69:光明?

(……死にてぇ)


 ユスティアナさんに失望されかけている。

 これが、けっこうなダメージなのでした。

 よく考えると失望されるというのは初体験かもね。

 そもそも、信頼されないというのが俺の生き様であって。

 こうして信頼を裏切るというのは初めてかなぁ。

 

(……ぐおー)


 溶けて消えちゃいたい。

 そこが正直なところだけど、だ、ダメだよね。

 ザ・無価値であった前世とは違うのだ。

 今の俺は、そう簡単には死んではいけないのである。


 とにかく、あがくしかなかった。

 化け物イカ、そして偽聖女さん。

 これらの脅威を打ち払って、なんとか平穏を取り戻さなければならないのだ。


 よって、俺はユスティアナさんを見つめ返すのだった。

 そう言えばだけど、彼女は……アレだよね?

 聖女。

 聖女へのこだわりみたいなのを見せていらっしゃったよね。

 俺の神格は上昇したのだ。

 そして、俺はそれなりにスキルポイントに余裕がある。

 よって、


  ───────《聖性付与》────────

・対象に対し、聖性を付与する[付与対象数:5]

・付与された対象は神性及び能力値に加算を得る。

※対象者の得られる神性への加算は、付与者の神性の1/10。

※対象者の得られる能力値への加算は、付与者の能力値の1/10。

・レベルの上昇により、付与対象数は増加する。

※付与対象数は神格の制限を受ける。

・レベルの上昇により、神性及び能力値に対する加算の割合が増加する。

※レベル2において、付与者の2/10が加算となる。

※レベルは神格の等級に制限される。

 ─────────────────────

 

 スキル聖性付与のレベルをね?

 上げてみた結果がコレでした。

 付与対象数は……5っ!

 では、早速なっていただきましょうか。

 俺は念じた。

 結果はすぐに生まれた。


「……え?」

 

 そう呟いたユスティアナさんは、青い目を大きく見張っていた。

 何が起きたのかって表情だけど、よ、よーしよし。

 ちゃんと聖性は付与されたのかな?

 彼女は自らを見下ろした。

 そして、剣を握っていない方の手を閉じては開いてを繰り返し……俺を唖然として見つめてきた。


「み、御使い様……まさか?」


『は、はい! そういうことです!』


「私が……せ、聖女に!?」


『そういうことです! 今の貴女はまごうことなき聖き……あら?』


 俺は思わずグネリでした。

 ちょっと彼女のステータスを確認したんだけどね。

 そこにある表記がちょっとこう……んー?


「御使い様?」


 ユスティアナさんは不審の声を上げられたのでしたが、そ、そうね。

 とりあえずは、これがベストだろうかね。

 俺はすかさず頷き的なものを返します。


『は、はい! 貴女は聖女です! 私はそう思います!』


「お、思います? なんだか不思議な発言に思えますが……そうですか」


 聖女の称号は、確かに彼女に力を与えたらしい。

 ユスティアナさんは偽聖女さんを鋭くにらみつける。


「覚悟しておくのだな、偽物。本物はいかなるものか? すぐにその身にも味合わせてやろうっ!」

 

 そうして、彼女は化け物イカに突撃した。

 当然、化け物イカはその触手を暴風のようにして迎撃してくるのだけど……おぉっ!!


 かなりの疲労はあるのだろうけど、その影響は欠片も見受けられなかった。

 彼女は触手を避けては、たちまちの内に斬り伏せていく。

 化け物イカと、単独で互角の立ち振舞いを見せている。

 この様子は、膝を突いていた人間さんたちにも力を与えたようだった。

 我らが聖女、と。

 これが本物の聖女の力だと、彼らは目を輝かせて声援を響かせており……そ、そうねぇ。


 ───────《ステータス》───────

【種族】エディア[聖騎士]

【神格】剣神[第12級]


レベル:1

神性:0[+20,424]

体力:111/161[+32]

魔力:152/120[+32]

膂力(x2):111[+23]

敏捷(x2):151[+22]

魔攻:65[+12]

魔防:72[+11]


【スキル】[スキルポイント:0]

 ──────────────────────

 

 ひとまずは黙っておく方が吉だろうかね。

 聖騎士。

 俺は好きです。

 カッコいいし、ユスティアナさんにピッタリだと思うし。

 でも、彼女の求めるところでは無いよね。

 彼女のテンションを上げてくれるワードでは無いよね。

 人間さんたちを盛り上げてくれるワードでも無いだろうねぇ。


(……後にしよっか)


 白状するのは、状況が落ち着いた後にさせていただきましょうか。

 どうかなぁ?

 騙したなっ!! かな?

 ズバッと一撃かな?

 まぁ、仕方ない。

 その時は甘んじて、キレイに2等分になってみせましょうとも。


 ともあれ、明らかに空気は変わった。

 ユスティアナさんは獅子奮迅ししふんじんの活躍を見せている。

 彼女を見守る人間さんたちは「おおっ!!」なんて歓声を上げ続けている。

 ただ、うん。

 実際、状況はあんまり変わってないんだよなぁ。

 彼女の奮戦はプラシーボ成分が強めだし。

 そして何より、化け物イカの再生力を貫く一撃は与えられていないし。


 そのことに気づいている人もいました。

 1人は偽聖女さんだね。

 彼女は変わらず憐憫れんびんの感情だった。

 奮闘するユスティアナさんを憐れみの目つきで眺めている。


 そして、もう1人……ならぬ1匹。


 まぁ、一番付き合い長いからなぁ。

 リリーさんは不安の表情で俺をじーっと見つめていました。

 多分、筒抜けなんだろうね。

 俺が焦りに焦っていることを分かっているのだろう。

 状況がはなはだよろしく無いことも理解しているのだろう。


 な、なんとかしたいよなぁ。

 リリーさんを安心させてあげたい。

 人間さんたちをぬか喜びでは終わらせたくはない。

 ただ、本当に何ともかんとも。

 現状、使えそうなスキルも特性も無い。

 光明が見出せそうな気配は欠片も……ん?


(いや?)


 俺はちょっと思い出すのでした。

 なんかあったよね。

 ユスティアナさんのステータスに何かあったのだ。

 聖騎士なるワードに目を奪われることになったけどさ。

 それ以外にも1つ、注目が必要なところがあったはずだ。

 神格。

 そんならんが彼女のステータスには確かにあったはずで……おや?

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