはりここに1度呼び寄せておいて正解でしたか」
俺は少しばかり動揺を忘れることになりました。
なんか、理由があるっぽい?
あるいは、俺の迂闊をなじるためだけに呼び寄せたのじゃないかって思えたのですがね。
今の口ぶりからすると、それ以外の理由があるっぽい?
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