68:格付けチェック的な問題?

 神格が解放されました。


 ログさんのその1文によって、俺は湧きでるアドレナリンで溺れ死にそうになったものですが、


「み、御使い様っ!!」


 幸い、アホな死に様を遂げずにはすみました。

 俺は不意に響いた呼びかけに視線を上げることになる。

 そこには肩を押さえている中年の男性がいた。

 間違いない。

 元ノイズ源さんであり、ユスティアナさんと共に化け物イカと戦ってくれていたはずの1人だ。

 その1人が負傷してこの場にいる意味は何なのか?

 彼は懇願こんがんの眼差しで俺を見つめてくる。


「そろそろ限界です。何か進展は……?」


 俺はアドレナリンを忘れて冷や汗だった。

 あ、危なかったね。

 神格の上昇がこれ以上遅れていたら、手遅れになる可能性もあったわけか。


『だ、大丈夫ですっ! 神格はえぇ、上昇をっ!』


「お、おぉっ!! それは僥倖ぎょうこうっ!! では、失礼いたしますっ!!」


 彼は無事な手で俺をすくい上げてくれた。

 そして、駆け出す。

 化け物イカとの距離はわずかに500メートル。

 あっという間に巨体の姿が近づいてくるのだけど……う、うーむ。


 冷静さを取り戻して、俺は不安の極みだった。

 神格は上がったけどさ。

 はたしてそれが現状を変えてくれるんですかね?

 そこのところ、本当に大丈夫ですかね?


 実際のところを確認にする間は無かった。

 戦場に舞い戻ることになる。

 俺は心底納得だった。

 ほ、ほんとうに限界って感じだね。

 見渡す限りの絨毯のようであったパンジーは、今ではほとんど見る影も無い。

 その中で、人間さんたちのほとんどが満身創痍まんしんそうい

 体のあちこちを押さえた上で、地面に膝を突いている。

 隠しきれず荒い息を吐いている。


 無事に立っていられているのはわずかだった。

 リリーさん。

 ユスティアナさん。

 そして……彼女もそうか。

 化け物イカの主であろう偽聖女さん。

 彼女はゆったりとしたほほ笑みを俺に向けてきた。


「ユスティアナさんのおっしゃった通りですね。ずいぶんと人柄の良いことで、死地に戻って参られましたか。さぁ、どうぞ。何か準備をしていたようですが、どうぞ。お好きなようにしていただければ」


 俺は思わず彼女を見つめ返すことになった。

 やっぱり、その……妙な感じがあるよな。

 彼女の妨害が無かったこととあわせてだけど、やはり値踏みか?

 試されてるって、そんな感じがするような。


 ともあれ、眼前の状況は危機以外の何ものでも無い。

 どうにかしなければならなかった。

 その鍵を握るのは、神格の上昇であり、新たなスキルなり特性だ。

 これが頼みの綱でもあり……どうかなぁ?

 正直、不安しかなかった。

 化け物イカ退治にジャストフィットな代物しろものが、ずばり提示されてくれるのかどうか。

 そこは本当、分からないところだよなぁ。


「御使い様っ! お頼みしますっ!」


 ただまぁ、彼女たちは期待しまくってくれているみたいだね。

 ユスティアナさんは心から信頼していますって感じの笑みでした。

 んで、リリーさんもね。

 きゅーっ! なんて嬉しそうに鳴いて、俺に期待の眼差しを向けてくれていまして。


(……ひぇぇ)


 彼女たちの期待を裏切ってしまった時はね、そうね。

 潔く腹を切りましょうね、はい。


 とにかく、問題は異常な再生力なのだ。

 偽聖女さんにしても化け物イカにしても、攻撃力自体はさしたる脅威では無い。

 再生力さえどうにか出来れば、勝機は十分に見えてくるはずだ。


 よって、俺は乞い願う。

 ログさんよ。

 どうか我々に、あの連中の再生力を封じる術を示したまえ……っ!!

 で、はい。

 その結果はと言いますと、


 ────────《ログ》────────

・『候補』膂力増加Lv1[必要:1ポイント]

 ────────────────────

 

 ……はい。

 えーと、どう解釈すれば良いのか?


 俺はログを見つめつつに思案することになる。

 つまり、そう、うん。

 ログさんは威力不足を指摘されているのかもね。 

 もっと攻撃に威力があれば、再生される前に打倒出来ますよー? って。

 あるいはどうだ?

 回復量には限界があって、ダメージを与え続ければどうにかなるってことなのかな?


 貴重な知見ちけんでした。

 なるほどね。

 不死属性でもついているのかと思ったけど、そうでも無いわけか。

 本当、ログさんは頼りになるね。

 今度ともおすがりさせていただくことになるだろうね。


 ただ……しょ、正直違うんだよなぁ。

 

 意味のあるアドバイスだとは思うのだ。

 ただ、俺が望んでいたのはもっと、こう、ね?

 神秘パワーで再生禁止っ!! みたいな?

 そんなスキルなり特性を披露していただきたかったのだ。

 でもまぁ、


 ───────《ステータス》───────

【種族】グリーンスライム

【神格】地母神[第11級]


レベル:161

神性:102,121

体力:166/166

魔力:164/165

膂力(x2):126

敏捷(x2):114

魔攻:64

魔防:58


【スキル】[スキルポイント:35]

・光合成Lv35

・種子生成Lv30

・土壌改良Lv15

・木獣使役Lv2

・形状変化Lv5

・硬化Lv10

・促成栽培Lv4

・神格解放Lv1

・聖性付与Lv1

・意思疎通Lv1

 ──────────────────────


 注目すべきは神格のところかな。

 12級から上がりまして11級。

 そう、11級だ。

 一番上は1級なのかな?

 きっと俺なんて、神格界隈ではペーペーも良いところに違いないのだ。


 俺程度じゃ、比肩ひけん出来ない存在なのかもね。

 そのクトゥルフさんとやらにはね。

 その神秘とやらにはね。


 しかし、まぁ、うわー。

 こ、困るっ!!

 この状況は死ぬほど困らざる得ないんですけど?


「……何も無いのですか?」


 偽聖女さんは首をかしげていました。

 んで、「ふーむ」とひと息。

 俺に対してあわれみの目つきを向けてきます。


「やはりその程度ですか。では……終わりとしましょうか」


 化け物イカはにわかに大人しくしてくれていたんだけどさ。

 動き出した。

 俺が目当てのようだ。

 その灰色の瞳はどう考えても俺のことを見据えている。


「……み、御使い様?」


 そして、その呼びかけはユスティアナさんによるものだった。

 順調に俺への信頼が損なわれつつあるみたいだね。

 彼女の顔にあるのは、不安が9割みたいな半笑いなのでした。

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